応用電子物性分科会企画

「太陽光発電  −近づくワールド・コンファレンス(WCPEC-3)−」

応用電子物性分科会では、約2年に1度の割合で「太陽光発電」のシンポジウムを企画させて頂いている。これは、地球温暖化問題に代表されるように、21世紀に渡ってこの社会活動を維持して行くためには、環境問題は避けては通れない課題であるとの認識があるからである。特にエネルギー問題は解決すべき急務の課題であり、応用物理を科学する者として、太陽光発電は一つの解決策であると考えている。

今年は、表題にもある通りWCPEC-3(3rd World Conference on Photovoltaic Energy Conversion)が大阪で開催される。これは、日米欧でそれぞれ開催されてきた、太陽光発電に関する国際会議を共同で開催するというものである。
日本が中心となり企画することとなった第3回の国際会議は、第13回PVSEC(日本)、第30回IEEE PVSC(アメリカ)、そして第18回EC-PV(ヨーロッパ)の3つの国際会議の合同会議として、5月11日?18日にかけて大阪の国際コンベンションセンターで行われる。既にこの号が発刊される頃には国際会議は閉会となっているが、太陽光発電に関する活発な討論と進歩があったことと想像される。

ご存知のように太陽光発電は既に、一部実用化されており、2002年の太陽電池の世界生産量は対前年比33.2%増の520.15MWとなっている。このうち日本の生産量は、全体の約49%を占めており、アメリカとヨーロッパは各々約22%となっている。このデータから見て分かる通り、日本は太陽光発電で世界をリードしていると言える。今回はこのような背景のもと、新技術、産業、そしてリサイクルという観点でシンポジウムを企画した。

通常、太陽電池の透明導電膜はn形を示す。今後太陽電池の高効率化、高性能化を図るためには、p形でしかも透明な導電膜が是非とも欲しいところである。そこで、この分野の第一人者である東京工業大学の細野先生に、透明導電膜の基礎からp形膜の現状までご講演頂いた。
また、半導体を用いた太陽電池とは異なる新型の太陽電池として、現在、色素増感太陽電池が注目されている。そこで、前回に引き続き今回、産業技術総合研究所の荒川先生に色素増感太陽電池の最近の進展をお話し頂いた。ご講演では、前回からの進展とオーストラリアの企業の製品化に関する話題が紹介された。前半の最後には、キヤノンの小西氏に、東京の日照条件で10円/kWhは可能であるかと言う挑戦的なテーマでお話し頂いた。現在、太陽光発電システムの発電原価は約60円/kWh程である。これを商用電力の発電原価10円/kWhまで低減できるかと言うお話である。プロセス、太陽電池モジュールの構造を工夫することで、現在の技術の延長線上で十分達成可能であるとの試算が示され、太陽光発電を研究するものとして大いに勇気づけられるご講演であった。

休憩を挟んだ後の2件のご講演は、鐘淵化学工業の福田氏と三洋電機の津毛氏にお願いした。鐘淵化学工業では、アモルファスシリコンと多結晶シリコンを2層積層させたタンデム型太陽電池を既に量産されており、また三洋電機では、単結晶シリコンにアモルファスシリコンの技術を組み合わせたHIT構造と呼ばれる太陽電池を量産されている。お二人の講師の方々には、その量産化技術と今後の課題についてお話し頂いた。

先に述べたように、太陽電池は既に年産500MWほどのレベルに達しており、また成長率も著しい。そこで、これからの製品として、当然のことながらリサイクル・リユースを考えて行かなければならない。このため、応用物理学会とは少し異質かも知れないと感じたが、敢えて今回はリサイクルのご講演を太陽光発電技術研究組合の泉名氏にお願いした。シリコン及びCuInSe2太陽電池に対してリサイクル技術の検討が為されており、重さにして70%程度のリサイクルが可能であるとの興味あるお話を頂いた。最後に、WCPEC-3の組織委員長である東京農工大学の黒川先生に、同会議のトピックスをご紹介頂きシンポジウムの締めとさせて頂いた。

最後になりますが、お忙しい中、今回のシンポジウムのご講演をご快諾頂いた講師の先生方に改めてお礼を申し上げます。また、企画に当たった研究会幹事の大下(豊田工大)、岡本(三洋電機)の各氏に感謝致します。