フラッシュメモリでは,“0”と“1”の記憶状態はトランジスタの閾値電圧(Vth)の高低によるトランジスタの“off”と“on”に対応する.このVthの高低を引き起こすのがメモリセルに蓄積された電荷である. したがってフラッシュメモリでは記憶は電荷で蓄積される. 浮遊ゲート型では電荷はFGに蓄積されるが, MONOS型はFGを持たず,ゲートのONO膜中に電荷を蓄積する. この場合MONOSトランジスタのONO膜中のソースとドレインに隣接した2箇所に,独立に電荷を蓄積することが出来るため,1Trで2ビット分の記憶保持が可能となる. このようにMONOS型では, FGが無いため製造プロセス工程数が少なく,かつ2ビット/1Trであるため高集積化が容易であり,コストダウンが可能である.
MONOS型では,FG型と同様にチャンネルホットエレクトロン注入で書き込みを行なうが,消去動作はまったく異なり, band-to-bandのトンネルによるホール注入により,先に書き込まれた電子を電気的に中和することで記憶を消去する. このようにMONOS型フラッシュメモリは注入電荷を利用してメモリ動作させるため,電荷の蓄積位置を明らかにすることは,このデバイスの動作原理,記憶保持および書き込み-消去のサイクリング劣化機構を理解するのに重要である. したがって,蓄積された電荷を直接観察する方法の開発が期待される.
この電荷の可視化手段として, 非線形誘電率顕微鏡法(Scanning Nonlinear Dielectric Microscopy: SNDM)はきわめて有効な手段である. SNDMはマイクロ波顕微鏡技術の一種である. 電極と試料の間に交替電場E cos &omega p (E = V/d, Vは電圧振幅, dはサンプル厚,&omega pは角周波数) が印加されるとき,針下の試料表面の非線形誘電応答から生じる容量Cs(t)変化がLC共振回路の共振周波数における変化として検出される.AFMのカンチレバーを探針として,試料表面を走査して検出することにより高感度の誘電応答の分布が得られる.
SNDMはこれまで強誘電体の分極分布の観測に適用されてきた.強誘電体薄膜の場合,分極の方向は, Cs(t)変化から計算される非線形誘電率から決定できる. この方法によるLiTaO3の分極分布,PZTの分極壁の厚さ観察,ナノドメインを用いた強誘電体メモリの記憶再生への応用などが報告されている.また高真空中での高分解能観察により, Si清浄表面の7×7構造が検出可能な第5番目の顕微鏡として注目されている.
私たちはSNDMにより,どのように固定電荷の電子とホールを検出することができるかを説明する.またSNDMを応用した, MONOS型メモリの蓄積電荷の存在位置,サイクリング後の電荷の分布にならびに,従来のFG型メモリ中の電荷分布の観察例もあわせ報告する.