セミナー:薄膜、界面制御から見た二次電池技術
第38回 薄膜・表面物理セミナー (2010)
概要
協賛(依頼中)
電気化学会,日本物理学会,日本化学会,日本表面科学会,電子情報通信学会,電気学会,日本顕微鏡学会,日本分析化学会,自動車技術会
主旨
Liイオン電池に代表される二次電池技術に関して現状と今後の展望に関して広く紹介致します.Liイオン電池は1990年代初頭の量産開始以来,携帯電話,ノートPC,デジタルカメラ搭載用の小型エネルギー源として急速に発展し,今やLiイオン電池なしでは携帯デジタル機器の発展はない程その重要性は増しています.一方,近年では新たに環境に優しいエネルギー源という観点で車載用電源や家庭,地域用電源としてもその用途は飛躍的に拡がりつつあり,今後の医療や公共事業などへの展開を含め,二次電池の材料,構造,応用について広範囲の理解が重要となってきます.本セミナーでは二次電池技術の基礎,電極材料技術,車載用電池の現状,高出力化に向けた新たな技術開発,ポストLiイオン電池の開発状況,さらには電池技術開発における評価手法の現状と課題,などを薄膜技術,界面制御技術という観点を交えながら,これらの技術への社会からの要求,社会的背景も含め紹介致します.
日時
2010年8月23日(月) 10:00-17:50
場所
産業技術総合研究所 臨海副都心センター 別館11階 会議室1
東京都江東区青海2-3-26
TEL: 03-3599-8001
http://www.aist.go.jp/aist_j/guidemap/pdf/waterfront_map.pdf (アクセスマップ)
プログラム(題目をクリックすると要旨がご覧になれます)
日時 | 講演題目 | 講師 |
---|---|---|
10:00-10:55 | 二次電池技術の現状と展望 | 金村 聖志 (首都大学東京) |
10:55-11:50 | 次世代リチウム電池用電極・電解液材料の研究開発 | 鳶島 真一 (群馬大学) |
11:50-13:00 | 昼休憩 | |
13:00-13:55 | 環境車両用高性能リチウムイオン電池システムの研究開発 | 堀江 英明 (日産自動車) |
13:55-14:50 | チタン酸リチウム負極を用いた高出力二次電池「SCiBTM」の開発 | 高見 則雄 (東芝) |
14:50-15:05 | 休憩 | |
15:05-16:00 | 大容量Liイオン電池で実現するスマートエナジーシステム | 花房 寛 (三洋電機) |
16:00-16:55 | ポストLiイオン電池の開発 | 周 豪慎 (産総研) |
16:55-17:50 | 電池技術における評価解析手法の現状と課題 | 藤田 学 (東レリサーチセンター) |
参加費
薄膜・表面物理分科会会員 * | 応用物理学会会員 ** 協賛学協会会員 |
学生 *** | その他 |
---|---|---|---|
10,000円 | 15,000円 | 3,000円 | 20,000円 |
*薄膜・表面物理分科会賛助会社の方は分科会会員扱いといたします.
**応用物理学会賛助会社の方は,応用物理学会会員扱いといたします.
現在非会員の方でも,参加登録時に薄膜・表面物理分科会(年会費A会員:3,000円,B会員:2,200円)にご入会いただければ,本セミナーより会員扱いとさせていただきます.
http://www.jsap.or.jp/ より入会登録を行い,仮会員番号を取得後,本セミナーにお申込み下さい.
入会決定後,年会費請求書をお送りいたします.(年会費をセミナー参加費と同時にお振込なさらないで下さい.)
***学生の場合は,会員・非会員の別を問いません.
定員
70名 (満員になり次第締め切ります.)
参加申込締切
8/23当日まで受け付けます。
参加申込方法
ここから参加登録して下さい。
https://annex.jsap.or.jp/phpESP/public/survey.php?name=HakuhyouSeminar38
参加登録完了後,ご連絡いただいた期日までに参加費を下記銀行口座にお振込ください.原則として参加費の払い戻し,請求書の発行は致しません.領収書は当日会場にてお渡しいたします.
参加費振込期限
2010年8月16日(月)まで振込みいただいた方には、 参加費の入金確認後,参加証をお送りします。 それ以降になる方はご連絡ください。
また、セミナー当日に現金でお支払いただくことも可能です。
参加費振込先
三井住友銀行 本店営業部(本店も可)
普通預金 口座番号: 9474715
(社) 応用物理学会 薄膜・表面物理分科会
(シャ) オウヨウブツリガッカイハクマク・ヒョウメンブツリブンカカイ
セミナー内容問合せ先
(株)富士通研究所 佐藤 信太郎
TEL: 046-250-8234
FAX: 046-250-8844
E-mail:sato.shintaro@jp.fujitsu.com
産業技術総合研究所 小川 真一
TEL: 029-849-1491
FAX: 029-849-1533
E-mail:ogawa.shinichi@aist.go.jp
参加登録問合せ先
応用物理学会事務局分科会担当 伊丹 文子
TEL: 03-3238-1043
FAX: 03-3221-6245
E-mail:divisions@jsap.or.jp
講演詳細
講演題目
二次電池技術の現状と展望
講師
金村 聖志(首都大学東京)
二次電池は主に携帯機器や自動車用のスターターの電源として使用されてきた。古くは鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池であり、最近ではニッケル水素やリチウムイオン電池である。これらの用途では、電池に電気エネルギーを化学物質のエネルギーとして蓄えておき、電気を使用したい時にエネルギー変換を行い、電気エネルギーを得ることになる。二次電池は大変便利なエネルギーデバイスである。過去15年間に、二次電池の技術も大きく進歩し、より多くの電気エネルギーを蓄えることができるようなった。また、コストも大きく低減されており、より広い応用範囲で電池を使用することができるようになりつつある。特に電気自動車や自然エネルギー利用のための電源として二次電池が大きな注目を集めている。その中でも、リチウム二次電池には大きな期待が寄せられている。
本発表では、エネルギー変換戦略において電池がどのような役割を果たすのかについて述べるとともに、現在商用化されている携帯機器用のリチウムイオン電池の技術(その中味)について分かりやすく紹介する。さらに、電気自動車の走行や、自然エネルギーを上手に利用するために必要となる電池が、どのような性能を要求されているのかについて説明する。そして、これらの高い要求性能を実現するために、新規に開発されてきたリチウム二次電池の技術や材料がどのようなものであるのかについて述べるとともに、今後の新型電池としてどのような二次電池が期待されているのか、あるいはどのような点を改善しなければならないのかについて紹介する。
講演題目
次世代リチウム電池用電極・電解液材料の研究開発
講師
鳶島 真一(群馬大学)
リチウムイオン二次電池は蓄電デバイスのひとつである。リチウムイオン電池の特徴は、エネルギー密度と電圧が高く、充電できることである。リチウムイオン電池は、1991年の実用化以来、毎年使用個数が増大し、モバイル機器用電源を中心に現代社会に不可欠な工業製品となり、現在世界で年間30億個程度が生産されているとも言われている。現在、電気自動車や発電装置など、リチウムイオン電池の適用用途は急速に拡がりつつある。これらの用途には従来のモバイル機器用電池より大型の電池になり直列・並列組電池構成により使用個数が増え、モバイル機器市場にさらに上乗せされる。このため、リチウム材料の使用量(市場規模)は、2014年には2009年の90倍になるという予測もある。このような展開の中で高エネルギー密度化などの用途毎に異なる種々の要求に答えるためにリチウムイオン電池用電極・電解液新材料の開発が急務となっている。
本報告では、最初にリチウムイオン電池の現状と今後の展開について概説する。その後、リチウム電池用電極(負極あるいは正極)の表面修飾により電極・電解液界面制御を行い電気化学的特性や電池性能に与える影響について検討した結果を議論する。
講演題目
チタン酸リチウム負極を用いた高出力二次電池「SCiBTM」の開発
講師
高見 則雄(東芝)
近年、二酸化炭素(CO2)削減やエネルギー問題への対策として低燃費、低排気ガスのハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)の普及に期待が高まっている。そのため車載用をターゲットにしたリチウムイオン電池の開発、製品化が世界的に進められている。これまで電池性能として高エネルギー密度化が強く求められてきたが、さらに高出入力性、長寿命、安全性が重要となる。筆者らは、負極材料に微粒子化した独自のチタン酸リチウム(LTO)を開発することにより、高い安全性と急速充電性能を兼ね備えた新型二次電池SCiBTMを開発・製品化した。ここでは、新たにHEV向けにマンガン酸リチウム(LMO)正極を用いた高出力タイプの“SCiBTM”を開発した。開発したSCiBTMは10秒パルスの出入力性能評価において10~80%の広い充電状態(SOC)範囲で2600W/kg以上の高出力密度を得た。また60℃高温貯蔵試験や-30℃の低温充放電サイクル試験において黒鉛負極を用いたリチウムイオン電池に比べ優れた耐久寿命性能を示した。内部短絡試験ではLTO負極を用いることで短絡部は岩塩構造LTO相からスピネル構造LTO相に変化し急激に高抵抗化した。このようなLTOの電子伝導抵抗上昇は短絡電流を大幅に緩和し、内部短絡時の安全性に大きく寄与することが分かった。
講演題目
大容量Liイオン電池で実現するスマートエナジーシステム
講師
花房 寛(三洋電機)
石油をはじめとする化石燃料の枯渇への懸念やCO2排出量削減の必要性などから、近年、太陽光発電などの再生可能エネルギーの拡大が顕著になってきている。一方、電力を節約して使う省エネ技術は、日本では種々の技術がすでに開発されており、今後は海外にも広く展開されていくものと思われる。当社ではこれまで培ってきた創エネ(太陽電池)、蓄エネ(二次電池)、省エネ(業務用空調・冷凍冷蔵機器)の技術を高度に融合させ、エネルギーの有効活用(活エネ)を実現できるスマートエナジーシステム(SES)の開発を進めている。
本発表ではSESを実現する、大容量Liイオン電池について述べる。Liイオン電池は、携帯電話、ノートPCなどのモバイル機器になくてはならない電池となっているが、設置場所をとらない、応答性がよい、寿命が長いなどの特徴を有しており、大容量蓄電用途にも適した電池とみることができる。
当社では、今年3月に、大容量Liイオン電池の標準システムユニットを商品化した。このユニットは容量1.6kWh、最大出力1.5kWであるが、これを多直列、多並列に組み合わせれば、大電力の充放電が可能である。現在、兵庫県加西市に建設中のHEV用二次電池工場に、太陽電池1MW、Liイオン電池約1.5MWhからなるSESを導入しつつあり、実証試験を今秋より開始する予定である。このSESにより、工場全体で年間約2,500トンのCO2削減を見込んでいる。二次電池の能力を十分に引出せるかどうかでSESのパフォーマンスが決まるが、モバイル用二次電池で培った経験や知見が活かせるものと考えている。
上記ユニットでは、エネルギー密度を最大化するために、Co酸化物系正極を用いたLiイオン電池を使っているが、その安全性確保のために十分な対策を講じている。高品質の電極・部品、安定・管理された生産技術でLiイオン電池を製造し、さらにそれらを正しく制御して使用することにより、モバイル用Liイオン電池で実証されているのと同様に、大容量蓄電用途においても安全であることを検証していく。
講演題目
ポストLiイオン電池の開発
講師
周 豪慎(産総研)
リチウムイオン電池をエネルギー源とした電気自動車が世界的に注目されている。しかしながら、現状のリチウムイオン電池では、理論上に電池容量に制約があり長距離走行が困難である。そこで、現在のリチウムイオン電池を超える革新的な電気化学蓄電池の開発が必要となっている。
正極材として空気中の酸素を用いるリチウム・空気電池では、活物質である酸素は電池セルに含まれておらず、空気中に無尽蔵に存在するので理論的に正極の容量が無限となり、ポストリチウムイオン電池として注目されている。
我々は、従来知られていなかったハイブリッド電解液「=リチウム金属/有機電解液/リチウムイオン固体電解質/水系電解液/空気極+充電専用正極」を有する新型リチウム-空気電池を開発した。開発された研究用電池を用いて、連続50000mAh/g(空気極の単位質量あたり=多孔質炭素+触媒+バインダー)の放電を実証した。更に、新型リチウム-空気電池の他に、リチウム-銅二次電池、リチウム-水酸化ニッケル二次電池、リチウム-酸化銀二次電池とリチウム-水電池など新型電気化学蓄電池の開発も試みた。
Key Word: ハイブリッド電解液、ポストリチウムイオン電池、リチウム-空気電池、リチウム-銅二次電池
講演題目
電池技術における評価解析手法の現状と課題
講師
藤田 学(東レリサーチセンター)
各自動車メーカーにおいて、ガソリンと電池で駆動するハイブリッド自動車の研究開発が盛んに行われている。昨今ではニューモデルの市場投入や、自動車メーカーとセルメーカーの合弁会社設立など、競争が激化している様子が伺える。現在、ハイブリッド自動車の駆動源としてはニッケル水素電池が用いられているが、今後はLIB(Lithium Ion Battery)が主流となってくることが確実である。これにともない、LIBでは性能向上と安全性確保の両立が求められており、非常に難しいステージに到達したといえる。プラグインハイブリッド車や電気自動車においては、さらに大型の電池が必要とされることから、リチウムイオン電池の開発が実用化の鍵を握っている。
リチウムイオン2次電池の電極/電解液界面では、電気化学反応によってSEI(Solid Electrolyte Interface)と呼ばれる被膜が形成されると考えられている[1]。SEIの存在により、セル内の電解液の分解は抑制され、円滑な充放電反応が可能となる。しかしながら、SEIが厚くなると負極表面におけるLiイオンの拡散を阻害してしまう可能性など、性能低下の原因となることも考えられる。このように、SEIの膜厚や組成は、リチウムイオン電池の性能と密接に関係していることが考えられるため、その分析は極めて重要である。
SEIの無機成分の相対膜厚や組成は、アルゴンイオンエッチングを用いた、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)やオージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)による深さ方向分析によって評価することが可能である[2]。また、分析電子顕微鏡(AEM:Analytical Electron Microscopy)によって、電極断面における微小部の形態や組成の分布を観察する方法も有効である[2]。これらを現状の分析例として紹介する。
一方、SEIの有機成分に着目した分析例は少なく、課題の一つであると思われる。近年、C60+イオンをエッチング源として用いることで、従来のアルゴンイオンと比べてダメージを軽減させたXPSによる深さ方向分析が可能となり、その有用性が報告されている[3, 4]。この方法により、サイクル数の異なる炭素系負極を分析し、SEIの有機系成分の寄与について言及できる可能性が報告されている[5]。また、有機組成分析の適用も報告されている[6]。これらを課題克服への取り組みとして紹介する。
その他、セルの状態で電気化学測定中に分析する、いわゆるIn situ分析のニーズが高まっている。本講演ではIn situ XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)による正極の構造解析例も紹介する。
[1] K. Xu, Chem. Rev. 104 (2004) 4303.
[2]第50回電池討論会予稿集 3B05.
[3]山元隆志, 吉川和宏, 高橋久美子, 中川善嗣, Polyfile Vol.44, No.524, p.40(2007).
[4]高橋久美子, SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業), Vol.65, No.5,(2009).
[5]2009年電気化学秋季大会予稿集 2A07.
[6]第50回電池討論会予稿集 1C20.
更新:2010/1/1