基礎講座:界面を非破壊で見る先端分析技術の基礎と応用

第35回 薄膜・表面物理 基礎講座(2006)


協賛

日本物理学会、日本化学会、日本金属学会、日本表面科学会、電子情報通信学会、電気学会、触媒学会、日本真空協会、電気化学会、表面技術協会、日本顕微鏡学会、高分子学会、精密工学会、日本結晶学会、日本結晶成長学会、日本応用磁気学会、日本セラミックス協会、日本放射光学会(依頼中)

概要

近年急速な展開を見せる電子デバイスの高密度集積の極限化や、ナノテクノロジー/ナノサイエンスにおけるナノ構造体の機能制御において、数~数十ナノメートルの大きさ・厚さ・深さの評価分析が必要とされています。このような評価分析では、ナノ構造を保持して原子スケールの情報を得るためには非破壊で情報を得ることが不可欠です。そのため本講座では、界面を非破壊で見る先端技術について、基礎から応用まで各分野の専門家に詳しく解説していただきます。二日間の講座で、実験と理論から見た界面分析の基礎と展開、そして、界面の結晶構造・化学組成・電子状態などの情報について分析技術を具体的に紹介していただきます。企業や大学などの研究者にとって実践的理解が得られるだけでなく、学部学生や大学院生にとっても分かりやすく有益な講座となるように企画されています。

日時

平成18年11月16日 (木) 10:00 – 17:05
17日 (金) 9:00 – 17:15

場所

東京理科大学(神楽坂キャンパス/森戸記念館・第一フォーラム)
東京都新宿区神楽坂 4-2-2
TEL: 03-5228-8110 (内線 1697)
http://www.tus.ac.jp/info/setubi/morito.html

JR 総武線、地下鉄有楽町線、東西線、南北線飯田橋駅下車 徒歩5分

 

プログラム(題目をクリックすると概要が表示されます)

11月16日(木)
日時 講演題目 講師
10:00~11:15 総論 -I・実験から見た界面分析の技術展開 小林 啓介 ( JASRI )
11:15~12:30 総論 -II・理論から見た界面分析の基礎過程 中山 隆史 ( 千葉大 )
12:30~13:30 昼食
13:30~14:35 光電子ホログラフィによる原子配置の三次元構造解析 松下 智裕 ( JASRI )
14:35~15:40 光電子分光による有機薄膜の配向・界面電子状態解析 上野 信雄 ( 千葉大 )
15:40~16:00 休憩
16:00~17:05 走査電子顕微鏡による埋もれた構造体の観察 永瀬 雅夫( NTT )

 

11月17日(金)
日時 講演題目 講師
9:00~10:05 蛍光 X線分光による多層膜界面の構造秩序解析 柳原 美廣(東北大)
10:05~11:10 放射光 X線回折による埋込み酸化膜の構造解析 志村 考功(大阪大)
11:10~11:30 休憩
11:30~12:35 透過電子顕微鏡による界面構造の超高分解能観察 田中 信夫(名古屋大)
12:35~13:40 昼食
13:40~14:45 イオン散乱分光による界面歪みの深さ分布解析 木村 健二(京大)
14:45~15:50 分光エリプソメトリーによる半導体と有機薄膜の評価 藤原 裕之(産総研)
15:50~16:10 休憩
16:10~17:15 赤外反射吸収分光による溶液中の生体計測 庭野 道夫(東北大)

 

 

参加費

テキスト代、消費税含む

薄膜・表面物理分科会会員 * 応用物理学会会員 **
協賛学協会会員
学生 その他
15,000円 20,000円 3,000円 25,000円

* 薄膜・表面物理分科会賛助会社の方は、分科会会員扱いといたします。
** 応用物理学会賛助会社の方は、応用物理学会会員扱いといたします。

定員

100名

*現在非会員の方でも 参加申込時に薄・表分科会 (年会費 A:3,000円,B:2,200円)にご入会いただければ、本講座より会員扱いとさせて頂きます。 下記応物ホームページより入会登録を行い、仮会員番号取得後、本講座 に参加お申し込み下さい。 入会決定後、年会費請求書をお送りいたします。本講座参加費と同時にお振込なさらないで下さい。
http://www.jsap.or.jp/

参加申込方法

ここから参加登録して下さい。
参加登録完了後、下記銀行口座に参加費をご連絡いただいた期日までにお振込ください。原則として参加費の払い戻し,請求書の発行は致しません。
*領収書は当日受付にてお渡しいたします。

参加費振込先

三井住友銀行 本店営業部(本店も可)
普通預金  9474715
(社)応用物理学会 薄膜・表面物理分科会
(シャ)オウヨウブツリガッカイハクマク・ヒョウメンブツリブンカカイ

参加申込締切

2006年10月31日(火)

内容問合せ先

高桑雄二  東北大学多元物質科学研究所
TEL:022-217-5365
FAX:022-217-5405
E-mail:takakuwa@tagen.tohoku.ac.jp

住友 弘二   NTT物性科学基礎研究所
TEL:046-240-3457
FAX:046-270-2364
E-mail:sumitomo@will.brl.ntt.co.jp

参加問合せ先

〒 102-0073 東京都千代田区九段北 1 -12-3
井門九段北ビル 5F
応用物理学会 分科会担当 伊丹
TEL:03-3238-1043
FAX:03-3221-6245
E-mail:divisions@jsap.or.jp

講演題目

総論 -I・実験から見た界面分析の技術展開

講師

小林 啓介 ( JASRI )

近年、ナノスケールの薄膜・界面の電子構造, 化学結合状態, 化学反応, 相互拡散などを調べる手段の必要性が益々高くなってきている.Si-LSIにおけるゲートスタックを例に取って考えると, 絶縁膜厚はSiO2を使う限りにおいてはすでに1 nm近くまで薄くなり, 絶縁材料としての限界に近づいていている.このため, 酸窒化物膜から, さらにはHfO2などの高誘電率膜, いわゆるhigh-kへと移行しつつある. high-k膜を使った場合, 絶縁膜の厚さは3~4 nm程度であり, その中にバリアー層などの複数の層が含まれる. またゲート電極と絶縁膜界面をしらべる場合にも, ゲート電極の厚さを少なくとも5~10 nm程度にしないと現実的なデバイスの構造に対応した情報は得られない. ソース, ドレインの高濃度ドーピング領域もやはり深さが5 nm程度で, 不純物の活性化率、深さ方向のプロファイルなどを知る必要がある. このようなナノスケールの薄膜およびその界面を調べる必要性はSi-LSIに止まらず, 磁気ヘッド, 固体電池, EL表示素子の電極界面, ハードディスクの潤滑剤と基盤との界面, DVDなどの実用レベルのデバイスの中でますます高くなっている. また, スピンエレクトロニクス材料, 金属ナノクラスター, 有機-無機薄膜材料など様々な新しいナノ材料が研究されるようになってきている. オージエ電子分光や、真空紫外から軟X線領域の光電子分光法などの従来の分光的手段ではこのようなナノスケールの薄膜、多層膜の解析には役に立たない. ここではナノ薄膜およびその界面の分光法における最近の進歩, 特に最近著しい展開の見られる硬X線光電子分光法を紹介する.

講演題目

総論 -II・理論から見た界面分析の基礎過程

講師

中山 隆史 ( 千葉大 )

一様性の破れた界面では、特徴的な原子構造や電子状態が実現される。界面分析の基礎は、これら界面の特徴を知り、それを選択的に信号として抽出する原理を理解することにある。本講義では、(1)界面の原子構造として「界面の形成過程と熱的安定性」、(2)界面の電子状態として「エネルギー準位の整列」にテーマを絞り、まず界面の原子構造と電子状態の特徴について理論の立場からなるべくわかりやすく説明する。次に、これら特徴がどのような仕組みで取り出されるか実験例を示しながら解説する。
界面の形態(原子秩序、組成、乱れ等)は、格子定数・原子結合等のintrinsicな構造的・化学的整合度や成長プロセスなど非常に多くの要因で決定され、その形態は界面物性を支配する。そこで、歪みが重要な働きをするGaAs上でのInAsぬれ層形成やSiO2/Si界面でのSi酸化を例にとり、反射率差分光で界面形成過程の情報がreal timeに観測される仕組みについて解説する。また、形成された界面の安定性を決める因子を解説し、その観測について議論する。
一方、A/B界面には、界面での並進対称性の破れや不純物等の界面欠陥構造に起因して、界面に局在した電子状態が現れる。この界面状態は、界面での電荷移動を誘起し、A,B間のエネルギー準位の整列(band offset, Schottky barrier)を決定し、界面を介しての電気伝導・光学特性を支配する。そこで、奇妙に振る舞う最近の金属/high-k酸化物界面を従来の金属/半導体界面と比較しながら、offsetが決定されるメカニズムを一般的に説明する。さらに、このoffsetがXPS等の分光やIV、CV測定で観測される仕組みについて解説する。

講演題目

光電子ホログラフィによる原子配置の三次元構造解析

講師

松下 智裕 ( JASRI )

表面や界面など局所領域の原子配列を観測することは、ナノテクノロジーを発展させる上で重要なテーマの一つである。現在、既に原子配列の情報が得られる幾つかの方法がある。STMやLEED、 RHEEDなどがその例である。しかしながら、これらの手法のみでは、原子配列の決定は不可能で、他の手法と組み合わせる必要がある。光電子ホログラフィーは新たな原子配列の決定法として研究されてきた。光電子ホログラムの測定方法は非常に単純で、サンプルに光を当て、内殻準位から、光電子を励起する。光電子の強度の二次元角度分布(極角、方位角)がホログラムになる。このホログラムには、光電子を放出した原子の周囲の原子配列が記録されている。このホログラムから実空間像を得るには、再構成計算が必要である。今までに開発された計算法は、複数のエネルギーで測定したホログラムを利用しなれけばならなかった。これではエネルギー可変の光源(放射光など)が必要で、長時間の測定が必要である。それでも、第一近接の原子までしか原子配列が得られず、実用的ではない。我々は、近年、単一のエネルギーの光電子ホログラムから、20~100個程度の原子の配列を求められる新たな計算法を開発した。この計算法は、電子が原子によって散乱される過程を正確に取り込み、最大エントロピー法を使った収束計算を用いているため、従来より精度が良い。さらに、単一のエネルギーホログラムで良いため、ホログラムの測定には、放射光だけでなく、実験室光源(X線管等)を光源として用いることが可能となった。光電子ホログラフィーは、光電子とその散乱を利用するため、サイト選択性や、表面に感度があり、原子核の位置情報が得られるという特徴を持つ。さらに、結晶中の不純物や表面吸着子など、結晶性を持たない場合も測定可能である。さらに、オージェ電子も利用可能となり、電子線なども励起源として使える。SEMなどと組み合わせれば、ミクロンスケールの構造体の中の原子配列も測定可能と考ている。したがって、実験室レベルで手軽に、不純物や表面や界面の原子配列を求める方法として、発展していく可能性がある。講演では、光電子ホログラフィーの原理だけでなく、最先端の測定法、再構成理論、応用研究の可能性について解説を行う予定である。

講演題目

光電子分光による有機薄膜の配向・界面電子状態解析

講師

上野 信雄 ( 千葉大 )

有機デバイスが実用化され、さらに高性能化へ向けた研究開発が行われている。有機薄膜とその界面の電子構造はこれらデバイス機能の中心的役割を演じ、その配向・界面電子状態解析が広く求められてきた。その結果、柴外光電子分光法(UPS)はこれら有機デバイス中の電気的性質、電荷ダイナミックスの解明に不可欠であるだけでなく実デバイスの設計にも不可欠になっている。実デバイスの開発においてもUPSによる情報が不可欠になっている点は、有機薄膜デバイスの大きな特徴であるが、一方ではその界面での電子準位接続問題に関連する基本的な問題や、得られたUPSデータをどのように「解読する」かという問題も多く残されてきた。前者は分子集合構造とも密接に関連し、分子集合構造自体のダイナミックレンジの広い空間的かつ時間的変動と無関係ではなく、また後者は巨大な有機分子の光イオン化をどのように取り扱うかという理論的問題をも含んでいる。これらの問題は、バンド幅が極端に狭い有機薄膜中のフェルミ準位の位置、弱相互作用界面での電荷交換、ドーピング現象、局在フォノンとホールとの結合など、基礎科学的に見ても重要な課題と関連し、多くの研究者を悩ませてきた問題であり、分子間相互作用が弱い有機薄膜が持つ特有の性質の結果である。これらをどのように統一的にとらえうるか、いったい何が生じているかといった点に視点を置き、有機半導体薄膜及びその界面の電子状態について特に電気的性質との関連に注意してその特徴を以下の項目について解説する。(1)弱い相互作用系である有機薄膜・界面電子状態の特徴、(2)UPSバンド幅の原因、(3)界面双極子ナノテクノロジーによる電子準位制御と電子準位接続の本質、(4)UPS強度の定量的解析による分子配向情報、さらに(5)光電子顕微鏡(PEEM)や超高準度UPSによる研究展開(ギャップ状態、埋もれた界面へのアプローチ)等についても時間の許す限り言及する予定である。

講演題目

走査電子顕微鏡による埋もれた構造体の観察

講師

永瀬 雅夫( NTT )

本講演では、走査電子顕微鏡による酸化物中に埋もれた導電性ナノ構造の観察方法を解説する。従来法の断面TEMを代表例とする破壊検査法から、非破壊検査法である最新の透視SEMまでの解説を行う。観察対象は、Si系のナノデバイスを想定して主に酸化膜中に埋もれたSiナノ構造である。
電子デバイスの動作部分は、通常、埋もれた構造体である。デバイスのサイズが大きい場合にはリソグラフィで規定された形状と、実際のデバイス構造は大きくかけ離れてはいないため、最終的な埋め込まれたデバイス構造を観察する必要性はあまりない。しかし、デバイスの微細化が進み、さらに構造が三次元になると、予測通りの構造が出来る保証は無く、直接埋め込まれた構造体を観察しその形状を把握しなければいけなくなる。
埋もれた構造については、エッチングにより構造を表面に出しての観察、構造を含む部分を薄層化しての透過観察、断面加工を後の断面観察等がこれまで一般的に行われてきた。いずれの方法も破壊検査ある上に、微細化が進むほど観察箇所の特定が困難になる。そのため、非破壊で埋もれた構造を観察する手法が必要とされている。
観察対象のデバイスサイズは100nm以下であるため、高分解能である必要がある。また、埋もれた構造の直接観察のためには透過性も必要である。この条件を満たすプローブは比較的加速電圧の高い電子線以外には無い。二次電子に埋もれた構造の情報が含まれていれば像を得ることが出来る。
試料内部からの反射電子による埋もれた構造体が可視化できるのは古くから知られている。しかし、反射電子像のコントラストは一般に低く、例えば、Si酸化膜中に埋もれたSiナノ構造体を可視化することは出来ない。しかし、酸化膜の中に埋もれた導電性構造がある場合、酸化膜表面の帯電状態が埋もれた構造により変調されるため二次電子像を得ることが出来る。これが透視SEMの原理である。
講演では、透視SEM像の分解能は高く定量性にも優れることをSi単電子デバイス構造の観察例を用いて詳述する。

講演題目

蛍光 X線分光による多層膜界面の構造秩序解析

講師

柳原 美廣(東北大)

デバイスをはじめ、新規材料開発において新たな機能発現の場として界面に対する期待は近年益々高まっている。しかし、界面における物性発現機構の解明、あるいは界面の制御などの問題は現代の科学技術が取り組むべき重要課題であっても、その困難さのために多くの問題が未解決のままになっている。その一つが埋もれた界面における物性の非破壊評価である。しかし、従来から用いられている界面評価法は、破壊評価であったり、物性を評価しにくいなどの欠点がある。軟X線発光(蛍光)分光による埋もれた界面の評価は、軟X線の侵入深さ(脱出長さ)が数10 nmから数100 nmであるのと、発光スペクトルが価電子帯の部分状態密度を直接与えてくれる特徴を利用したものである。特に後者は、同じ原子でも化学結合状態によって敏感に変化するので、いわば物質の指紋の役目をする。また、光電子分光と異なり、荷電の問題を回避できるので、扱う材料に制限を受けないという利点もある。一方、かつては軟X線発光の量子効率は低いという難点もあったが、最近の高輝度放射光技術の発展により解消された。Fe/Si磁性多層膜は次世代の反強磁性結合素子として有望であるが、相互拡散の著しい系でもある。我々は、軟X線発光分光を用いて反強磁性層間結合が最も強いFe(3.0nm)/Si(1.3nm)多層膜の界面を解析した結果、はじめのSi層は相互拡散によって消費され、厚さが約0.7nmのFeSi2を0.5nmのFe3Siが挟む構造になっていることを明らかにした。また、これよりFeSi2が量子波干渉によって強い磁性層間結合を媒介していることを示した。このように、軟X線発光分光によってバルクに埋もれた、厚さがサブnmの界面の電子状態を非破壊的に評価できることを実証した。また、試料の多層構造を利用することにより、Bragg反射の近傍で多層膜中に軟X線定在波を励起し、界面からの情報を強調して取り出すことも試みている。

講演題目

放射光 X線回折による埋込み酸化膜の構造解析

講師

志村 考功(大阪大)

X線回折法はバルク物質の結晶構造を解析するのには非常に有効な手段である。しかし、放射光という高輝度光源の出現以前に、この方法が表面や界面の構造の研究に用いられることはあまりなかった。その主な理由は、X線は物質との相互作用が非常に小さいため、表面・界面からの散乱が弱く測定が困難であったからである。ところが現在では、今まで欠点であった物質との相互作用が小さいということが、逆に表面・界面構造解析手法としての注目すべき特長となっている。即ち、解析には一回散乱だけを考えるだけで良い運動学的回折理論を用いることが可能であり、定量的な解析を容易に行うことができる。また、吸収が少ないことから埋もれた界面の情報を試料を破壊することなく得ることができる。これらの特徴により、不確定な要因が少ない、非常に信頼性の高い結果を得ることができる。
本講演では、運動学的回折理論の基礎から始め、逆空間における逆格子、エヴァルト球と実空間における結晶構造と入射、散乱X線との関係、表面・界面や薄膜の様な2次元構造からの散乱の特徴、またその実際の測定方法を解説した後、シリコン熱酸化膜の原子構造研究への応用例を示す。
シリコン熱酸化膜とシリコン基板の界面準位密度は1011/cm2×eV以下であり、そのため熱酸化膜はMOSFETのゲート絶縁膜として重要な役割を果たしてきた。界面準位は絶縁膜と基板の不完全な原子間の結合によるものであり、熱酸化膜の原子構造はアモルファス構造であると考えられているので、結晶シリコン基板との界面における極めて低い界面準位密度は理解しにくい。そのため、古くから低い界面準位密度を説明するために、非常に多くの実験的、理論的研究がなされてきた。ここではX線回折法によって明らかになったシリコン熱酸化膜の残留秩序構造について、具体的な測定、解析例を用いて解説する。

講演題目

透過電子顕微鏡による界面構造の超高分解能観察

講師

田中 信夫(名古屋大)

透過電子顕微鏡は21世紀に入り、大きな革命期を迎えている。一つは、通常の透過型(TEM)の他に走査透過型(STEM)装置が普及し、1原子レベルの超高分解能観察とサブナノレベルの局所分析が可能になったこと、2つ目は電子レンズの収差補正技術の実用化により、TEM、STEMとも0.1nm以下の分解能が通常の部屋に入る装置でも容易に可能になったこと。そして3つ目は収束イオンビーム加工(FIB)の普及で半導体素子の断面観察が格段に容易かつ短時間で可能になったことである。本講演では、新しい方法としてのSTEM法の説明からはじめ、新しい技術としての電子レンズの球面収差補正技術と入射電子線単色化技術(モノクロメーター)、各種分析技法(EELSとEDX)の進歩の解説を行ない、ついでシリコン系半導体およびIII-V系半導体の界面構造の0.1nmレベルでの観察や分析結果、さらには最近活発に研究が進んでいるhigh-κ材料や将来の究極の配線材料と考えられるナノチューブの超高分解能観察の結果についても説明する。そしてTEMやSTEMの他の分析手法との違いや特徴についても議論して、聴講者に役立つ内容にしたい。

講演題目

イオン散乱分光による界面歪みの深さ分布解析

講師

木村 健二(京大)

半導体素子の高性能化に伴って、集積回路を構成するMOSFETの微細化が加速している。現在、MOSFETの心臓部であるゲート絶縁膜の厚さは1nmに迫っている。このため、ゲート絶縁膜自体の質の高さと同様に、シリコン基板との界面やゲート電極との界面を制御することが非常に重要になっている。最近では、現在実用化されているシリコン酸化膜やシリコン酸窒化膜に代わる、高誘電率のゲート絶縁膜の開発が活発であるが、その場合にも高品質膜形成に加えて、シリコン基板やゲート電極材料との界面反応の抑制を含めた界面の制御が重要であることに変わりはない。特にゲート絶縁膜と半導体基板の界面は、そのすぐ基板側にキャリアの通路(チャネル)があるので極めて重要である。また最近、シリコンを歪ませることによりキャリアの移動度が上昇することから、界面領域の歪みの測定と制御が重要な課題となっている。  本講演では、イオン散乱分光法を用いた界面歪みの分析について、その原理と応用例を紹介する。イオン散乱分光法は界面の組成分析に広く利用されているが、界面歪の分析にも利用できることを説明した後、イオン散乱分光法のうちで特に深さ分解能に優れている高分解能ラザフォード後方散乱法を用いて、SiO2/Si(001)やHfO2/Si(001)の界面歪みの深さ方向分析を行った例を紹介する。

講演題目

分光エリプソメトリーによる半導体と有機薄膜の評価

講師

藤原 裕之(産総研)

過去10年間に分光エリプソメトリーの測定・解析技術は飛躍的に発達し、分光エリプソメトリーは従来の基礎的な光学評価だけでなく、薄膜成長の実時間観測やより複雑な異方性有機薄膜の解析に用いられるようになっている。分光エリプソメトリーは、偏光した光を試料に照射し、光反射による偏光状態の変化から試料の光学定数および構造を評価する技術であるが、特に非破壊・高速測定が可能であり、非常に高い測定感度(膜厚感度:0.1Å)を持つことが特徴である。しかし、分光エリプソメトリーは基本的に間接評価手法であり、試料解析には屈折率および膜厚で定義される光学モデルが必要となる。また、エリプソメトリー測定では偏光状態の変化を測定するため、測定結果が直感的に分かりにくいなどの欠点がある。本講演では分光エリプソメトリー測定・解析技術を基礎から解説し、応用として実時間観測による半導体界面の評価および光学異方性評価による有機薄膜の配向性評価を紹介する。分光エリプソメトリーの実時間観測からは、界面形成時の薄膜成長機構を原子レベルで明らかにすることができ、有機薄膜の光学異方性評価からは有機分子が基板に対してどのように配向し、どのような電子状態を示すかを調べることが可能である。本講演では、半導体および有機薄膜材料に関するエリプソメトリー分野の最新の研究成果を紹介する。

講演題目

赤外反射吸収分光による溶液中の生体計測

講師

庭野 道夫(東北大)

多くの謎を秘めた生命現象の解明のために,DNA,タンパク,細胞などに対する新しい高性能バイオセンシング技術の開発が強く望まれている。特に、多くの生体分子や細胞は溶液中あるいは培養液中でその機能を発現するために,それらの機能を解析するためには,「その場」で,すなわち溶液中で生体を分析できる解析技術が必要不可欠である。本講演では,そのような計測技術の一つである赤外分析法について,最近の研究動向も含めて簡単に解説し,さらに,我々が活用している多重内部反射型赤外分光法の原理と利点を紹介する。この分光法では、赤外線を多数回内部反射(全反射)させながら半導体結晶中を透過させ、赤外線が全反射する際に表面付近にできるエバネッセント場を利用して表面付近の化学状態を分析する。生体物質や細胞が含まれる溶液を半導体結晶表面に接すれば,半導体表面付近の溶液中の生体の状態が「その場」でかつ高感度で分析できる。また,表面に生体分子や細胞を固定化させれば,生体分子間相互作用や細胞間相互作用を効率的に検出・分析できる。本講演では,溶液中のDNAの挙動(相補対形成や熱変性など)や細胞の変化(細胞死や細胞分化)の「その場」解析を中心に,多重内部反射型赤外分光法を用いた最近の研究の成果を紹介し,この手法を使うことにより多様な生体センシングが可能になることを示す。

更新:2006/1/1