極薄の絶縁体層(トンネル障壁)を2枚の強磁性金属層で挟んだ磁気トンネル接合(MTJ)素子はスピン依存トンネル伝導に起因した磁気抵抗(TMR効果)を示す.つまり,2枚の強磁性電極の磁化の向きが平行,反平行な場合で,素子のトンネル抵抗が変化する.このトンネル抵抗の変化率を百分率で表したものが磁気抵抗比(MR比)であり,MTJ素子の重要な性能指数となる.1995年に室温でTMR効果が実現されて以来,トンネル障壁にアモルファス酸化アルミニウム(Al-O)を用いたMTJ素子の研究が精力的に行われてきたが,室温で約70%のMR比しか得られないことが応用上深刻な問題となっていた.例えば,大容量MRAMを実現するに室温で200%を越えるような巨大なMR比が切望されていた.Al-O障壁MTJ素子の性能限界は,アモルファスAl-O障壁のインコヒーレントなトンネル伝導過程に起因したものである.これに対して,(001)面配向した結晶性の酸化マグネシウム(MgO)をトンネル障壁に用いたエピタキシャルMTJ素子に関して2001年に第一原理計算が成され,1,000%を越える巨大なMR比が理論的に予測された.これは,結晶MgO(001)障壁のコヒーレントなトンネル伝導に起因するものである.実験的にも2004年に,MgO(001)障壁MTJ素子において室温で巨大なTMR効果が実現され,現在までに室温で500%のMR比が得られている.現在,MgO障壁MTJ素子を用いたスピン注入MRAMやハードディスク磁気ヘッドの開発が進められており,さらにマイクロ波発振・検波素子やスピントランジスタなどの新規デバイス応用の研究も始まっている.セミナーでは,MgOトンネル磁気抵抗素子の巨大TMR効果の物理機構およびデバイス応用,今後の展望などについて概論する. |