応用電子物性分科会企画

「太陽光発電 - 現在から未来へ -」

東京工業大学 量子効果エレクトロニクス研究センター

山田 明 

 

 今回、応用電子物性分科会では、「太陽光発電 - 現在から未来へ -」というテーマでシンポジウムを企画しました。20世紀我々は、主に化石燃料を消費することでエネルギーを生産し、文明生活を営んできました。しかしながら、地球温暖化現象に代表されるように、このようなエネルギーの利用形態に対して、多くの問題点があることも明らかとなってきています。恐らく、21世紀、我々の文明を維持し続けるための第一の課題は、このエネルギー問題の解決ではないでしょうか。

 当分科会では、このエネルギー問題を解決する一つの解として、物性研究という観点から太陽電池に古くから注目し、おおよそ2年に1回の割合でシンポジウムを企画してきました。最近では、TVコマーシャル等で住宅の屋根に設置された太陽電池モジュールが紹介されるなど、ようやく一般の方々にも、その有用性が認められた感があります。また、国の住宅用太陽光発電導入基盤整備事業の一貫として平成6年からスタートした補助事業も順調に推移し、平成12年度には、18,907件(70,331.9kW)の太陽電池が設置されました。恐らく今後は、さらなる低コスト化・高効率化により、太陽光発電の自立的な普及が進むと思われます。あるいは、普及が進むと期待されます。そこで今回は、既に実用化に達した太陽電池から今後の発展が期待される太陽電池まで、この分野の第一人者の方々にご講演をお願いしました。シンポジウムには約160名の参加者があり、立ち見が出るほどで、応用物理学会の会員の皆様の、この分野に対する関心の高さが分かり、企画をしたものとして大変ありがたく感じました。以下に簡単ですが、各ご講演の内容をまとめさせて頂きます。

 東京工業大学の小長井先生には、2030年に向けての太陽光発電開発のロードマップをご紹介頂きました。住宅用太陽光発電システムを一般家庭にさらに広く普及させて行くためには、3kWシステムを100万円までコストダウンする必要があること、2030年に期待される30円/Wという製造コストを実現するためには、従来技術の延長線のみでなく、新しい材料開発が必要であることを強調されました。

 三洋電機の津毛氏と鐘淵化学工業の吉見氏には、今ある太陽電池という観点から、結晶Si系太陽電池(HIT太陽電池)およびハイブリッド太陽電池(アモルファスシリコン太陽電池と薄膜多結晶シリコン太陽電池の積層構造)をそれぞれご紹介頂きました。また、昭和シェル石油の櫛屋氏には、実用化がそこまで来ている太陽電池として、Cu(InGa)Se2薄膜太陽電池を日米欧の開発動向を通してご講演頂きました。

 これからの発展が大きく期待される太陽電池として、豊田工業大学の荒木先生には、集光型太陽電池のお話しをお願いしました。また、物質工学工業技術研究所の荒川氏には、色素増感太陽電池の研究開発の現状についてご紹介頂きました。これまで、半導体をベースに太陽電池を研究してきた者として、色素という、原理的に異なる(根本は同じか)太陽電池について、その基礎からご講演頂き大変参考になりました。

 東京農工大学の黒川先生には、砂漠における太陽光発電とグローバルエネルギーネットという、100万kW級の大規模太陽光発電システムの持続的開発シナリオと、その社会経済的な効果をご紹介頂きました。

 最後になりますが、共にこの企画にご協力頂きました豊田工業大学の山口先生、奈良先端科学技術大学院大学の冬木先生に感謝いたします。また、お忙しい中快くご講演をご快諾頂きました講師の方々に改めて深謝いたします。