基礎講座:データサイエンスを活用した固体材料・表面研究の最前線(締切を延長しました)
第47回 薄膜・表面物理 基礎講座(2018)
詳細PDF:第47回 薄膜・表面物理 基礎講座 ポスター
参加登録:登録フォームにて参加登録してください.(締切を11月9日(金) まで延長しました)
概要
協賛
日本表面真空学会データ駆動表面科学研究部会、日本物理学会、日本化学会、日本金属学会、日本表面真空学会、電子情報通信学会、電気学会、日本顕微鏡学会、フラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会、日本結晶成長学会、日本分光学会、触媒学会、表面技術協会、電気化学会、日本材料学会、応用物理学会東海支部、日本磁気学会、日本計算工学会、日本学術振興会第131,154委員会、日本放射光学会、情報処理学会
概要
近年の情報科学と物質科学の融合による材料設計は、リチウムイオン電池、触媒設計などにおける成果が報告され、マテリアルズインフォマティクスは世界的な潮流として、企業・学術機関を問わず、多くの研究者が着目する材料設計技術として発展しつつあります. しかしながら、その背景、応用される情報科学的手法は、従来の材料研究者にとって馴染みが薄いことが多く、情報科学初学者の参入が難しい場面も多々あります.
本講座ではその様な状況を打開するために、特に固体材料・その表面に焦点を当て、情報科学的手法を用いた研究の歴史・現状・将来展望を俯瞰すると共に、マテリアルズインフォマティクスにおいて用いられる情報科学的手法の基礎、それらの実際の応用例までを網羅する基礎講座を企画致しました. 特に、これから情報科学的手法を材料設計に取り入れようとしている企業・学術機関の研究者に役立つことを目的として内容を設定致しました.
日時
2018年11月16日(金) 10:00-16:40
場所
東京理科大学 森戸記念館 第一フォーラム
(新宿区神楽坂 4-2-2 ℡03-5225-1033 )
https://www.tus.ac.jp/tlo/new/pdf/event_20121030_map.pdf(アクセスマップ)
(JR「飯田橋」西口 / 東京メトロ「飯田橋」B3出口下車 徒歩6分
都営大江戸線「牛込神楽坂」A3出口下車 徒歩3分 )
プログラム
時間 | 講演テーマ | 講師(敬称略) |
---|---|---|
10:00-10:50 | データ科学を活用した表面表層計測の高度化 〜発展の歴史と将来展望〜 |
藤田 大介(NIMS) |
10:50-11:40 | 具体例から学ぶ機械学習と物質科学の接点 |
安藤 康伸(産総研) |
11:40-13:00 | 休憩 | |
13:00-13:50 | 原子移動やフォノン挙動の解析への機械学習ポテンシャルの応用 | 渡邉 聡(東大) |
13:50-14:40 | 機械学習による磁性材料開発 | 岩崎 悠真(NEC) |
14:40-15:00 | 休憩 | |
15:00-15:50 | 畳み込みニューラルネットワークを使った量子相転移の研究 |
大槻 東巳(上智大) |
15:50-16:40 | パーシステントホモロジーの基礎から応用まで | 大林 一平(東北大) |
参加費
テキスト代、消費税を含む.
薄膜・表面物理分科会会員 * | 応用物理学会会員 ** ・協賛学協会会員 |
学生 | その他 |
---|---|---|---|
10,000円 | 15,000円 | 3,000円 | 20,000円 |
*薄膜・表面物理分科会賛助会社の方は分科会会員扱いと致します.
**応用物理学会賛助会社の方は,応用物理学会会員扱いと致します.
現在非会員の方でも,参加登録時に薄膜・表面物理分科会(年会費 正会員:2,200円(学生・院生:500円), 準会員:3,000円(学生・院生:500円))にご入会いただければ,本セミナーより会員扱いとさせていただきます.
http://www.jsap.or.jp/ より入会登録を行い,会費支払及び仮会員番号を取得後,本セミナーにお申込み下さい.
(年会費を基礎講座参加費と同時にお振込なさらないで下さい.)
定員
100名
(満員になり次第締め切ります.)
参加申込期間
2018年8月31日(金)〜10月26日(金) 11月9日(金) 締切を延長しました.
参加申込方法
登録フォームにて参加登録してください.参加登録完了後,下記銀行口座に参加費をご連絡いただいた期日までにお振込ください.原則として参加費の払い戻し,請求書の発行は致しません.領収書は当日会場にてお渡しいたします.
参加費振込期限
2018年11月9日(金)
参加費振込先
三井住友銀行 本店営業部(本店でも可)
普通預金 口座番号: 9474715
(社) 応用物理学会薄膜・表面物理分科会
(シャ) オウヨウブツリガッカイハクマク・ヒョウメンブツリブンカカイ
企画に関する問合せ先
東京工業大学 林 智広
TEL: 045-924-5400
E-Mail: hayashi.t.al@m.titech.ac.jp
東京理科大学 小嗣 真人
TEL: 03-5876-1412
E-Mail: kotsugi@rs.tus.ac.jp
参加登録に関する問合せ先
応用物理学会事務局分科会担当 五十嵐 周
TEL: 03-3828-7723 FAX: 03-3823-1810
E-Mail: igarashi@jsap.or.jp
講演詳細
講演題目
データ科学を活用した表面表層計測の高度化 ~発展の歴史と将来展望~
講師
藤田大介 (物質・材料研究機構 先端材料解析研究拠点)
データ科学を駆使した新しい型の材料研究、マテリアルズ・インフォマティクスが脚光を浴びている。新材料の発見から産業への応用展開、実用化にいたるまで凡そ20年以上かかっていた(と言われている)。インフォマティクスを応用することにより、材料の発見、開発、選択、使用について加速することを目的とする。
計測分析分野におけるインフォマティクスの嚆矢はケモメトリクスに遡る。データ駆動型手法により、化学システムから得られる大量データから有用情報を抽出する分野を指す。計測機器の計算機制御とデータストレージの進歩により発展したが、その解析手法の多くはデータマイニングの機能と重なるものがある。機械学習とデータマイニングで用いられる手法には重畳する部分が多いが、目的により区別される。機械学習は文字通り、機械による学習を実現する。その目的は、訓練データから学んだ「既知」の特徴に基づく予測である。一方、データマイニングの目的は、「未知」だったデータの特徴を発見することである。データの中で埋もれていた情報を抽出することができる。データマイニングは多段階のプロセスで構成されており、回帰分析、クラスタリング、次元削減、特徴変換などがある。
表面表層計測の高度化への応用展開としていくつかの事例を紹介する。表面電子分光において基礎的物理パラメータとなる非弾性散乱平均自由行程(IMFP)導出に必須の誘電関数やエネルギー損失関数を反射電子エネルギー損失分光(REELS)データから抽出する。また、表面物性を原子分解能で計測可能な走査型プローブ顕微鏡(SPM)はスペクトラムイメージングに適した手法であり、機械的特性や物理的化学的特性と表面形状を多次元同時測定する分光イメージングはギガからテラへ向けてビッグデータ化している。表面電子状態を原子レベルで解明可能な走査型トンネル分光(STS)においては、複数電子状態が重畳したデータから状態数と対応する位置情報を抽出する手法開発がデータ科学の導入によって加速されている。
データ科学やインフォマティクスの手法を材料表面分析などの先端的な計測分析手法へ導入し、データ科学と融合した計測の新たなパラダイムを構築することが期待されている。その観点から表面分析などの先端計測とインフォマティクスの融合、“先端計測インフォマティクス”が新たな計測パラダイムにおける重要な役割を担うだろう。
講演題目
具体例から学ぶ機械学習と物質科学の接点
講師
安藤康伸(産業技術総合研究所)
機械学習に代表される情報科学的手法について多くの研究者が興味を抱いている。一方で実際に固体材料・表面科学研究へ応用しようとする際に悩みとなるのが「具体的にどういった課題に適用可能なのか?」という点である。何故ならば情報科学的手法自体の難解さに加えて、多くの情報科学の教科書に記載された例題は我々が日々相手にしている計算・計測データに対するそれとは異なっており、実際に利用するイメージがつきにくいからである。
本講演では、マテリアルズ・インフォマティクスでしばしば用いられる「記述子」「予測」「モデル推定」というキーワードに対応する基本的な技術について、そしてそれらがどのように材料研究に応用できるかの具体例を、先行研究や講演者のこれまでの研究事例を元に解説する。
まず材料の構造的特徴に注目をした「記述子」について解説する。構造の記述方法は大枠としてふたつのタイプが知られている。ひとつは分子のグラフ表現やクーロン行列表現、多体テンソル表現に代表される系全体の構造を数値化するタイプ、もうひとつは対称性関数やSOAP(Smooth Overlap of Atomic Positions)に代表される、注目をする原子周辺の局所構造を記述するタイプである。これらの特徴とその使い分けについて解説する。続いて材料の「記述子」を説明変数として材料の物性を「予測」する技術とその具体例について、触媒分子とその収率予測に関する研究事例と原子間ポテンシャルの機械学習による設計方法および利用方法について解説する。最後に「モデル推定」をキーワードとして、基礎的な技術であるEMアルゴリズムの概要と実験によって得られたスペクトルイメージングデータのハイスループットピーク解析への適用事例について述べる。
講演題目
原子移動やフォノン挙動の解析への機械学習ポテンシャルの応用
講師
渡邉聡 (東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻)
原子拡散や熱伝導等、固体中における原子の動的挙動やそれが鍵となる諸物性の研究は古くから行われているが、近年の情報・エネルギーデバイスの進歩に伴い、原子レベルでのより深い理解が求められている。この問題に対する計算機シミュレーションによる取り組みも長い歴史を有するが、比較的単純な関数形のパラメータを実験等に合わせて決めた経験的原子間ポテンシャルによる分子動力学計算では信頼性が乏しく、他方、信頼性高く物性やミクロな諸過程を予測できるようになってきた第一原理計算は、近年の情報・エネルギーデバイスの研究開発の対象に対しては多くの場合に計算負荷が高すぎる。
このような中で、最近、機械学習を用いて第一原理計算結果をよく再現できる原子間ポテンシャルを作成する試みが活発になされており、成果を上げてきている。本講演では、このような試みと、その原子移動やフォノン挙動の解析への応用について概観する。具体例としては、我々のグループで行っている、アモルファス酸化タンタルやアモルファスリン酸リチウム中の原子拡散の研究、および窒化ガリウムやシリコン-ゲルマニウム合金中のフォノン挙動と熱伝導の研究を主に紹介する。前者については、電場印加時の原子移動挙動を解析するための拡張についても議論する。また、機械学習を用いた原子間ポテンシャル作成の際に留意すべき諸問題についても、我々の経験を踏まえて議論したい。
講演題目
機械学習による磁性材料開発
講師
岩崎 悠真1,2
(1. 日本電気株式会社(NEC)システムプラットフォーム研究所
2. 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)さきがけ)
AI囲碁(AlphaGo)やAI将棋(Ponanza)等によるAIブームの影響から、材料開発の分野でもAI技術を用いた取り組みが盛んに行われている。囲碁や将棋などでは、AIが人類を超越した存在になっているが、材料開発の分野では解くべき問題が複雑であるため、AI技術さえあればよいという状況には至っていない。そのため、材料開発では『AIと科学者の協創』が非常に重要となる。本講演では、材料開発を行う人間を強力にアシストすることができるAI技術(機械学習技術)を2つ紹介し、その実際の磁性材料開発への応用事例を交えて講演する.
【① 異種混合学習による磁性熱電材料開発】
材料開発の分野では、機械学習で作成したData-Drivenモデルを人間が解釈することで材料創成のヒントを得ることがしばしばある。そのためには、Deep Learningのようなブラックボックス型の機械学習ではなく、人間が解釈できるホワイトボックス型でData-Drivenモデルを作成する必要がある。本講演の前半は、ホワイトボックスでかつ高精度に予測を行うことができる異種混合学習(FAB/HMEs※1)を用いて、磁性熱電材料(異常ネルンスト材料)を開発した事例を紹介する。
【② ベイズ最適化と第一原理計算を用いた材料自動探索システムによる磁性材料開発】
講演の後半は、ベイズ最適化と第一原理計算を組み合わせた自動材料探索システムを紹介する。ベイズ最適化は、材料開発における次の一手(次に何をすればよいか)を数学的に導出することができる。この手法と第一原理計算(仮想的な材料作成と特性評価)を組み合わせることで、①仮想材料作成 ⇒ ②仮想材料の特性評価 ⇒ ③次の仮想材料決定 ⇒ ①仮想材料作成・・のループをPC内で自動的に実行し続けることによって、有望な材料を選別することができる。人間はこのシステムが提案する候補材料を中心に作成することで、無駄な実験を大幅に減らすことができる。本講演では、本システムを用いて金属磁性材料(ホイスラー合金)を探索した事例を紹介する。
※1 FAB/HMEs : Factorized Asymptotic Bayesian Inference Hierarchical Mixture of Experts
R. Eto et al. Fully-Automatic Bayesian Piecewise Sparse Linear Models. In AISTATS, 2014.
R. Fujimaki et al. Factorized Asymptotic Bayesian Inference for Latent Feature Models. In NIPS, 2013.
講演題目
畳み込みニューラルネットワークを使った量子相転移の研究
講師
大槻 東巳 (上智大学 理工学部 機能創造理工学科)
人工知能という言葉を聞く機会が増えている。囲碁などのボードゲームで最強のプレーヤーに人工知能が勝利したことは衝撃的であった。この場合,ゲームの盤面を見せ,それによりどのように動いたら点が高くなるかをニューラルネットワークに学ばせる。この際に盤面の画像処理,および点が高くなるようにニューラルネットワークを訓練する強化学習が不可欠となるが,最近のコンピュータの進歩,特にGPUの向上により,こうした手法が小規模な研究をしている物性物理学者でも簡単に使えるようになった。そのため,物性物理の研究に機械学習,特にニューラルネットワークを利用する動きが最近注目されている。
この講演では物性物理学者にも身近になった多層畳み込みニューラルネットワーク,いわゆる深層学習による画像処理を利用して,ランダム電子系の相図を導出するという試みを紹介する。特にバンド絶縁体,トポロジカル絶縁体,アンダーソン絶縁体など様々な絶縁体相の示す波動関数を画像としてニューラルネットワークに学ばせると,ニューラルネットワークは汎化能力を示し,今まで学習していなかったパラメータ領域がどの相なのかを判定できることを示す。
この講演では特に,並進対称性がランダムポテンシャルによって壊されたトポロジカル系の相図を議論する。トポロジカル系は,たとえ乱れていても特異な表面状態を示すことを利用し,トポロジカル絶縁体,トポロジカル超伝導体,ワイル半金属の相図を導出する(ニューラルネットワークに導出してもらう)。また,実空間の波動関数を使った解析と,k-空間の波動関数を使った解析を比較し,双方の長所,短所について述べる。
[1] T. Ohtsuki, T. Ohtsuki: J. Phys. Soc. Jpn., 85, 123706 (2016), 86, 044708 (2017).
[2] T. Mano and T. Ohtsuki: J. Phys. Soc. Jpn., 86, 113704 (2017).
[3] 大槻東巳:パリティ 32, 52-56 (2017), 33, 6 (2018).
[4] 大槻東巳,真野智裕:固体物理 53, 447 (2018).
講演題目
パーシステントホモロジーの基礎から応用まで
講師
大林一平 (理研AIP・東北大AIMR)
パーシステントホモロジーは数学のホモロジーのアイデアを利用したデータ解析手法のためのツールで、近年理論やソフトウェア、応用まで急速にしつつある。ホモロジーは図形の穴や空隙、連結性、といった情報を取り扱うための数学的概念であり、トポロジーという数学分野において特に重要な概念である。
パーシステントホモロジーを使うことによってデータの形を穴や空隙といった視点から定量的かつ効果的に特徴付けることができる。空間上の点集合データ(典型的には3次元空間上の原子配置データなど)や任意次元の画像データなどに適用可能な手法である。こういった特徴を利用し、材料科学、生命科学、ネットワーク科学、といった分野への応用が進められている。
数学的にはパーシステントホモロジーは「増大列」を用いる。点集合データであれば、各点に円/球を置き、その半径を徐々に大きくすることで体積が増大する状況を作る。
原子配置データを考えるときは、原子半径が0から徐々に大きくなっていくような状況を考えればよい。半径が大きくなる過程で球が繋がり穴ができ、さらに大きくなるとその穴が消える。そのような穴の生成、消滅の半径のペアをデータ全体に対して計算することでデータの形の特徴付けとするのである。この(穴生成の半径, 穴消失の半径)のペアをbirth-death pairと呼び、このペアの集まりをパーシステント図と呼ぶ。このパーシステント図がすなわちデータの形の情報を縮約したものであり、パーシステント図を調べることでデータの形の特徴を調べるのである。白黒画像データでも、白い領域が徐々に膨らんでいく状況を考えることで同様の解析が可能となる。
パーシステント図のさらなる応用として、機械学習との組み合わせも有用である。
パーシステント図を学習データとする機械学習を行うことで図に隠された特徴的パターンを抽出し、さらにパーシステント図と入力データの関連を調べることでその学習されたパターンに対応する形を具体的に同定することも可能である。
本講演ではパーシステントホモロジーの基本的な部分からこれを利用した材料データ解析まで解説する。また、講演者が開発しているパーシステントホモロジーに基づくデータ解析ソフトウェア HomCloud を用いた実践的なデータ解析についても紹介したい。
更新:2018/5/10