2007年9月7日 シンポジウム開催 (北海道工業大学「ランダム系材料・デバイスの挑戦、結晶系を超えられるか!?」

1.イントロダクトリー
東北大院工   ○藤原 巧

2.フォトニックネットワークに向けたガラス導波路デバイス
NTTフォトニクス研究所  ○阿部 淳

3.次世代パッシブ光学素子とその創成技術
産総研  ○西井準治

4.形態制御された酸化物における光の局在化
京大院工  ○藤田晃司

5.有機材料によるフレキシブル電子・光集積デバイス
阪大  ○大森 裕

6.相変化メモリの非晶質ランダム性
日立中研  ○寺尾元康


シンポジウム報告
東北大院工   藤原 巧

 ランダム系フォトエレクトロニクス研究会のシンポジウムを表記のテーマで開催した。午前中の早い開始時間にも関わらず、たくさんの参加者に恵まれ、ピーク時には100名を超える盛況であった。

 種々の応用において、光・電子制御のような主にアクティブな機能性が要求される場合、それらの材料やデバイスには半導体や強誘電体の単結晶材料が用いられる。一方、結晶構造を持たないランダム構造材料についても、これまでに光記録や光情報通信、そして光エネルギー利用の分野において、それぞれ特徴のある展開を示してきた。今回のシンポジウムにおいては、ランダム系材料ならではの特徴を活かし、これまで結晶系では充分に果たせなかった、あるいは、結晶系では到底成し得ない広い意味での機能性発現を目指す研究開発に着目した。

 今では地球全体を覆いつくすほど敷設された光ファイバ網が、材料的にはガラスで構成された人工線路網であることを改めて認識すべきであろう。次世代光通信方式として、信号処理の全光化が視野に入ってきているが、ランダム構造材料としてのガラスの特徴、すなわち賦形性、高透過性(低損失)、均質性など、光ファイバを成功に導いたこれらの特性は、信号処理を目的とした各種光波制御デバイスに用いる材料選択にも実際には大きな影響を与えている。

 必要な機能性からは当然結晶材料が選ばれる光波制御デバイス開発においても、上述した点とさらに既存光ファイバとの整合性から、ガラスをベースとして結晶由来の機能を付加する方向で研究が進められている。阿部(NTT)により、石英系ガラスを用いた熱光学効果による光スイッチや可変光減衰器、さらにはそれらの大規模集積化など、ガラス導波路デバイスの最先端動向が紹介された。高度に集積化された素子の基板サイズから考えて、ガラスの大型基板の作製しやすさや均質性、そしてコストの点から、もはや同程度の素子を結晶基板で作製することは現実的ではないと感じたのは筆者だけではあるまい。ガラスに「必要な」結晶機能を付加するという開発指針が、例えば集積化と量産化という面において、結晶だけでは為し得ない有用性をもたらすという事実を明確に示す講演であった。

 いかなる形態にも安価に作製しやすいというガラスの特徴を活かして、サブ波長の周期構造を簡便に形成する新しいプロセス技術開発の試みが西井(産総研)により紹介された。レンズやプリズムなどいわゆるガラス製の光学部品が使用される分野は、単にエレクトロニクスに止まらず、医療や環境分野などへ大きく広がっている。従って、極めて多種多様な構造・形態が要求される中で、従来のモールド法を基本とするナノインプリント方式による緻密に制御され、かつ簡便な周期構造の形成は、結晶系から見るといわば反則技に近い強烈な印象であろう。パッシブなガラス素子の次世代展開として、この西井プロジェクトのますますの発展とガラスの特徴である空間的に均質・均一な特性をさらに高度化する「ナノ構造制御された(大型)ガラス」を実現する未来技術としても大いに期待したい。

 周期的な誘電率(屈折率)の構造を持つフォトニック結晶は各種の新しい応用分野を拓きつつあるが、このフォトニック結晶のランダム版(ランダムフォトニック構造)ともいうべき研究開発が藤田(京大)によって紹介された。独自のプロセスを用いて、サブミクロン空間の精密制御により強光散乱の構造体の形成に成功している。光散乱測定から光の拡散距離が決定される過程では、キャリアとしての光の伝播や局在が論じられた。日本では研究例の少ない分野であるが、well-definedな講演内容と電子系ではなじみのある輸送現象であることから多くの聴衆を引き付けた。同構造を活用するランダムレーザなどへの展開が楽しみである。

 フレキシブルな有機EL発光素子の先端研究が大森(阪大)により紹介された。最近では、次世代大型ディスプレイの主力として有機ELが注目されているが、ここでは、その高速な応答特性に着目している。比較的距離の短い光線路網(LAN)において、ファイバを含め、ほぼ全てを有機系材料で構成する画像伝送システムは、その簡便性と低コストから家庭内LANのような大きなニーズが容易に予想される。講演中に示された組成の選択自由度による特性制御の幅広さは、無機材料では発揮しにくい特徴であり、薄くてフレキシブルな発光素子として今後の展開に大いに期待したい。

 相変化メモリに用いられるGe-Sb-Te系について、非晶質状態におけるランダム性の程度とメモリとしての特性(耐熱性や結晶化速度)との関係が寺尾(日立中研)により紹介された。一般にランダム構造といっても、その程度はプロセス等に依存して広い範囲に亙る。それもまたランダム構造材料の特徴の一つであるが、少なくとも酸化物においてはランダム性を自在に操ることは難しい。本講演で示された、丁寧な組成探索や構造モデルの考察を通じてランダム性と所望の機能性を探求して行く過程は誠に圧巻であった。DVD光ディスクの成功に続き、ランダム系材料の索引役として、カルコゲナイド系相変化メモリの進展に期待したい。

 当研究会のシンポジウムに初めて参加した何人かの方々(企業、大学)から、大変興味深く有意義であったとのご感想を戴いた。大変ありがたいことであるが、これは、今回ご講演いただいた皆様の先端的な研究が関連する多くの研究者を引き付けたことに他ならない。講演者、参加者の皆様に対してここに厚く御礼申し上げる。



2007年9月7-8日 第2回研究懇親会(石狩温泉 番屋の宿)

1.「私が選んだガラスの重大発明(見)ベスト5」  
京都大学  横尾俊信

2.「Mott先生の思い出」
岐阜大学  嶋川晃一

3.「アモルファス半導体からナノテクノロジーへ」
産総研  田中一宜





学生の皆さんの感想・報告

京都大学大学院 中西貴之

 私は、今回始めてランダム系フォトエレクトロニクス研究会に参加させて頂きました。私は、京都大学の博士後期課程1年生で、結晶化ガラス蛍光体の研究を日々行っています。今回、特別に参加させて頂いたのは、修士課程まではアモルファス材料、特にGe-S系カルコゲナイドの光誘起現象についての研究を行っていた経験から興味があり、参加させて頂きました。
 講演では、三人の先生方の講演が行われました。一人目の講演者で、この分野でご活躍されている横尾教授の視点から見たガラスの歴史や発達をエキスパートの視点から話していただき、多くの知識を得る事ができ、とても感動しました。また、嶋川先生からは、この分野におけるパイオニア的存在のMott先生のお話を聞け、全身が鳥肌のたつほどの感動を覚えています。我々学生にとっては、歴史上の人物ぐらいにしか思えなかった人の研究の半生やMott先生を中心とした師弟関係などは、実際にMott先生に教えを受けたことのある嶋川先生ならではのことだと思います。また、研究だけでなく、この分野がどのように起こり、発達、現在に至るのかという背景や人としてのMott先生やそれに関わる人たちの人物像などを聞ける機会は、これまでになかったことのように思えます。単なる歴史上の偉人としてみたのではなく、何か親近感のようなものを感じることのできた講演でした。田中一宜先生からは、先生の研究半生を聞けることができ、我々若い世代の研究者に対し、大きな指針やメッセージを受けたように思えます。特に博士進学者の私にとっては、後ろから何か後押しをしてくれるような非常に勇気付けられるような講演でした。研究者として、特に若い世代の研究者は視界が狭くなりがちになりますが、今回の講演は、私たちに大きな影響を与えてくれた大変有意義な講演であったと思います。これからも、定期的にこのような会が開かれることを希望いたします。



東北大学大学院 岩渕直樹

 今回ランダム系フォトエレクトロニクス研究会に参加し、感じたことについて書かせていただきます。研究懇親会は今回第二回ということでしたが、私は初めて参加させていただきました。石狩温泉「番屋の宿」の穏やかな雰囲気の中、和気あいあいと講演会が始まりました。
 最初の横尾俊信先生のご講演は、ガラスの歴史、そしてその中で得られた重大な発明、発見についてのものでした。ガラスが古代より装飾品などに用いられていたことは存じていましたが、美しく繊細な装飾を見ていると、このような美しさもガラスの持つ機能なのかもしれないとさえ思えます。この美しさを演出した透明性や成形性などの特性はやがて光学ガラスとして利用され、科学上の大きな発見、発明を手伝うことになります。多くの可能性を持つガラス材料を使って、将来の科学技術の発展に貢献すべく努力していきたいと思います。嶋川晃一先生のご講演では、ランダム系の大家Mott先生他、高名な先生方と自身との思い出について話してくださいました。嶋川先生自身の若々しさにも驚かされましたが、死の間際までアクティブに活躍されたというMott先生との関係がその若さの秘訣なのではとご講演を聴きながら感じていました。実際写真のMott先生は素晴らしい笑顔で、心から研究を楽しんでいらっしゃる様子が伺えました。最後の田中一宜先生からはご自身の研究活動とその中で感じていたことについてのお話をいただきました。サンシャイン計画におけるアモルファスシリコンのpn制御の研究において、高価な装置を用いたHarvard、IBMグループよりも、安価な装置を用いたDundeeグループの方が優れた結果を出すことが出来たという話を聞いて、研究の難しさと面白さを同時に感じたような気持ちになりました。先生は最後に研究に対する姿勢において、「独創的で、かつ本質的なものを」という考えから「社会が本当に求めているものを」という考えに変わったとおっしゃいました。自分はまだ研究は独創的であることが一番であるという考えが強いように感じます。ですがそれは自分の経験の浅さゆえに社会が本当に求めているものを汲み取りきれていないからだとも感じています。今後多くの経験を経て、社会に貢献できる研究者になるべく注力していきたいと思います。
 最後にご講演くださった横尾俊信先生、嶋川晃一先生、田中一宜先生、そして今研究会を企画していただいた方々に感謝の意を表します。



岐阜大学 学生一同

 今回、このような催しに参加させていただきありがとうございました。普段、文献を参考にさせていただいている著名な先生方にお会いし、そのお話しを間近で聴講できたことはとても貴重な体験で、刺激となり研究に対するモチベーションが上がりました。ランダム系の歴史とともに先生方の思い出などが聞けたので、より興味深く、そして楽しく聞くことができました。写真や名前、研究成果など研究を通してしか知ることのできない方々の研究以外のことを聞くことで、身近に感じ理解がしやすくなったと思います。
 横尾先生は重大な発明というよりガラスの歴史のお話しをして下さいましたが、一つ一つのことについて丁寧に説明していただき別分野のお話がほとんどであったにも関わらず理解が進みました。また、学者の知的好奇心ということについて先生は熱く語られて、夕食の席でも主張しておられました。
 嶋川先生はランダム系の第一人者であるMott大先生方との思い出を語られ、私たち学生には全くの雲の上の存在であった大先生方がわずかながら身近に感じられました。また、これまでに並々ならぬ努力をされてきた結果が、今回のお話しや著名な先生方を岐阜に招かれていることに繋がっているのだと思います。改めて私たちの指導教官が偉大な先生であることを実感しました。
 『アモルファス半導体の基礎』でいつもお名前を拝見させていただいていた田中一宜先生は、想像していたよりも若くて驚きました。難しい話をされるのかと緊張していましたが、当時の世界情勢などを踏まえた自らの研究に対する態度などを話されました。研究者に重圧を与えることなく研究させることの大事さや日本にはまだその環境が少ないことなどや、プロジェクトにかかる金額などのマネジメントということについても話が聴けた事はとても幸せでした。
 先生方に直接お会いしお話しが聴けたことだけでなく、他大学の学生と交流が持てたことも、懇親会に参加して良かったことの一つです。当初は他大学の人と同じ部屋割りであったため多少不安でしたが、世間話から始まり、それぞれの大学や研究室、さらには自分たちの研究についての話しができアドバイスをいただく機会もありました。また、会食の席では、ランダム系らしく席が無秩序に散らばり先生方の議論なども面白く聴かせていただきました。余談になりますが、会場となった『番屋の宿』の温泉と料理はとても良かったです。特に海胆の鍋は絶品でした。懇親会を通じて、これまでの勉強不足を痛感させられたとともに、これからの研究や学生生活、社会に出てからのあり方など、学ぶことが多くありました。個人的な意見としまして、この懇親会が学生同士の盛んな交流の場となれば良いなと思います。そのためにも今後も学生の参加人数が増えていくことを望みます。
 非常に有意義な時間を過ごすことができました。ありがとうございました。



北海道大学大学院 寺門信明

 2007年9月7日から8日にかけ、ランダム系フォトエレクトロニクス研究会の第二回研究懇親会が石狩温泉「番屋の宿」にて開催された。3人の先生方のご講演のほかにも、絶景露天風呂を満喫できるとあって、私を含め、楽しみしていた方もたくさんいらっしゃったと思う。
 はじめの講演は、横尾先生(京都大学)による「私が選んだガラスの重大発明(見)ベスト5」であった。石器時代から現代に至るまでのガラスの組成・用途・作製法の変遷が色鮮やかな写真とともに示され、また、科学の重要発見の多くがガラス(器具)とともにあったことや、ガラスが将来においても生活に必要不可欠な材料であり続けるであろうことが述べられた。人類がガラスとともに歩んできた道のりを再確認するよい機会となった。
 つづいて、嶋川先生(岐阜大学)からMott先生の思い出」と題された講演が行われた。Mott &Davisの教科書からは知ることのできない、研究に対する情熱や研究者への真摯な態度などのMott先生の人となりを、嶋川先生のお話と貴重な写真をもとに垣間見ることができた。
 最後に、田中一宜先生(産総研)から「アモルファス半導体からナノテクノロジーへ」と題された講演が行われた。アモルファス半導体研究に黎明期から携わって来られた田中先生の軌跡が示され、特に私の研究の土台ともいうべきカルコゲナイドガラスの光構造変化のお話は大変興味深かった。
 講演後の会食宴会も非常に有意義なものであった。たいへんおいしい北海道の幸を使用した夕食後には、アモルファス材料に関係する世界の研究者がスクリーンに映し出され、その人名あて大会が開催され、おおいに盛り上がりを見せた。さらには、その研究者にまつわる貴重なエピソードも多くの先生方から聞くことができ、たいへん楽しかった。なによりも、今回の懇親会で刺激になったことは、ランダム系材料に携わる諸先生・先輩、そして同世代の研究者の方々と直にお話できたことである。今後もこのような機会があれば進んで参加したいと思う。







2007年3月28日 シンポジウム開催 (青山学院大学「ランダム系フォトエレクトロニクスのセレンディピティ」)

1.イントロダクトリー
北大工研  田中啓司

2.ガラス性材料から結晶性材料へ : 書換型DVD用メモリ材料の開発
松下電器AVコア技術開発センター  山田昇

3.縁と偶然に導かれたファイバヒューズの超高速撮影と空孔生成アニメーションの作成
物質・材料研究機構  轟眞市

4.薄膜シリコンネットワーク構造制御
東京理科大学  松田彰久

5.有機固体太陽電池におけるバルクpinヘテロ接合の発明と展開
阪大院工  平本昌宏

6.超高感度HARP撮像管の発明とその応用
NHK放送技術研究所  谷岡健吉



シンポジウム報告
北大工研  田中啓司

 ある辞書によれば,serendipity とは「予期せぬ素晴らしい発見(をする能力)」とある.「ひらめき」或いは「ひらめく力」と言い換えても良いかもしれない.そのようなセレンディピティの例を,ランダム系物質の研究開発で指呼することは容易である.乱れた構造を同定することが難しく,固体物理としての研究手法が未だに確立していないからである.研究計画を立てづらい分野と言えるかもしれない.それゆえに,面白さがあるのだが.このような話題を集めた,単なる研究報告ではないシンポジウムを企画した.はじめに田中(北大)は,以上のような背景とセレンディピティの一例としてのPhillipsの魔法数について述べ,まとめに代えてBrayによる解説1)を紹介した.その後の5つの講演は,どれも普段の研究発表では聞けない含蓄に富むものだった.

 山田(松下)は,実用DVD-RAM材料となったGe-Sb-Te薄膜の発見に至った経緯を述べた.周知のように,相変化は70年こOvshinskyによって着想されたが,すばやく結晶化する材料を発見できず,80年ころには世界中の多くの機関が研究開発から撤退した.そのような状況下で,「結晶化が容易な組成を無理やりにアモルファス化させる」という逆転発想のもとに,一企業で材料研究が地道に続けられたのは素晴らしいとしか言いようがない.もっとも今から見ると,80年代の経済的ゆとりが背景としてあったようにも思うが...

 轟(物材研)は,ファイバーフューズの高速動画撮影にまつわる苦労談を述べた.2)講演は,魅力的な導入と動画をまじえた新進気鋭研究者らしいものだった.そのせいかT君には,一番面白かったようだ.「天の采配(偶然)と己の采配(能力と根気)が人の采配(好意的態度)を促した」というのも蓋し名言である.

 中休みの後,松田(東京理科大)は産総研で続けられたアモルファスSi 太陽電池の研究開発について,アニメーションをまじえて分かりやすく説明した.種々の着想を一言でまとめるなら,「プラズマプロセスの診断と制御」ということである.「英国で発見され,米国で開発されたものが,なぜ欧米(たとえばドイツ)で商品化できなかったのか?」という質問への松田の答えは,「研究者の根気の違い」ということだった.流行を追うのが好きな研究者がいる一方で,粘り強く研究している人もいる.

 平本(阪大)は,有機太陽電池の研究について述べた.有機素子といえば有機EL一色だった90年頃に,実用化からはほど遠いと考えられていた太陽電池の研究にあえて取り組んだ理由を「皆と違うことをやる」ことと述べた.そして,プレッシャーを感じつつ,ワクワクしながら徹底的に実験をして,その結果を勇気を持って発表したことが多数回の引用につながったと要約した.

 最後に谷岡NHK)は,アモルファスSe超高感度撮像管の発明に至った30年来の小史を概説した.非注入型光伝導体での雪崩増倍を利用した撮像管である.「寝食を忘れてワクワクしながら実験をすることから,計算機シミュレーションを越えたbreakthroughが得られる」と述べた.一心不乱に実験して,得られた結果を鉛筆でグラフをプロットしていると,生き物(材料)と会話している気持ちになってくる.それらが,直感を育てるようだ.

 私は以上5件の話を一教員として拝聴しながら,「セレンディピティを持った研究者はどのように育ったのか?」と考えてしまった.谷岡の「理科が好きだった」原因は何だろうか?コンピューターゲームに明け暮れる現代っ子に,セレンディピティは育つだろうか?また,最近の新進気鋭研究者には,化学を学んで応用物理で活躍しているchemical physicistが多いように感じる(私は,逆の例を知らない).今回の5人に共通するのは,それぞれの立場で根気よく実験することだったように思う.もちろん,根気よく実験しても失敗談で終わる研究も多いはずで,それには「意地と楽観(開き直り?)」しかないのだろう.それにしても,普段は聞けないこのような素晴らしい講演を,もっと多くの若手研究者に聞いてもらえなかったのは,全く残念なことだった.

1) R. Bray,「セレンディピティと発見の本質」 固体物理,27 (1992) 163.
2) 轟 眞市,「セレンディピティの磨き方」 工業材料,2-4月号 (2007) 
http://www.geocities.jp/tokyo 1406/ node5.html#link:serendipity



シンポジウム参加報告

東北大院工  水野真太郎

 コートが要らないくらいの陽気に恵まれた青山学院大学での第54回応物春季大会においてシンポジウム「ランダム系フォトエレクトロニクスのセレンディピティ」は開催された。 シンポジウムは「「ランダム系フォトエレクトロニクスのセレンディピティ」インダクトリー」と題された北大田中啓司先生の講演で始まった。まず、結晶とアモルファスの比較からアモルファス材料に関するモデル、構造、物性間の関係説明および理解の難しさを挙げられ、その解決にはセレンディピティが必要ではないかと指摘された。ガラス物理における新奇で重要なアイデアとしてPhillips-Thorpeの魔法数2.4」を挙げられた。Phillips, Thorpe, Dohlerらによって拓かれたトポロジーからの解釈は、まさに根気+偶然+一心不乱によって見出された重要な理論であると思う。
 松下電器の山田昇氏からは、今やデジタルデータの主要記録媒体となっている書換型DVD開発について「相変化メモリ材料の歴史」ともいえる貴重なお話を聞くことができた。その中には根本的な記録原理であるアモルファス→結晶から結晶→アモルファス相変化への華麗なる発想の転換があった。実際にはかなり困難な決断に迫られたことは想像に難くない。私自身にも重大な決断をすべきときが来るかもしれない。先を見据えた思考能力を養うことの大切さを感じた。
 物質・材料研究機構の轟眞市氏の講演は「縁と偶然に導かれたファイバフューズの超高速撮影と空孔生成アニメーションの作成」と題された講演であった。締切り間近での実験、論文執筆、限られた時間での超高速撮影。まさに研究の現場を見ているかのような講演内容であった。「偶然は手を動かして掴むもの」と言われた言葉が強く心に残った。また話し方、映像の交え方など講演の進め方が非常にユニークで惹きつけられた。ぜひプレゼンの参考にしたい。
 「薄膜シリコンネットワーク」と題された東京理科大学の松田彰久先生の講演では、薄膜シリコンの成長プロセスの微視的な理解のために様々な手法、アイデアを駆使して解明したことを説明された。特に新しいプロセス診断法の開発の重要性、実験結果の解釈の重要性について語られた。実験結果を隅々までよく見ることの大切さを再認識させられた。
 大阪大学院工の平本昌宏先生の講演では、研究分野の転換(無機から有機半導体)の不慣れな中で、有機の中に無機のテクニックを取入れ(ドーピング)、がむしゃらにやってこられた大変な貴重な経験を聞くことができた。平本先生がさらりと言った「中途半端でなく徹底的にやる」ということはどのようなことにもいえることではあるが異分野に転進して結果を残していくために必要な「徹底的」というのは相当な厳しさがあったであろうと想像される。
 「超高感度HARP撮像管の発明とその応用」と題されたNHK放送技術研究所の谷岡健吉氏の講演では、長年培ってきた撮像管での技術を活かすため、その技術を高め、他の技術では代替できないような優位性を見出した長年の研究経緯をお話された。その中で「人生は一度、しかも大事な三十代の蓄積が無駄になるかもしれない」という研究意義そのものを揺るがされた時代もあったという。その当時の苦悩は計り知れない。しかし、時間を惜しみ、手を動かし蓄積してきたデータはそれを裏切らなかった。はじめははっきり見えてこなかったアバランシェ増倍現象を鮮明にさせたのは間違いなく大量の実験データによるものであろう。やはり手を動かさなければ見えるものも見えてこない。「研究には執念と愛情を持って挑む」と言われた言葉はまさにこれまでの研究からにじみ出てきた言葉であると感じた。全講演を聴き終わり、「与えられた環境でベストを尽くすことによりセレンディピティ、または成果というものは付いてくるのだ」と感じた。
 今回は成功の裏にある数々の失敗、苦悩が聞け、そのときどきの考え方、判断の仕方を学ぶことができる大変よい機会のシンポジウムとなった。



東北大院工 萱場徳克

 3月27〜30日にかけて青山学院大学相模原キャンパスで春季応用物理学会が開催された。28日の午後には、「ランダム系フォトエレクトロニクスのセレンディピティ」と題されたシンポジウムが催され、6名の先生方から研究におけるセレンディピティに関するお話を聞かせていただけた。
 最初に北大の田中先生からシンポジウムの意図に関するお話をしていただいた。続いてアモルファス材料の研究は結晶材料の研究の手法とは異なることと、その中でのセレンディピティの重要性についてもお話していただき、“魔法数2.4”というアイデアについても説明していただけた。
 2番目に松下の山田氏から、現在広く使われている相変化ディスクの開発にまつわる苦労や、課題、それらを解決に導いた発想の転換といったことに関するお話を聞かせていただけた。
 3番目にNIMSの轟氏から、世界初のファイバヒューズの直接観察に至る過程や、その後の研究の苦労された点について聞かせていただけた。
 休憩を挟んで4番目に理科大の松田先生より、プロセス診断によるプロセス制御というアプローチによる、アモルファスシリコン薄膜の成長法に関するお話を聞かせていただけた。シリカラジカル(SiH3)を膜成長の支配種とするアニメーションが非常に理解しやすかった。
 5番目に阪大の平本先生より、有機太陽電池について、先生が提案され、現在この分野で共通認識となっているバルクp-i-nヘテロ接合に関するお話を聞かせていただけた。
 最後は、NHK技研の谷岡氏に超高感度HARP撮像管の発明にいたる過程をお話していただけた。放送用のカメラを分解して実験を行っていたという話や、時代がCCDへ移っていく中でアモルファスセレンにこだわり、苦悩しながらHARPの作製にいたった話が印象的であった。
 今回のシンポジウムでは、個々の先生方の研究成果について聞かせていただけたのはもちろん勉強になったが、それ以上に先生方の研究に対するこだわりや姿勢が大変参考になった。今後の自分の研究における指針となるような大変意義深いシンポジウムであった。



北大院工 寺門信明 

 3月28日、暖かな春の日差しふりそそぐ青山学院大学相模原キャンパスにて、本シンポジウムは開催された。
 今回のテーマは「ランダム系フォトエレクトロニクスのセレンディピティ」である。従来のシンポジウムのテーマは、機能材料の現状と進展に関するものが主であったが、今回は、機能性や新アイデアの発見と、その発見に至る経緯そのものに注目した目新しいテーマであった。
 はじめに、イントロダクトリーにおいて、セレンディピティという語の意味と、ガラス物理における”最も新奇で重要なアイデア”である「Phillips-Thorpeの魔法数2.4」の説明があった。つづいて、DVD、光ファイバー、(a-Si、有機)太陽電池、a-Se撮像管に関する5講演が行われた。ランダム系フォトエレクトロニクスを網羅したこれらのデバイスに関する講演を、私は終始夢中になって聞くことができた。最も印象に残っているのは、轟(物質・材料研究機構)の講演内で示されたファイバーフューズの映像とアニメーションである。周期的な空孔を後に残しながらファイバー内を伝播する様子はまるで生き物のようであった。
 今回の講演を聞いて痛感したことは、熱意をもって研究することの大切さである。このことは、言い回しや例えが異なるものの、すべての講演者の方がおっしゃっていたと思う。まずは、研究者が当然持ち合わすべきであるこの一心不乱の気持ちを大切にし、セレンディピティの到来に備えようと思った。



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