X線回折法はバルク物質の結晶構造を解析するのには非常に有効な手段である。しかし、放射光という高輝度光源の出現以前に、この方法が表面や界面の構造の研究に用いられることはあまりなかった。その主な理由は、X線は物質との相互作用が非常に小さいため、表面・界面からの散乱が弱く測定が困難であったからである。ところが現在では、今まで欠点であった物質との相互作用が小さいということが、逆に表面・界面構造解析手法としての注目すべき特長となっている。即ち、解析には一回散乱だけを考えるだけで良い運動学的回折理論を用いることが可能であり、定量的な解析を容易に行うことができる。また、吸収が少ないことから埋もれた界面の情報を試料を破壊することなく得ることができる。これらの特徴により、不確定な要因が少ない、非常に信頼性の高い結果を得ることができる。
本講演では、運動学的回折理論の基礎から始め、逆空間における逆格子、エヴァルト球と実空間における結晶構造と入射、散乱X線との関係、表面・界面や薄膜の様な2次元構造からの散乱の特徴、またその実際の測定方法を解説した後、シリコン熱酸化膜の原子構造研究への応用例を示す。
シリコン熱酸化膜とシリコン基板の界面準位密度は1011/cm2×eV以下であり、そのため熱酸化膜はMOSFETのゲート絶縁膜として重要な役割を果たしてきた。界面準位は絶縁膜と基板の不完全な原子間の結合によるものであり、熱酸化膜の原子構造はアモルファス構造であると考えられているので、結晶シリコン基板との界面における極めて低い界面準位密度は理解しにくい。そのため、古くから低い界面準位密度を説明するために、非常に多くの実験的、理論的研究がなされてきた。ここではX線回折法によって明らかになったシリコン熱酸化膜の残留秩序構造について、具体的な測定、解析例を用いて解説する。