幹事長就任にあたって

 

大阪公立大学 白藤 立

 

  2022年4月1日より2年間,プラズマエレクトロニクス分科会の幹事長を務めさせていただきます大阪公立大学の白藤立であります.2020年に発足30周年を迎えた伝統ある分科会がこれまで以上に活発な分科会となるように努めてまいりたいと思います.何分と非力な小職でありますが,何卒よろしくお願い申し上げます.
  現在のプラズマエレクトロニクス分科会の会員各位の研究は,CVDやエッチングなどの材料プロセスに加えて,バイオ,医療,農業,エネルギー,環境浄化などの様々な方向性と可能性をもった研究が推進されています.この状態に至るための原動力は,プラズマ分野を産業界として強力に牽引してきた日本の半導体産業の低迷の際に,分科会各位が「このままではだめだ」という意識を持ったからだと思います.これは,分科会発足当初の先生方が,その後大きく発展することになる半導体プロセスへと大きく舵を切ったことに相当する極めて重要な意識変革であったと思います(会報No.55).
  ただ,現時点では,新展開されているプラズマプロセスが,ドライエッチングのようにがっちりと社会実装されるには至っていませんので,時とともに淘汰されるのでは,という危機感もあります.その理由は,現在のドライエッチングのように,「これはプラズマだからこそできる」「プラズマ以外ではできません」という確固たる位置づけが,それを使う側の人達によって十分に認知されていないように思うからです.
  また,危機感を覚える要因として,応用に関する研究が多いことが挙げられます.かつてのプラズマ分野では,プラズマ中の物理化学過程を議論するための基盤である電子原子分子過程の研究がしっかりと行われていました.例えば,特定研究「原子過程科学の基礎」(昭和54年〜56年,代表者:高柳和夫)を挙げることができます(この当時,私は研究室に配属すらされていないのですが).こうした基盤を持つ方々が分科会を起こしたからこそ,半導体プロセスにおけるプラズマの問題に,プラズマ屋として取り組むことができたのだと思います.
  現在のプラズマエレクトロニクス分科会の中には,こうした基礎的な研究を推進されている方がずいぶんと少なくなっています.これが,土台の欠如につながらないかという危機感を持つ理由です(自分自身にとっても).現在の日本では,応用研究と比較すると,基礎研究の研究費獲得のための応募選択肢が少ないという状況が確かにあります.しかし,応用で研究費を獲得しつつも,裏では可能な範囲で基礎をやる,あるいは同じ志を持つ方々と基礎研究に関する(もしくはそれを含む)大型科研費を獲得して推進する,ということが必要ではないかと思います.
  分科会発足時は,「基礎ばかりやってたらだめだ」という意識でしたが,今は「応用ばかりやってたらだめだ」という逆の意識で,分科会を変革する時期にあるのかもしれません.
  着任早々にネガティブなことばかりで恐縮なのですが,「このままではだめだ」の意識は,変革のための重要な要素だと思いますので,分科会各位とともに,分科会の発展に尽力してゆきたいと思いますので,何卒よろしくお願い申し上げます.