セミナー:クラスタービームによる加工・解析技術の基礎から最先端 -半導体・有機薄膜の次世代技術-
第36回 薄膜・表面物理セミナー (2008)
概要
協賛
日本物理学会、日本化学会、日本金属学会、日本表面科学会、電子情報通信学会、電気学会、日本真空協会、日本顕微鏡学会、日本分析化学会、日本質量分析学会(依頼中)
主旨
原子・分子クラスターイオンビーム技術は、数100個から数1000個の原子の塊(クラスター)からなるイオンを高速で固体表面に衝撃し、表面加工や表面分析に展開する新しい技術で、“日本の独創技術”として注目されてきています。クラスタービームは、従来の単原子・分子イオンビームとは異なり、固体表面に照射すると多体衝突による非線形相互作用が起こり、表面の超平滑加工、表面処理、極薄膜成膜、Layer-by-Layerエッチング、エッチングによる試料損傷の低減といった従来技術を凌駕する特性を有しています。このため最近、半導体平坦加工・光学薄膜作成への応用、さらにはクラスターイオンを励起源とした二次イオン質量分析法、有機薄膜に対する表面分析の深さ方向分析への展開も進んできています。本セミナーでは、原子・分子クラスターイオンの今までの研究の歩み、クラスターイオンと表面との相互作用の特性の解説、また、この技術の応用としての半導体などのナノ加工技術・成膜技術の紹介、さらにはクラスターイオンと表面相互作用の特性を利用した有機薄膜表面分析への展開を紹介します。
日時
平成20年7月17日(木) 10:00-16:50
18日(金) 9:30-15:20
場所
東京大学理学部1号館 小柴ホール
(東京都文京区本郷7-3-1、03-5841-8346)
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/map01_01_j.html(キャンパスアクセスマップ)
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/koudou/koshiba.html(小柴ホールマップ)
プログラム(題目をクリックすると要旨がご覧になれます)
7月17日(木)
日時 | 講演題目 | 講師 |
---|---|---|
10:00-10:50 | 原子・分子クラスターイオン技術の進展 | 山田 公 (京都大) |
10:50-12:00 | クラスターイオンと固体表面との相互作用-表面衝突現象、照射効果- | 豊田紀章 (兵庫県立大) |
12:00-13:10 | 昼休憩 | |
13:10-14:00 | クラスターイオンの挙動に対する計算機シミュレーション | 青木学聡 (京都大) |
14:00-14:40 | クラスターイオンビーム照射による光学デバイスの高精度加工 | 鈴木晃子 (日本航空電子) |
14:40-14:50 | 休憩 | |
14:50-15:30 | GCIB援用による硬質カーボン膜の形成と応用 | 北川晃幸 (野村鍍金) |
15:30-16:10 | 磁性材料の無損傷加工 | 角田 茂 (日立) |
16:10-16:50 | クラスターボロンビームのSiデバイスへの適用 | 川崎洋司 (ルネサステクノロジ) |
7月18日(金)
日時 | 講演題目 | 講師 |
---|---|---|
9:30-10:20 | 半導体イオン注入技術-クラスターイオンビーム装置と応用技術- | 丹上正安 (日新イオン機器) |
10:20-11:10 | C60クラスタービームの発生とその特性 | 井上雅彦 (摂南大) |
11:10-11:30 | 休憩 | |
11:30-12:20 | 金属錯体クラスターイオンビームの特性と表面分析への応用 | 藤原幸雄 (産総研) |
12:20-13:40 | 昼休憩 | |
13:40-14:30 | 新しいクラスターイオンとしての帯電液滴クラスターイオンビーム-その原理と有機薄膜材料への応用- | 平岡賢三 (山梨大) |
14:30-15:20 | 光電子分光法(XPS)における有機薄膜深さ方向分析へのクラスターイオンビームの展開 | 飯島善時 (日本電子) |
参加費
薄膜・表面物理分科会会員 * | 応用物理学会会員 ** 協賛学協会会員 |
学生 | その他 |
---|---|---|---|
15,000円 | 20,000円 | 3,000円 | 25,000円 |
*薄膜・表面物理分科会賛助会社の方は分科会会員扱いといたします.
** 応用物理学会賛助会社の方は,応用物理学会会員扱いといたします.
現在非会員の方でも,参加登録時に薄膜・表面物理分科会(年会費A会員:3,000円,B会員:2,200円)にご入会いただければ,本セミナーより会員扱いとさせていただきます.
http://www.jsap.or.jp/ より入会登録を行い,仮会員番号を取得後,本セミナーにお申込み下さい.入会決定後,年会費請求書をお送りいたします.
(年会費をセミナー参加費と同時にお振込なさらないで下さい)
定員
100名(満員になり次第締め切ります)
参加申込締切
2008年7月3日(木)
参加申込方法
下記分科会ホームページ内の登録フォームにて参加登録してください
https://annex.jsap.or.jp/phpESP/public/survey.php?%20name=HakuhyouSeminar36
参加登録完了後,下記銀行口座に参加費をご連絡いただいた期日までにお振込ください.原則として参加費の払い戻し,請求書の発行は致しません.領収書は当日会場にてお渡しいたします.
参加費振込期限
2008年7月10(木)
参加費の入金確認後、参加証をお送りします。
参加費振込先
三井住友銀行 本店営業部(本店も可)
普通預金 口座番号: 9474715
(社) 応用物理学会 薄膜・表面物理分科会
(シャ) オウヨウブツリガッカイハクマク・ヒョウメンブツリブンカカイ
セミナー内容問合せ先
日本電子(株) 電子光学機器営業本部
飯島 善時
TEL: 042-528-3353 FAX: 042-528-3385
E-mail:iijima@jeol.co.jp
東京大学 理学系研究科物理学専攻
長谷川 修司
TEL: 03-5841-4167 FAX:03-5841-4167
E-mail:shuji@surface.phys.s.u-tokyo.ac.jp
参加登録問合せ先
応用物理学会事務局分科会担当
伊丹 文子
TEL: 03-3238-1043 FAX: 03-3221-6245
E-mail:divisions@jsap.or.jp
講演詳細
講演題目
原子・分子クラスターイオン技術の進展
講師
山田 公(京都大学)
クラスターイオンビーム技術は、100余年続いたイオンビームの分野に、新たに参入した日本の独創技術です。クラスタービームの発生を問う研究からはじまり、すでに20余年が経過しました。種々照射効果に関わる基礎技術の確立を経て、次世代電子、磁気、光学デバイスの製造に用いられ始めています。クラスターイオンビームの超低エネルギー照射効果、ラテラルスパッタ効果、高反応効果などの原理的特徴は、ナノ精度で量産を可能にする製造技術として注目を浴びています。本技術の背景、開発経過などを述べながら、従来技術には見られないプロセスの特長を概説し、実用化が進んでいる産業分野の動向を紹介します。
講演題目
クラスターイオンと固体表面との相互作用-表面衝突現象、照射効果
講師
豊田 紀章(兵庫県立大学)
ガスクラスターイオンビームは、一原子あたりのエネルギーが数eV/atomであるにもかかわらず、表面層のみへの高密度エネルギー付与が可能なため、低損傷で表面をナノメートルオーダーで加工することが出来る新しい技術として注目されている。特に固体との衝突現象においては、従来使われてきた単原子イオンビームが線形衝突を起こすのに対して、ガスクラスターイオンビームの固体表面衝突時には表面原子との多体衝突を引き起こし、高温・高圧状態の形成、ラテラルスパッタリングなど特有の衝突現象・照射効果を示すことが明らかとなっている。ここでは、このようなガスクラスターイオン特有の表面衝突現象や照射効果についての基本的な特長を解説し、それらがどのような応用に期待できるかを説明する。
講演題目
クラスターイオンの挙動に対する計算機シミュレーション
講師
青木 学聡(京都大学)
巨大な原子集団であるクラスターを用いるクラスターイオンビーム技術では、従来の単原子イオンビームで制御されてきた照射エネルギー、照射量、照射原子種に加え、クラスターを構成する個数(クラスターサイズ)が新たなパラメータとして加わる。これらのパラメータの違いによるクラスターイオン衝突に特徴的な多体衝突効果の特性を明らかにすることは、基礎科学および応用の両面からみて重要な課題である。分子動力学法による計算機シミュレーションは、多数の原子同士の衝突過程を直接的に示すものであり、種々の高精度計測技術と連携することでクラスター衝突素過程の解明に大きな役割を果たしている。今回の講演では、様々なクラスターイオン衝突シミュレーションを通じて、クラスターと単原子イオン衝突との類似点・相違点を示すと共に、実際の表面ナノ加工プロセスへの応用上重要である表面平坦効果やスパッタリング効果のモデル化の事例を紹介する。
講演題目
クラスターイオンビーム照射による光学デバイスの高精度加工
講師
鈴木 晃子(日本航空電子(株))
光デバイスなどの微細な構造体の高精度加工技術として、ガスクラスターイオンビーム(GCIB)斜め照射技術が注目されている。GCIB斜め照射技術は、従来難しかった3次元構造体の側面、例えばフォトニック結晶の誘電体ピラーの側面など、を研磨することができる。表面の突起先端を選択的に取り除き、低損傷で加工できる特徴がある。MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)光スイッチの垂直ミラーの研磨に適用した結果、表面粗さ低減によりミラーの光散乱が減少し、クロストークなどのデバイス特性が向上することがわかった。
講演題目
GCIB援用による硬質カーボン膜の形成と応用
講師
北川 晃幸(野村鍍金(株))
当社ではガスクラスターイオンビーム(GCIB)を用いた新しい硬質カーボン膜(DLC : Diamond Like Carbon)の形成方法を開発している。GCIBの低エネルギーかつ高密度エネルギー照射効果を利用することにより、得られるDLC膜はビッカース硬度5000kg/mm2、耐熱温度500℃であり、成膜温度は100℃以下に抑えられる。従来のDLC膜と比較すると、硬度は2~3倍、耐熱性2倍、成膜温度1/2以下である。基板が超硬基材の場合のスクラッチ強度は100Nと高い密着強度も有し、DLC膜の特徴である潤滑性(摩擦係数0.1)および表面平坦性(Ra0.5nm以下)も兼ね備える。
工具チップ応用した場合15倍以上、刃物に用いた場合3倍以上の耐久性が改善できている。いずれも膜厚は0.5μm以下であり、被覆部品の寸法精度を変えることなく耐久性を改善することが可能である。
講演題目
磁性材料の無損傷加工
講師
角田 茂(日立製作所)
磁性材料は、情報を記憶するための磁気記録媒体・装置に用いられ、非常に重要な役割を担っている。これらは複合材料で構成され、加工損傷に非常に敏感である。したがって、次世代磁気記録デバイスの製造には磁性材料の無損傷加工技術が必須となる。ガスクラスターイオンビーム(GCIB)は、ラテラルスパッタ効果や低エネルギー照射効果により低損傷で平坦加工を可能にする有力な候補技術の一つである。
本講演では、磁性材料の超平坦・無損傷加工(平均面粗さ(Ra)1nm以下、加工ダメージ深さ1nm以下)を実現するGCIBプロセスについて紹介する。加工ダメージは二次イオン質量分析法(SIMS)及びX線反射率法(XRR)、表面粗さは原子間力顕微鏡(AFM) を用いて測定した。GCIBを試料表面と平行に近い角度から斜め照射することにより、平均表面粗さ0.7nm、加工ダメージ深さが0.7nmの磁性膜表面を得た。また、このとき、膜歪みや磁気特性に影響を与えることなく加工できることを微小角入射X線回折法(GI-XRD)、及び試料振動型磁力計(VSM)により示した。上記無損傷加工は、従来法であるモノマーイオンビームでは実現不可能である。
本講演に関する研究の一部は独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による委託事業「次世代量子ビーム利用ナノ加工プロセス技術の開発」の元で行われたものである。また、GI-XRD測定は財団法人高輝度光科学研究センター承認の元、Spring-8にて実施した。
講演題目
クラスターボロンビームのSiデバイスへの適用
講師
川崎 洋司(ルネサステクノロジ)
「クラスタボロンビームのSiデバイスへの適用」
浅接合を目的としてイオン注入の低エネルギー化が行われる一方で、ビームの質・量を維持することが難しくなっている。このビーム特性劣化は、注入装置の生産性低下と同時に注入分布のばらつきをも引き起こす。45nmノード以降のデバイスでは、このようなプロセスばらつきが製品歩留まりの低下につながると懸念されている。
我々は、このイオン注入での課題を克服するため高ドーズレート、重イオンの特徴を備えたクラスタドーピングを新規技術として検討している。本講演では、B18H22を用いたイオン注入、B2H6を用いたGas Cluster Ion Beamによって形成された各々のボロン注入層の特性と、これらをソースドレインExtensionに適用した場合のPMOSFETについて述べる。
講演題目
半導体イオン注入技術-クラスタービーム装置と応用技術-
講師
丹上 正安(日新イオン機器)
45nm以降の次世代半導体ICトランジスターは、従来のサイズ縮小のみによる微細化がいよいよ限界に達してきたので、新しい材料(High-k絶縁膜とMetalゲート電極)と構造(FinFETに代表される3次元トランジスター)によって実現されると予想されています。それらのトランジスターを作るにはイオン注入にも、従来以上のあるいは従来と異なった技術・装置性能が要求されています。それは、1)低エネルギービーム量アップ、2)ビーム角度の低減と再現性、3)低温高活性化対応、4)歪形成技術、等々です。
クラスターイオン注入は多数の原子をまとめて1個の電荷を載せて注入するため、従来のイオン注入に比べて低エネルギーで大電流ビーム注入ができ、ビームの広がり角度を下げて注入することができます。また、シリコン基板に注入した場合シリコン結晶との相互作用が大きく注入層が容易に非晶質化し、きれいな結晶-非晶質界面が形成されます。これによって、アニールした時に低温で活性化率の高い再結晶化が可能です。さらに、現在開発中ですがn-MOSへのカーボン注入によるSi:C形成技術でも、クラスターカーボンを用いるとSi:C形成率の高い歪形成が可能になります。これらのことから次世代半導体ICの製造にクラスターイオン注入は不可欠の技術であると思われます。
講演では、上記プロセス技術について紹介し、半導体生産用クラスターイオン注入装置の開発状況を報告します。
講演題目
C60クラスタービームの発生とその特性
講師
井上 雅彦(摂南大学)
イオンビームスパッタエッチングを用いた高分解能3次元表面分析においてイオンビームの微細化とソフトスパッタリングの両立を可能にするという点でクラスタイオンビームの利用が有望視されている。本研究では,表面分析の現場で利用可能な小型のC60クラスタイオン銃を開発することを目的とし,電子衝撃型のクラスタイオン源,回転電場型の質量フィルタ(Rotating Field Mass Filter:RFMF),およびそれらを動作させる制御コントローラを新たに設計・製作し,特性評価を行った。
講演題目
金属錯体クラスターイオンビームの特性と表面分析への応用
講師
藤原 幸雄(産業総合研究所)
近年、クラスターイオンを二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry, SIMS)における一次イオンビームとして用いることで高精度かつ高感度なSIMS分析が可能となることがわかり、Au3+ やC60+ などを用いた“ Cluster SIMS ”が注目を集めている。産総研では、それらのイオンよりも分子量が大きい「金属クラスター錯体」という巨大分子を用いたクラスター・イオンビーム源を開発し、シリコンや有機薄膜のSIMS分析に応用し、その有用性を実証したので報告する。また、より一層巨大で多種多様なクラスターイオンのビーム化を可能とするため、現在、研究を進めている新しいタイプの“溶液型クラスターイオン源”に関しても、併せて報告する。
講演題目
新しいクラスターイオンとしての帯電液滴クラスターイオンビーム
-その原理と有機薄膜材料への応用
講師
平岡 賢三(山梨大学)
大気圧下で水をエレクトロスプレーし、生成した帯電水滴を真空中に導入する。この帯電水滴([(H2O)100,000 + 100H]100+)を10kVで加速して試料を衝撃する。帯電水滴は~12km/sで表面と衝突するので、衝突界面に衝撃波が発生する。これにより、試料(バイオ試料、有機材料、半導体、金属など)の表面が、分子レベルでエッチングされ、同時に二次イオンが効率よく発生する。生成するイオンは分子イオンが主である。また、長時間照射において、試料の損傷は認められない。これは、衝突過程が断熱的であることを示す。本方法は、SIMS/XPS/Auger等の複合装置のイオン源として期待される。
講演題目
光電子分光法(XPS)における有機薄膜深さ方向分析へのクラスターイオンビームの展開
講師
飯島 善時(日本電子(株))
光電子分光法(XPS)は半導体材料、高分子材料など広く材料表面の化学結合状態分析に使用されている。しかし深さ方向分析ではAr単原子イオン照射(エッチング)による高分子材料の分解などが発生する。これらエッチング時の損傷を無くし、高分子材料の深さ方向分析を行う手法として各種クラスターイオンによるエッチング方法が近年提唱されている。このクラスターイオンエッチングでは今まで問題となっている副生成物の生成・付着がなく、組成比・化学結合状態変化なく深さ方向分析ができることが期待される。本報告はクラスターイオン(特に帯電液滴照射)を用いたXPS深さ方向分析の現状と課題について報告する。
更新:2008/1/1