基礎講座:いまさら訊けない 太陽電池のための薄膜形成・分析技術

第39回 薄膜・表面物理 基礎講座(2010)

概要

協賛

日本物理学会、日本化学会、日本金属学会、日本表面科学会、電子情報通信学会、電気学会、触媒学会、日本真空協会、電気化学会、表面技術協会、日本顕微鏡学会、高分子学会、精密工学会、日本結晶学会、日本結晶成長学会、日本応用磁気学会、日本セラミックス協会、日本放射光学会、 日本太陽エネルギー学会、太陽光発電協会、日本エネルギー学会(依頼中)

概要

地球温暖化対策として各国で積極的な補助策が設けられるようになった太陽電池。発電効率が高く、製造コストを抑える新技術の開発競争が、以前にも増して激しく繰り広げられています。本講座では、太陽電池技術に詳しい講師をお招きし、最先端の開発に参入する上で欠かせない基礎技術ついて、幅広く講演いただきます。2日間のプログラムで、太陽電池のための薄膜形成技術と分析技術を把握できるようになっています。太陽電池の研究・開発に携わる若手技術者や、これから太陽電池の研究に取り組む方々にお勧めの講座です。

日時

平成22年11月25日(木) 10:00-16:30
26日(金)10:00-16:30

場所

早稲田大学理工学術院(西早稲田キャンパス55号館N棟1階大会議室)
〒169-8555東京都新宿区大久保3-4-1(http://www.mse.waseda.ac.jp/
地下鉄副都心線 西早稲田駅下車 出口3がキャンパスに直結
JR高田馬場駅 戸山口下車 徒歩10分
地下鉄東西線-高田馬場駅 下車 徒歩12分
西武新宿線-高田馬場駅 下車 徒歩12分
JR新大久保駅 下車 徒歩10分

 

プログラム

11月25日(木)
日時 講演題目(仮) 講師(案)
10:00-11:00 太陽電池技術の最新動向 近藤道雄(産総研)
11:00-12:00 第三世代太陽電池研究開発の現状-シリコン量子ドット・ワイヤを用いた新世代太陽電池- 黒川康良(東工大)
12:00-13:00 昼食
13:00-14:00 表面・界面制御によるシリコン太陽電池の高効率化 小林 光(阪大)
14:00-15:00 有機太陽電池における有機・無機界面評価技術 島田敏宏(北大)
15:00-15:30 休憩
15:30-16:30 太陽電池のデバイスシミュレーション-CIGS太陽電池の最適設計- 峯元高志(立命館大)

 

11月26日(金)
日時 講演題目(仮) 講師(案)
10:00-11:00 CIGS太陽電池における欠陥準位評価法(電気・光学測定)の紹介 櫻井岳暁(筑波大)
11:00-12:00 CIGS太陽電池の研究開発の歩みとさらなる高性能化 仁木栄(産総研)
12:00-13:00 昼食
13:00-14:00 色素増感太陽電池のための薄膜分析・形成技術 荒川裕則(東京理科大)
14:00-15:00 CdTe多結晶薄膜太陽電池 岡本保(木更津高専)
15:00-15:30 休憩
15:30-16:30 ガラス基板上薄膜Si結晶成長過程の分子動力学シミュレーション 本岡輝昭(九州大)

 

 

参加費

テキスト代、消費税含む

薄膜・表面物理分科会会員 * 応用物理学会会員 **
協賛学協会会員
学生*** その他
2日間 15,000円 20,000円 10,000円 25,000円
1日のみ 9,000円 12,000円 6,000円 15,000円

*薄膜・表面物理分科会賛助会社の方は、分科会会員扱いといたします。現在非会員の方でも参加申込時に薄・表分科会(年会費 A:3,000円,B:2,200円)にご入会いただければ、本講座より会員扱いとさせて頂きます。下記応物ホームページより入会登録を行い、仮会員番号取得後、本講座に参加お申し込み下さい。入会決定後、年会費請求書をお送りいたします。本講座参加費と同時に振込しないで下さい。
http://www.jsap.or.jp/

**応用物理学会賛助会社の方は、応用物理学会会員扱いといたします。 ***学生の場合、会員・非会員とも参加費は同額です。

定員

100名

参加申込方法

下記分科会ホームページ内の登録フォームにて参加登録してください。
https://annex.jsap.or.jp/phpESP/public/survey.php?name=HakuhyouKisokouza39

参加登録完了後、下記銀行口座に参加費をご連絡いただいた期日までにお振込ください。原則として参加費の払い戻し,請求書の発行は致しません。
*領収書は当日受付にてお渡しいたします。

参加費振込先

三井住友銀行 本店営業部(本店も可)
普通預金 9474715
(社)応用物理学会 薄膜・表面物理分科会
(シャ) オウヨウブツリガッカイハクマク・ヒョウメンブツリブンカカイ

参加申込締切

2010年11月10日(水)

参加費振込締切

2010年11月12日(金)

内容問合せ先

小高秀文
旭硝子・中央研究所
TEL:045-374-7117
E-mail:
渡邉孝信
早稲田大学
TEL & FAX:03-5286-1621
E-mail:

参加問合せ先

〒102-0073 東京都千代田区九段北 1-12-3
井門九段北ビル5F
応用物理学会 分科会担当  伊丹
TEL:03-3238-1043
FAX:03-3221-6245
E-mail:

講演詳細

講演題目

太陽電池技術の最新動向

講師

産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター
近藤 道雄

太陽光発電がエネルギー環境問題だけでなく日本の持続的経済発展のための柱として取り上げられるようになったことは筆者にとって隔世の感がある。それでもこれからエネルギーの柱として太陽光発電が発展するためにはコストと性能の問題を解決していく必要がある。元来、密度の低い太陽光エネルギーから、それが何百万年というオーダーで濃縮、蓄積されてきた化石燃料並みのコストで電気エネルギーを取り出すというのは並大抵のことではない。そのためには太陽電池の変換効率を上げ、かつ低コストで製造する技術を開発していかねばならない。
現代の太陽電池の歴史は1954年のベル研究所におけるシリコン太陽電池の発明に始まるといってよいが、その後Shockley-Quisserの理論、Greenらによる24.7%の変換効率の達成をもってシリコン太陽電池の基本技術としては一旦完成を見たと言ってよい。その後、超薄型あるいは薄膜太陽電池の開発、CdTeやCISに代表される非シリコン系太陽電池の開発、集光型を用いた超高効率太陽電池の開発など、様々なバリエーションの太陽電池が開発されてきた。将来的には有機系太陽電池も有望視されている。太陽電池の特徴はこの材料の多様性にあると言っても良いが、逆に言うと、これといってまだ決め手がないという言い方もできる。
本講座では原理から始まって、太陽電池の基本となるキー技術と課題、その克服への試み、そして多様な材料による最新のアプローチを概観しながらこれからどの技術が有望であるかを探ってみたい。

講演題目

第三世代太陽電池研究開発の現状
-シリコン量子ドット・ワイヤを用いた新世代太陽電池-

講師

東京工業大学 黒川 康良

温室効果ガス削減の有望な手段である太陽光発電に対する期待は年々高まっている。その中で、これまで以上の変換効率向上が望まれており、超高効率を謳う第三世代太陽電池に関する研究も広がりを見せている。それでは、第三世代太陽電池とはどういったものなのか。
第一世代のバルクシリコン太陽電池に対して、薄膜シリコンやCIGSなどの薄膜太陽電池を第二世代太陽電池と呼ぶことに抵抗を感じる者は少ないと思われる。一方、その先を行く第三世代については、大きく意見の分かれるところであるが、ここでは最初に第三世代という用語を用いたM. Green(New South Wales大学、Australia)の提案した新構造を第三世代太陽電池と呼ぶことにする。M. Greenのいう第三世代の太陽電池とは、従来の太陽電池の基本原理を破るため新概念を導入し、効率40%を超えるような超高効率の変換効率を示す太陽電池を100$/m2という低コストで実現しようというものである。このような新概念を用いた太陽電池として、①ホットキャリアセル、②中間バンドセル、③オールシリコン・タンデムセル、④マルチエキシトンセルがある。ホットキャリアセルの基本的な考え方は、従来の太陽電池では、どうしても避けられなかった(フォトンのエネルギー)-(バンドギャップ)のエネルギーを、何とか外部に取り出したいと言うものである。これにはキャリアの熱緩和時間が通常より長くなる構造が必要であり、それが可能な材料や構造の探索が行われている。オールシリコンタンデム型は量子ナノ構造で形成されるミニバンドを利用して光電流を取り出そうとするもので、量子サイズ効果によるバンドギャップ制御が可能なことから、積層型シリコン量子ナノ構造太陽電池を作製し高効率化が実現可能である。また、量子ドットを用いると、一つの短波長フォトンから2組以上の電子―正孔対を発生させることがバルクより容易に起こるとの報告があり、これを太陽電池に応用するのがマルチエキシトン型である。中間バンド型太陽電池はバンドギャップ内に適切なエネルギー幅のバンドを意図的に形成し、中間バンドを介して長波長の2光子を吸収することで電流として取り出すものである。
こうしてみると、いくつかの新概念太陽電池に量子構造が利用されている。量子構造の代表としては、量子ドットや量子ワイヤがある。本講演では、第三世代太陽電池研究の現状について触れた後、シリコン系ナノ構造を利用した太陽電池である、シリコン量子ドット・ワイヤ太陽電池の基本原理、作製方法、研究の進捗状況などについて説明する。

講演題目

表面・界面制御によるシリコン太陽電池の高効率化

講師

大阪大学・産業科学研究所 小林 光

本講演では、シリコンダングリングボンド等の欠陥準位を消滅させると同時に金属汚染を除去することのできる欠陥消滅型半導体洗浄法、及び高性能な極薄酸化膜(SiO2)/Si構造を120℃以下の低温で形成できる硝酸酸化法によるSi太陽電池の高性能化について解説する。
欠陥消滅型洗浄法では、多結晶シリコン等のシリコン材料を極低濃度のHCNを含む水溶液に室温で浸漬するだけで、金属汚染が除去されると共に欠陥準位が消滅される。例えば、銅で強制汚染したシリコンを濃度0.027%の欠陥消滅型洗浄液に室温で10秒浸漬するだけで、銅汚染が完全に(検出限界である~3×109原子/cm2以下に)除去される。また、鉄、ニッケル、クロム、亜鉛等の典型的な金属汚染がすべて除去できることがわかっている。極低濃度(例えば3ppm)の欠陥消滅型洗浄液を用いても、数分間の洗浄で金属汚染が除去できる。
欠陥消滅型半導体洗浄法では、洗浄液中のシアン化物イオン(CN-)がシリコンダングリングボンド等の欠陥準位に選択的に吸着してSi-CN結合を形成する結果、欠陥準位が消滅する。Si-CN結合は、Si-H結合の結合エネルギーよりも1eV以上大きな4.5eVの結合エネルギーを持つ強固な結合であり、800℃での加熱処理や可視・紫外光照射によって切断されないため、加熱や紫外線照射に対して安定であることがわかっている。したがって、欠陥消滅型洗浄法をシリコン太陽電池に適用すれば、欠陥消滅効果と金属汚染除去効果によって、太陽電池特性が向上する。
LSI及びTFTのゲート酸化膜への応用を目指して、SiO2/Si構造を低温で形成できる硝酸酸化法を開発した。硝酸濃度の増加に伴いSiO2膜を流れるリーク電流密度は減少し、濃度98%の硝酸で形成したMOSダイオードでは、同換算膜厚(1.5nm)のシリコンオキシナイトライド膜よりも低いリーク電流密度を持つ。低いリーク電流密度の原因は、1)低い界面準位密度、2)高い原子密度、3)低いサブオキサイド濃度、4)均一な酸化膜厚によることがわかっている。
硝酸酸化膜をシリコン太陽電池に応用した場合、効果的にシリコン表面のパッシベーションが行われる結果、高効率化が達成できる。例えば、多結晶シリコンpn接合太陽電池に硝酸酸化法を適用した結果、エネルギー変換効率は1割程度向上した。海外でも硝酸酸化法をシリコン太陽電池に適用する研究が行われており、硝酸酸化膜をシリコン基板と反射防止膜であるシリコン窒化膜の間に挿入した場合、単結晶シリコンpn接合シリコン太陽電池の変換効率が16%から18%に向上することが報告されている。

講演題目

有機太陽電池における有機・無機界面評価技術

講師

北海道大学 島田 敏宏

有機太陽電池においては、有機半導体接合界面、電極-有機半導体界面、基板-有機半導体界面という3つの重要な界面が存在する。本講では、有機太陽電池の原理と特徴から説き起こし、それぞれの界面に適用される評価技術とその解釈について解説する。有機太陽電池においては励起子拡散長が短くキャリヤ移動度が小さいことから、各界面はナノスケールの構造制御が要求される。したがってその評価手法も従来の無機半導体に対するものでは不足の場合があり、様々な方法を駆使して研究が進められている。
光吸収と電荷分離にかかわる有機半導体接合界面においては、定常状態を測定する光電変換スペクトルや電子分光等と、動的な電荷分離機構を調べるための超高速分光について述べる。電荷の外部への取り出しにかかわる電極-有機半導体接合界面については、電子分光等の他に電気的測定を併用した評価法も用いられる。有機半導体の結晶性にかかわる基板-有機半導体界面においては構造評価技術に加えて薄膜構造制御のための基板処理技術についても触れる予定である。新しい評価手法がいろいろ提案されており、盛んに使われているものもあるが、適用可能な条件について慎重な検討が必要である。

講演題目

太陽電池のデバイスシミュレーション -CIGS太陽電池の最適設計

講師

立命館大学 峯元 高志

デバイスシミュレーションは、デバイス設計に役立つだけではなく、実デバイスの動作と比較することによって、物性パラメータのフィッティングによる推定や、デバイスの高効率化のボトルネックを明らかにすることができる。太陽電池の基本的な設計・動作解析には、一次元デバイスシミュレータでも十分に役立つ。また、一次元デバイスシミュレータは、安価あるいはフリーで提供されている場合が多い。本講演では、基本的なデバイスシミュレーションの考え方・手法を解説した後に、各種デバイスシミュレータ(PC1D:University of New South Wales, Prof. P. A. Basore、SCAPS:University of Gent, Prof. M. Burgelman、AMPS-1D:The Pennsylvania State University, Prof. S. Fonash、NSSP:Ritsumeikan University、Prof. H. Takakura)の特徴について紹介する。各種シミュレータによって、計算可能な層数が異なるため、バンドギャップ中の欠陥準位分布、膜厚方向の物性値変化を考慮できるものもある。各種太陽電池のシミュレーション事例に触れた後、特にCIGS太陽電池のシミュレーション事例について紹介する。また、タンデム構造や界面再結合を模擬するためのデバイスシミュレーション特有の手法についても解説する。

講演題目

CIGS太陽電池における欠陥準位評価法(電気・光学測定)の紹介

講師

筑波大学大学院 数理物質科学研究科
櫻井 岳暁

要旨

Cu(In,Ga)Se2(CIGS)薄膜太陽電池において、CIGS薄膜中に存在する欠陥は、光生成キャリアの捕獲準位や再結合中心として働き、太陽電池特性に悪影響を及ぼす。よって、CIGS薄膜の欠陥準位を同定しこれを制御することが可能になれば、CIGS薄膜太陽電池のデバイス特性を改善するための指針を得ることができる。一方、CIGS薄膜に存在する欠陥準位は、熱やバイアス電圧のストレスに対する安定性に乏しく、通常の半導体の欠陥準位検出に用いられる電気的評価法(例えばDeep Level Transient Spectroscopy法)の使用が難しい。ただし、ここ数年新たな電気的評価法が開発され、CIGS薄膜太陽電池における欠陥準位の起源やその電子物性に与える影響が徐々に理解されるようになってきた。本講演では、CIGS薄膜太陽電池に有用な電気的評価法として近年注目される、アドミッタンススペクトロスコピー法(Admittance Spectroscopy)と光容量過渡分光法(Transient Photo-Capacitance Spectroscopy)を中心に、CIGS薄膜太陽電池における欠陥準位評価法について測定原理や欠陥検出例を紹介する。

講演題目

色素増感太陽電池のための薄膜形成・分析技術

講師

東京理科大学 荒川 裕則

有機系材料を用いた太陽電池の一つである色素増感太陽電池は、その製造において資源的制約も少なく、従来型の太陽電池にくらべ、製造コストが1/2~1/3程度に低減できることから、次世代型太陽電池の一つとして注目されている。現在、基礎研究からモジュールの屋外実証試験に至るまで広範な研究開発が展開されており、研究室レベルでのミニセルの性能は、変換効率12%、10cm角モジュール程度で8~9%の性能が得られている。本講演では、まず色素増感太陽電池の作動原理、構造、特徴について述べる。次に、色素増感太陽電池の作製法、特に高性能化の為のチタニア薄膜光電極の作製法等について紹介し、最後に、色素増感太陽電池の性能評価方法やEIS(Electrochemical Impedance Spectroscopy)やSLIM-PCV法(Stepped LightInduced Measurement of Photo-Current and Voltage)等を用いた解析技術について紹介する。

講演題目

CdTe多結晶薄膜太陽電池

講師

木更津高専 岡本 保

CdTe太陽電池は、CdTe光吸収層が約1.5 eVと太陽電池として最適な禁制帯幅を有しており、簡単なプロセスで高速に作製できることから、低コストで高効率な薄膜太陽電池として有望である。Cdの毒性のために日本では製造・販売されていないが、欧米では低コストな太陽電池として実用化され、最近急速に生産量を伸ばして注目を集めている。本講演では、CdTe太陽電池の構造、作製プロセスおよび現状、課題について述べる。
CdTe太陽電池は、ガラス基板/透明導電膜/n形CdS窓層/p形CdTe光吸収層/裏面電極というスーパーストレート型の構造を有している。CdTe太陽電池の小面積セルでの世界最高の変換効率は、現在のところNRELによる16.7%である。この太陽電池のCdTe光吸収層は近接昇華法(CSS法)と呼ばれる方法で作製されている。本講演ではまず、CSS法による作製プロセスについて述べる。CSS法とは、高温に保った化合物のソースと、低温の基板を2 mm程度の間隔で近接して向かい合わせに配置し、ソースを昇華させて基板上に堆積させる方法である。CSS法は、比較的簡単な操作によって結晶膜を高速で堆積できる(数μm/min)ため、低コスト化が図れることが利点としてあげられる。また、この手法では基板温度が600℃程度と他の手法に比べて比較的高温で製膜を行うため、大粒径で高品質のCdTe多結晶膜が得られる。
次に、ファースト・ソーラー社でのCdTe太陽電池の製法について述べる。同社での製法は不明な点が多いが、VTD (Vapor Transport Deposition)法という方法で製膜しているようである。この方法では、キャリアガスとともに供給された原料粉末をヒータで加熱して蒸気にしている。コンベアで運搬されてきた基板の表面に、この蒸気をスリット状の開口部から供給して製膜する。同社の製造プロセスでは、薄膜堆積時間が15秒以下であり、ガラス基板投入後約2.5時間でモジュールが完成するといわれている。製品レベルでの変換効率は10%程度である。このプロセスで、生産コストが1ドル/W以下に達しており、2009年生産量は1 GWを越え、世界第1位となった。CdTe太陽電池は、Te資源量の問題などが指摘されているが、低価格を強みに今後も生産量を伸ばしていくと思われる。

講演題目

ガラス基板上薄膜Si結晶成長過程の分子動力学シミュレーション

講師

九州大学大学院工学研究院
本岡 輝昭

ガラス基板上への多結晶シリコン(Si)薄膜形成技術の高度化は、太陽電池や薄膜トランジスターの高性能化に重要である。本講座では、分子動力学(Molecular Dynamics, MD)シミュレーションを用いて、ガラス基板上薄膜Siの結晶化を計算機の中で模擬的に行う方法について解説する。分子動力学法は、物質の振る舞いを、その物質を作っている原子や分子の古典力学的運動に基づいて調べる方法で、結晶成長過程の原子スケールダイナミックスの可視化や成長メカニズムの解明に有用である。実験的には、ガラス基板上に50-100nmの非晶質Si薄膜を形成した後にパルスレーザー光照射により短時間(〜100ns)で非晶質Siを溶融・再結晶化する技法が広く用いられている。本講演では、MD法の基礎とともに、具体的な応用例として、光源に紫外領域の波長を持つエキシマーレーザーを用いたExcimer Laser Annealing (ELA)による非晶質Siの結晶化過程のMDシミュレーションについて解説する。多結晶Siの高品質化には、核形成サイトや結晶粒径および結晶面方位の制御技術が重要となるが、その指針を得ることを目的として我々のグループがこれまでに行ってきたMDシミュレーションの主な結果:(1)非晶質Si薄膜表面へのエキシマーレーザーパルス照射による加熱・溶融・冷却過程の可視化、(2)ELAにより得られる多結晶粒径のレーザー強度依存性、(3)レーザー光強度変調ELAによる表面結晶方位制御技法等を、動画も交えて紹介したい。また、シミュレーションにより得られた原子配置と、高分解能電子顕微鏡による原子像観察結果との比較についても述べる。

更新:2010/11/25