量子エレクトロニクス研究会について

前委員長:宅間 宏(電気通信大学名誉教授)

1.本研究会の生い立ちと特徴
 学術領域としての量子エレクトロニクスは、1950年代の後半のメーザーの成功に刺激されて生まれたものである。
 メーザーは電磁波と相互作用する対象を諸々の原子・分子、固体中のイオン等の電子準位、更には半導体中のキャリアー、加速器によって加速された自由電子との相互作用に拡張することによって、マイクロ波からX線領域に及ぶ広大な波長領域のコヒーレントなフォトンを発生する様々な特性を持つレーザーに発展した。
 その結果、量子エレクトロニクスはフォトンと物質との多様な相互作用やそれらの応用を含む広大な領域の科学として発展を続け、その可能性は計り知れないものとなった。
 このような展開からも明らかなように、この研究会は、異なる基盤に立つ研究者の交流による更なる発展を常に考えなければならないという現代科学共通の宿命を、比較的早期に持って生まれたと云うことが出来る。
 従って、本研究会の持つ使命は、同じ専門の研究者が特定の領域の問題を突き詰めて行くだけでなく、異なった研究基盤を持つ研究者が、光との相互作用を通じて交流することによって更なる発展を求めてゆくという、現代の最先端科学に共通する性格を発足以来持つこととなった。従って、本研究会が行ってきた研究集会等の活動には、他の研究会等との共同主催のものが多い。

2.最近の活動
 本研究会は、上記のような理念に沿った活動として、伝統的に数日間の合宿による、複数分野共同の研究会を開催してきた。2006年度はシリコンフォトニクスを課題として取り上げたが、2007年度は、テラヘルツ電磁波技術研究会との合同研究会として、「テラヘルツ分光・イメージングとテラヘルツデバイスの物理」を軽井沢の上智大学セミナーハウスにおいて行い、最近の研究の報告と、活発な討論が行われた。
 この場合も、学術領域としては深い関係を持ちながら、異なった性格(カルチャー)を持つ二つの研究会の共同開催によって、上記のような効果を挙げることにかなりの程度成功したと考えている。
 最近の量子エレクトロニクスの展開は、量子情報処理や量子計算機などの画期的応用を将来に見据えた研究活動を含み、この様な領域の発展を見据えたロードマップの作成も、本研究会の最近の活動として有意義なものの一つであった。
 このようなデバイスの要素からその仕組みまで新しい発想が必要な画期的応用技術は、言うまでもなく長期間にわたる研究が必要であって、将来を正確に予測することなど不可能に近いが、このような作業の効果として、今後どのような研究が必要であるかを考えるよい機会を得たと考えられる。
 また一般の方々を対象に企画され、日本物理学会、日本物理教育学会の協賛を得て明治大学リバティーホールにおいて開催された公開講演会「量子が支配する世界:光と電子の物理学」は、多数の熱心な参加者を得て、その中心に在って努力したメンバーには十分に報われるものがあった。
 これらの活動に関する詳細な情報は、本稿の筆者に問い合わせることによって得ることが出来る。
 最後に、本研究会の活動が数人のコアメンバーによって円滑な連携を保ちながら活発に展開されてきたことと、その活動を通じて多くの有能な人材を産み出して来たのも、この研究会のレゾン・デーテルの一つであることも特記したい。

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