放射線について

 


1.放射線って何?
2.放射線はどこにある?
3.放射線と健康
4.放射線の量
5.放射線量の測定



1.放射線って何?



 全ての物質はいろいろな原子からできています.水は,二つの水素原子と一つの酸素原子から.金属の金であれば,金原子でできています.

 これらの原子は,原子核とその周りを回る電子からなります.そして,原子核は陽子と中性子でできています.

 陽子の数と電子の数は同じです.原子の化学的な性質を決めるのは,電子の数です.それと同数の陽子の数が同じ原子核を同じ元素と言います.ただし,同じ元素の中には中性子の数が違う原子もあり,これを同位元素,と言います.

 例えば,原子炉で核分裂反応を起こし,エネルギーを発生する元素はウランです.このウランにもいくつか同位元素があります.このうち,中性子を吸収して核分裂反応を起こすのは,ウラン235という元素です.ウランの陽子数は92ですので,ウラン235には中性子が143個,あります.一方,中性子を吸収しても核分裂しないウラン238という元素もあります.この場合,陽子は同じ92個ですが,中性子の数は146個あります.

 天然のウランでは,核分裂を起こさないウラン238が99.3%,核分裂を起こすウラン235が0.7%の割合で存在しています.

 ウラン235に中性子が吸収され,核分裂が起きると,大小,二つの原子核ができます.典型的には,質量数(陽子数と中性子数の和)100と136の原子核です.

 質量数136の原子核と言っても,様々な陽子数,中性子数の組み合わせがあります.質量数が100を越えるような原子核では,陽子数よりも中性子数が大きい方が安定な原子核となります.

 安定,というのはその原子核が変化しない,という意味です.逆に不安定な原子核,というのは,原子核のエネルギーを放出して,別の原子核に変化し安定になろう,としている原子核です(原子核に意思があるわけではありませんが).

 不安定な原子核が安定になるために放出するエネルギーは,放射線という形で放出されます.

 この放射線には,アルファ線,ベータ線,ガンマ線があります.

 アルファ線は陽子と中性子がそれぞれ二つある原子核で,ヘリウム原子核です.

 ベータ線は,電子です.

 ガンマ線は,エネルギーが高い光です.

 アルファ線は,物質と相互作用しやすいので,紙一枚,ビニール1枚で,止まってしまいます.

 ベータ線は,アルファ線の約1/8000の重さしかないので,これを止めるには,プラスチックの板などが必要です.

 ガンマ線を止めるには,金属板,特に密度が高い鉛板などを使います.

 上記3種類の放射線の他に,中性子もあります.中性子は,ウランが核分裂を起こしたときに放出されます.

 中性子を止めるには,中性子と同じ重さの陽子を含む物質を用いるのが効果的です.例えば,水や,プラスチックなどです.また中性子を吸収しやすい物質として,ホウ素などがあります.

 今回、原子炉にホウ酸を入れた,という報道がありましたが,あれはホウ酸水を入れた,ということです.

 脱線しますが,原発の出力を制御するには,中性子を吸収しやすいカドミウムを入れた制御棒を何本も使います.しかし,制御棒付近の中性子が減少し,制御棒から離れたところの中性子の数は余り減りませんので,原子炉の出力にバラツキができ,これは長い運転をするために好ましくありません.

 そこで,原子炉の起動時,ウランがたくさんあるときには,原子炉を冷却する水の中にホウ酸を入れておきます.ホウ酸が中性子を吸収すると,ホウ酸から別のものに変化し,もう中性子を吸収しません.こうして,冷却水の中のホウ酸濃度を少しずつ減少させ,燃料の中のウランの減少と合うようにして,出力を一定に保っています.


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2.放射線はどこにある?



 では,放射線はどこにあるでしょう?

 もちろん,原子力発電所にあります.

 そして,病院.レントゲン写真は,X線という放射線で人体内部の写真を撮ります.

 他に,どこにあるでしょうか?思いつく場所はないでしょうか?

 実は,放射線はどこにでもあります.いま,こうしてパソコンに文字を入力していますが,この瞬間にも,いくつかの放射線は私の身体の中を通過しています.

 つまり,放射線は絶えず,宇宙から降ってきています.その他に,地面から出てきています.そして,コンクリートの壁からも.さらには,我々の身体の中からも放射線は出ています。

 信じられますか?怖い怖い,と思っている放射線を,我々自身が出しているんですよ.

 人類が原爆を作ったから,原子力発電所を作ったから,放射線ができたのではありません.

 地球ができたと同時に,放射線を出す原子核,これを放射能といいます,ができました.

 皆さんは,カリウム,と言う言葉を聞いたことがあるでしょう.カリウムは生命を維持するために必要な元素です.ホームセンターなどで,「カリウム肥料」を売っています.なぜなら,野菜を育てるために,カリウムが必要だからです.

 このカリウムという元素の中に,カリウム40という同位元素があります.これは,地球が誕生したときに作られた元素で,このカリウム40からガンマ線が出ています.

 カリウム肥料を畑に蒔いて,ほうれん草や大根,その他,野菜を作ります.豚はそのような野菜くずを食べて大きくなります.鶏は,放し飼いだったら雑草をついばんで大きくなります.牛は,牧草を食べます.

 ですから,ほうれん草や大根にもカリウム40が入っていて,野菜から放射線が出ています.豚の肉,鳥の肉,牛の肉からも放射線が出ています.

 と言うことは,野菜や肉を食べている,我々の身体からも,放射線が出ています.

 大まかに言うと,体重10kgあたり,1秒間に1000個の放射線が出ています.

 皆さんの身体からは,毎秒何個の放射線が出ているでしょうか?


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3.放射線と健康



 放射線はどこにでもある,と書きました.我々はいつでも放射線を受けているのです.さらに詳しく言うと,我々の身体には,放射線によってエネルギーが与えられています.

 では,放射線を受けると身体に悪いのでしょうか?被曝!と言っていますが,どういうことなのでしょうか?

 放射線が人体に与える影響は,主にガンマ線によって行われます.なぜなら,アルファ線は紙一枚で止まってしまうので,例え人体に当たっても皮膚で止まってしまうからです.同様に,ベータ線も大きな影響は与えません.

 ただし,アルファ線やベータ線を出す放射能がついたものを飲み込んだりすると話が違います.身体の内部に放射線によるエネルギーが与えられ,健康を害することがあります.

 では,ガンマ線が身体にあたると何が起こるか.

 皆さんはDNAという言葉を聞いたことがあるでしょうか?遺伝情報を蓄積している二本の高分子です.ガンマ線が細胞にエネルギーを与えると,このDNAの高分子が破壊されることがあります.二本の高分子のうち,一本だけが破壊された場合には,もう一本の高分子の助けによって,比較的容易に修復できます.しかし,二本の高分子が同時に破壊されると,修復できないことがあります.この場合,細胞は死んでしまいます.

 上に,我々はいつでも放射線を受けている,と書きました.それでは,我々のDNAはいつでも破壊されているのか?

 たぶん,我々を作っている,非常に多数の細胞の中のいくつかのDNAは,いまも破壊されていると思います.そのようにして,何個かの細胞が死んでも,その周囲の細胞が生きているので,我々は一つの生体として生命を維持しています.

 ところが,例えば原子爆弾などで,一時に大量の細胞が放射線によって死んでしまうと,周囲の細胞の力によって生命を維持できなくなり,個体としても死んでしまう,と言うことになります.

 太古の昔から,常に放射線があり,昔の生物も放射線によって照射されながら生命を保ってきました.生命が進化してきた理由の一つは,放射線によるDNA破壊である,とも言われています.

 また,最近は,癌治療に放射線が用いられています.これは,癌組織に集中的に放射線を照射し,癌組織を死滅させる方法です.癌細胞は,細胞分裂が活発なので,放射線照射によるDNA破壊に弱いことを利用した治療法です.


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4.放射線の量



 報道で,原発の入り口で1015マイクロシーベルト/時などと出ています.一方で,我々の周囲には放射線がいつでもある,と書きました.

 放射線の量について,ここで,目安を書きたいと思います.「マイクロシーベルト」というのは,単なる単位と思ってください.

 まず,自然の放射線の量を書きましょう.

 テレビでも出た,東京-ニューヨーク間を飛行機で往復したときに受ける線量は,190マイクロシーベルト.

 特別なことをせずに1年間に受ける放射線量の世界平均は,2400マイクロシーベルト,ブラジルなど放射線が強い場所では,1年間に10,000マイクロシーベルトの放射線を受けます.きつい言葉で言うと,被曝します.でも,これは誰も逃げることはできません.

 次に人工的な放射線量です.

 集団検診などで受ける,胸部レントゲン撮影では,50マイクロシーベルトです.じつは,原子力発電所の敷地の中でも,1年間に50マイクロシーベルトの線量です.

 バリウムを飲んで胃の透視をすると,600マイクロシーベルトの被曝です.

 CTを受けるとこの10倍の6,000マイクロシーベルト,あるいはこれ以上の被曝を受けます.

 一般公衆は,1年間に1,000マイクロシーベルト以下の被曝量にするよう,決められています.

 しかし,1,000マイクロシーベルトを越えたからと言って,すぐに障害が出るわけではありません.十分に低い線量に設定してあります.

 我々,放射線を扱うことを仕事にしているものは,5年間で平均して,1年当たりに20,000マイクロシーベルト以下にするように決められています.我々は一般のひとより,20倍に設定されています.

 これは,この程度,被曝しても健康障害が生じない,また,他の職業より危険とは言えない,ということが基準となって決められた値です.

 つまり,トラック運転手は,常に運転しているので,交通事故に遭う確率は,一般人より高い,ということと一緒(うまい説明ではないかも)です.でも,トラック運転手は,給料を貰うためにその危険を取っている,と言うことですね.



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5.放射線量の測定



 では,放射線量の測定はどうするのか.

 我々,職業人は,ガラスバッジ線量計,というものを身につけて作業します.これは,放射線が特殊なガラスに当たった量を,一月ごとにモニタしています.

 というのは,一月の間に人体を通過した放射線をあとから測定するには,痕跡を観るしかないからです.

 放射線によってエネルギーが与えられ,それにより不安定になった原子核から放出されるガンマ線を測定する方法もあります.

 例えば,人が身につけていた金の指輪から放出されるガンマ線を測定し,その人に当たった放射線量を測定することも可能です.しかし,大量の放射線が指輪に当たらない限り,指輪から出る放射線を測定することはできません.

 テレビの報道で,被曝した人を自衛隊員が装置で測定していますが,あのような方法で指輪からでるガンマ線がもし測定できたとしたら,その人は生きていないほど,大量の放射線を受けたことになると思います.

 ですから,「被曝した」という状況は,放射能がついたほこりなどが髪の毛や衣服に付いた,という状況だと考えます.この場合,少量の放射能でも,自衛隊員の測定器で測定ができます.

 この場合,衣服を替えたり,シャワーを浴びたりして,放射能がついたものを取り除けば,それ以後の被曝の心配はありません.

 そして,放射能がついたほこりを取り除けば,決して人から人へ,伝染したりしません.このところをしっかりご理解ください.


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