基礎講座:量子構造の基礎から応用まで

第36回 薄膜・表面物理 基礎講座(2007)


協賛

日本物理学会、日本化学会、日本金属学会、日本表面科学会、電子情報通信学会、電気学会、触媒学会、日本真空協会、電気化学会、表面技術協会、日本顕微鏡学会、高分子学会、精密工学会、日本結晶学会、日本結晶成長学会、日本応用磁気学会、日本セラミックス協会、日本放射光学会(依頼中)

概要

ナノテクノロジーの進展とともに、ナノ~量子構造を利用した新しいデバイスの提案・開発が急速に進んでいます。本講座では、大学院学生、企業等の研究者を対象とし、量子構造の物理(電子閉じ込め効果など)、作成法、及び評価法に関して基礎から説明します。さらに、それらを利用した各種デバイスの原理、及びその現状と将来展望について学んでいきます。特に、量子構造のさまざまな形態(ドット、ワイア、ウェル、3Dナノ構造)が、どのようにデバイスに適用されるかを基礎から理解することを目的とします。講師として、第一線でご活躍の著名な研究者を招き、斬新で活発な議論を行っていきたいと考えています。皆様方のご参加を心よりお待ちしております。

日時

平成19年 11月 8日 (木) 10:00 – 17:00
9日 (金) 9:00 – 16:45

場所

東京理科大学(神楽坂キャンパス/森戸記念館・第二フォーラム)
東京都新宿区神楽坂 4-2-2 TEL: 03-5228-8110 (内線 1697 )
http://www.tus.ac.jp/info/setubi/morito.html
JR 総武線、地下鉄有楽町線、東西線、南北線飯田橋駅下車 徒歩5分

 

プログラム(題目をクリックすると要旨がご覧になれます)

11月8日(木)
日時 講演題目 講師
10:00~11:15 総論・量子構造の基礎:電子構造 樽茶清悟(東京大学)
11:15~12:30 総論・単分散ナノ粒子の合成とその物性 瀬戸章文(金沢大学)
12:30~13:30 昼食
13:30~14:30 単一単層カーボンナノチューブの基礎物性評価 村越 敬(北海道大)
14:30~15:30 カーボンナノチューブ合成・評価法の現状と課題 本間芳和(東京理科大)
15:30~16:30 休憩
16:30~17:00 FinFETとシリコンナノワイヤトランジスタ 平本俊郎(東京大学)

 

11月9日(金)
日時 講演題目 講師
9:00~10:00 半導体量子ナノ構造の光検出器・発光素子応用 榊 裕之(豊田工大)
10:00~11:00 有機ナノデバイスとSPM評価 橋詰富博(日立 基礎研)
11:00~12:00 フォトニック結晶による光制御の現状と展望 野田 進(京都大学)
12:00~13:10 休憩
13:10~14:10 強相関スピントンネル接合の界面制御 赤穂博司(産総研)
14:10~15:10 分子およびナノ磁性体の化学構築とその展開 阿波賀邦夫(名古屋大学)
15:10~15:30 休憩
15:30~16:45 総論・グラフェンの物理と最近の発展 安藤恒也(東工大)

 

 

参加費

テキスト代、消費税含む

薄膜・表面物理分科会会員 * 応用物理学会会員 **
協賛学協会会員
学生 その他
15,000円 20,000円 3,000円 25,000円

* 薄膜・表面物理分科会賛助会社の方は、分科会会員扱いといたします。
** 応用物理学会賛助会社の方は、応用物理学会会員扱いといたします。

定員

100名

現在非会員の方でも 参加申込時に薄・表分科会 (年会費 A:3,000円,B:2,200円)にご入会いただければ、本講座より会員扱いとさせて頂きます。 下記応物ホームページより入会登録を行い、仮会員番号取得後、本講座 に参加お申し込み下さい。 入会決定後、年会費請求書をお送りいたします。本講座参加費と同時にお振込なさらないで下さい。
http://www.jsap.or.jp/

参加申込方法

下記分科会ホームページ内の登録フォームにて参加登録してください。
https://annex.jsap.or.jp/phpESP/public/survey.php?%20name=HakuhyouKisokouza36
参加登録完了後、下記銀行口座に参加費をご連絡いただいた期日までにお振込ください。原則として参加費の払い戻し,請求書の発行は致しません。
*領収書は当日受付にてお渡しいたします。

参加費振込先

三井住友銀行 本店営業部(本店も可)
普通預金  9474715
(社)応用物理学会 薄膜・表面物理分科会
(シャ)オウヨウブツリガッカイハクマク・ヒョウメンブツリブンカカイ

参加申込締切

2007年11月5日(月)

内容問合せ先

吉村雅満(豊田工業大学)
TEL:052-809-1851
FAX:052-809-1851
E-mail:yoshi@toyota-ti.ac.jp

笹川 薫(コベルコ科研)
TEL:078-992-6081
FAX:078-992-6314
E-mail:sasakawak@kobelcokaken.co.jp

参加問合せ先

〒 102-0073 東京都千代田区九段北 1-12-3
井門九段北ビル 5F
応用物理学会 分科会担当 伊丹
TEL:03-3238-1043
FAX:03-3221-6245
E-mail:divisions@jsap.or.jp

講演詳細

講演題目

総論・量子構造の基礎:電子構造

講師

樽茶清悟(東京大学)

量子構造は、それ自体低次元系(0-2次元系)の物性やその中に閉じ込められた電子の相互作用などの研究対象として興味深いが、最近では、量子ドット構造の特徴を巧みに利用して、電荷、軌道、スピンなどの量子力学的自由度を自在に制御することも可能になってきた。その結果、とくにスピン自由度は極めて安定で環境の影響を受けにくいこと、スピンを利用してスピンフィルターや電子整流などのデバイス的動作が可能であることなどが分かってきた。さらには、スピンのコヒーレンスを情報に応用することによって、量子力学を直接利用した情報処理(固体量子情報処理)も考えられている。本講演では、このような量子ドット構造の物理と技術を中心として、様々な素材や方法で作られている量子ドットの特徴、量子情報処理への応用などについて紹介する。

講演題目

総論・単分散ナノ粒子の合成とその物性

講師

瀬戸章文(金沢大学)

量ナノテクノロジーの進歩により、ナノ材料の構成要素(building blocks)として用いられる、直径が約20nm以下のナノ粒子が注目されている。これらのナノ粒子においては、電子状態の変化に伴う特異な電磁気的効果(量子効果)の発現や、表面原子が占める割合の増大(表面効果)などによって、バルク素材には無い優れた特性を持つことが知られている。これらのナノ粒子の合成法として、固相法や粉砕法などのいわゆるブレークダウンでは、得られるナノ粒子のサイズに限界があり、原子・分子からナノ粒子を形成するビルドアップ法の適用が必要となる。また、得られるナノ粒子のハンドリング技術としても、平均粒径の制御だけでなく、分散性、球形化、二次凝集の抑制や表面修飾など、粒子の形態制御に関する新たな技術の開発が重要となっている。ここでは、種々のプロセスによる単分散ナノ粒子の合成とその物性(光学・磁気・化学特性)に関して、最近の研究例を中心に紹介する。

講演題目

単一単層カーボンナノチューブの基礎物性評価

講師

村越 敬(北海道大)

単層カーボンナノチューブの電子構造は、理想的な1次元量子細線としての特徴を有し、それらがチューブの直径とカイラリティによって敏感に変化することが知られている。将来のナノデバイス構築には、この構造敏感な特性の把握・利用が必須となってくる。最近になって、炭素原子数個レベルでの構造の差が、予想よりも大きなエネルギーレベルの差異となってくることがわかってきた。孤立分散させた単一ナノチューブのラマン散乱強度をチューブの電子密度を制御しながら測定し、そのカイラリティ依存性を検討した結果、直径の逆数に比例してチューブの仕事関数が大きく減少することが示された。この物性の差を利用することにより、チューブを高い精度をもって分離することが可能となる。さらに金属ナノ構造と単一チューブを組み合わせることにより興味深い光物性が発現することもわかってきた。

講演題目

カーボンナノチューブ合成・評価法の現状と課題

講師

本間芳和(東京理科大)

カーボンナノチューブ(CNT)はそれを構成するグラファイトシートの巻き方(キラリティ)によって、金属にも半導体にもなるという特異な性質を持つ物質である。さらに、ナノメータの極微細な直径でありながら、長さはミクロンからミリメータになる擬一次元のナノ構造体であり、リソグラフィ(トップダウンテクノロジー)を用いて微細デバイスを形成することができる。このため、微細デバイスのビルディングブロックとして、ボトムアップ・トップダウンテクノロジーの融合を実現する材料として期待されている。しかし、その実現にはCNTの高度な合成制御技術の確立が不可欠である。本講演では、デバイス応用に向けた基板上でのCNT合成技術と、それを支える計測・評価技術に焦点を絞り、最近の研究の進展を概観する。また、合成制御の基礎となるCNTの成長機構に関して、ナノ触媒研究の進展に基づいた最新の理解を紹介する。

講演題目

FinFETとシリコンナノワイヤトランジスタ

講師

平本俊郎(東京大学)

大規模集積回路(VLSI)を構成するMOSトランジスタは,性能向上のため急激に微細化が進んでおり,現在ではゲート長約35nmのMOSトランジスタが量産されている.さらなる微細化を進めるためには,従来のプレーナ構造トランジスタを単に微細化するだけでは性能は向上せず,FinFETのような三次元構造デバイスからさらにはナノワイヤトランジスタへと構造が進化していくものと考えられている.FinFETあるいはナノワイヤチャネルの線幅が10nmを下回る領域にはいると,室温においても各種量子効果等が発現し,デバイス特性に大きな影響を与える.すなわち,将来のVLSIデバイスを設計するためにはナノデバイス物理の理解が必須であり,これらを積極的に利用した高性能デバイスの実現が望まれる.本講演では,シリコンナノデバイス中の物理現象について述べるとともに,VLSI向けトランジスタの将来動向について概説する.

講演題目

半導体量子ナノ構造の光検出器・発光素子応用

講師

榊 裕之(豊田工大)

量子井戸・量子細線・量子ドットなど、半導体ナノ構造の光検出器や発光素子への応用に関し、動作原理と開発状況を中心に、将来展望も含めて概説する。特に、バンド間の光学励起を用いた検出器、レーザ、単一光子の検出器や発生器、サブバンド間の励起を用いた赤外領域の検出器やレーザや波長変換素子に関し、特色と課題について述べる。また、超高速のトランジスタや共鳴トンネル素子などのサブミリ波領域への展開にも触れ、光と電波の境界がどのように埋められてきたかを、考察する。

講演題目

有機ナノデバイスとSPM評価

講師

橋詰富博(日立 基礎研)

有機分子、有機ナノワイヤ、カーボンナノチューブ、グラフェン、有機ナノ薄膜など、有機材料を用いた有機ナノデバイスが最近再注目を浴びている。有機デバイスへの期待は、有機材料の持つ多様性と自由度に起因した革新的な特性を持つデバイスが生み出される可能性にあると考えられる。これらの有機ナノデバイスでこれまでに得られている特性の概略を述べるとともに、特に、有機薄膜トランジスタ応用に必要な技術課題とその解決に向けた理論研究、SPM(走査プローブ顕微鏡)による評価研究の一環を紹介する。

講演題目

フォトニック結晶による光制御の現状と展望

講師

野田 進(京都大学)

フォトニック結晶は、光を自在に制御可能な光ナノ構造として大きな可能性をもつ。本講演では、フォトニック結晶の現状と将来展望について紹介する。特に重要な話題としては、(i)光を一瞬の間、止めておく、あるいは蓄積することを目指した高Q値ナノ共振器の進展に関すること。現在では、Q値200万が実現。(ii)従来はその制御が、極めて困難であった自然放出の制御が、フォトニック結晶の進展によって可能になってきたこと。特に、不要な発光を禁止し、そのエネルギーを真に必要な発光に使うことは極めて重要。(iii)全く新しいフォトニック結晶レーザの進展。大面積で、単一縦・横モードの動作が可能なレーザが実現されつつあること。以上を例に、フォトニック結晶の進展と将来展望を紹介したい。

講演題目

強相関スピントンネル接合の界面制御

講師

赤穂博司(産総研)

電子の持つ「電荷」と「スピン」の自由度を同時に利用した新しいナノデバイスとして、スピントロニクスが注目されている。特に、電子のスピンを反映した伝導現象として、スピントンネル効果による磁気抵抗TMRがあり、活発に研究開発が進められている。一方、ナノレベルでの微細な構造が制御されたナノ材料として、強相関電子系物質がある。強相関物質は、多数の電子が電荷だけでなく、スピンや軌道の自由度を含めて強く相互作用し、臨界的な量子相を形成している。この競合する複数の量子相は、ボトムアップ的にナノ構造を自己形成し、巨大応答の要因となっている。このような強相関電子系物質の一つとしてペロブスカイト型Mn酸化物があり、この中には、スピン完全偏極の強磁性体もあり、これを用いたスピントンネル素子では、巨大なTMR効果を示すことが期待される。この強相関スピントンネル素子を実現するには、ヘテロ構造が不可欠であり、原子スケールで制御するというトップダウンのナノ構造界面制御が必要となる。ここでは、強相関遷移金属酸化物のスピン完全偏極強磁性に焦点をあて、スピントンネル素子の構築に必要不可欠な界面磁性の直接観察と制御技術(界面エンジニアリング)について述べるとともに、強相関スピントンネル接合の作製と特性を紹介する。

講演題目

分子およびナノ磁性体の化学構築とその展開

講師

阿波賀邦夫(名古屋大学)

ナノスケールの磁性体開発を目指し、さまざまな化学的手法が検討されている。ボトムアップのアプローチとして、単分子磁石とよばれる高スピンクラスター錯体が盛んに合成された。サイズは数ナノメートルで、全てのクラスター分子は同一の化学組成と構造をもつことから、これらの単結晶をつくることもできる。超常磁性を示し、そのブロッキング温度は今のところ極低温に限られるが、すべての分子が同一の緩和時間をもつ。一方、トップダウンとアプローチとして、逆ミセル法やテンプレート法などのウェットな化学合成により、既存の無機磁性体をサブミクロン以下に形状加工する研究が盛んである。そのサイズは年々小さくなり、均一性も改善されつつある。また、中空形状など、特異な3次元構造の構築も可能である。本講演では、このような研究を概観した後、単分子磁石の物理化学から分子クラスター電池への展開、コア-シェル型無機磁性体の合成とその応用、について議論する。

講演題目

総論・グラフェンの物理と最近の発展

講師

安藤恒也(東工大)

最近,グラファイトの単原子層からなるグラフェン作製され, 電気伝導や量子ホール効果が観測された. その後,量子ホール効果の詳しい実験,磁気抵抗効果の測定,バンド間磁気光学吸収やサイクロトロン共鳴の観測,ARPES, 局所状態密度や電子密度分布の測定など,新しい実験研究が続々と報告されはじめている.さらに,2層あるいは3層グラフェンなども作られ,同様の実験が行われている.グラフェンは6角形の蜂の巣格子をもち,フェルミエネルギー付近のバンドは,第一ブリルアン域の端にあるK点とK’点付近で,波数の1次に比例する分散をもつ.その付近での電子の運動は有効質量近似では相対論的なディラック方程式で静止質量をゼロとした場合の2行2列のワイル方程式で記述される.そのため,普通の2次元電子とは異なるさまざまな興味深い性質を示すことが期待される.

更新:2007/1/1