セミナー:半導体SiC の基礎と応用 (省エネ・低炭素社会を目指したパワーデバイス開発の将来)

第40回 薄膜・表面物理セミナー (2012)

案内(PDF:155KB)

概要

主旨

IV-IV 族化合物である半導体SiC は,絶縁破壊電界強度,高温動作性,熱伝導性などの材料物性がSi に比べ数倍を超える特性を有しています.そのため,SiC を半導体デバイスに利用することで,従来のSi デバイスに比べ大幅な省エネルギー化が期待できます.これまでSiC は,ウエハ製造の困難さや結晶欠陥の発生しやすさなどにより実用化が妨げられていました.しかし,近年の飛躍的な技術革新により,それら課題が解決されつつあります.このような背景の元,CO2削減を始めとする地球環境問題への対策が急務とされている現在,SiC は高耐圧・低損失のパワーデバイス材料として,世界的な注目を集めています.本セミナーでは,この魅力的なSiC の基礎と応用について,第一線でご活躍されている講師の方々に最新の成果をご紹介頂きます.多くの方々のご参加をお待ちしております.

日時

2012年8月3日(金) 10:00-17:50 (受付開始 9:30)

場所

東工大蔵前会館 ロイアルブルーホール
東京都目黒区大岡山2-12-1
TEL: 03-5734-3737
東急大井町線・目黒線 大岡山駅下車 徒歩1分
http://www.somuka.titech.ac.jp/ttf/access/index.html (アクセスマップ)

 

プログラム(題目をクリックすると要旨がご覧になれます)

日時 講演題目(仮) 講師
10:00-10:55 SiC技術の進展
-なぜいまSiC技術が重要なのか-
恩田 正一
(デンソー)
10:55-11:50 SiCの基礎物性 吉田 貞史
(産総研)
11:50-13:00 昼休憩
13:00-13:55 SiC単結晶の結晶成長技術 藤本 辰雄
(新日鉄)
13:55-14:50 SiC エピタキシャル成長技術 土田 秀一
(電中研)
14:50-15:05 休憩
15:05-16:00 SiC ウエハの検査・評価技術 北畠 真
(FUPET)
16:00-16:55 SiCパワーデバイス開発と評価技術 渡部 平司
(阪大)
16:55-17:50 産業分野でのSiCへの期待
-自動車産業への応用-
谷本 智
(日産/FUPET)

 

参加費

薄膜・表面物理分科会会員 * 応用物理学会会員 **
協賛学協会会員
学生 *** その他
10,000円 15,000円 3,000円 20,000円

*薄膜・表面物理分科会賛助会社の方は分科会会員扱いといたします.

**応用物理学会賛助会社の方は,応用物理学会会員扱いといたします.

現在非会員の方でも,参加登録時に薄膜・表面物理分科会(年会費A会員:3,000円,B会員:2,200円)にご入会いただければ,本セミナーより会員扱いとさせていただきます.
http://www.jsap.or.jp/ より入会登録を行い,仮会員番号を取得後,本セミナーにお申込み下さい.
入会決定後,年会費請求書をお送りいたします.(年会費をセミナー参加費と同時にお振込なさらないで下さい.)

***学生の場合は,会員・非会員の別を問いません.

定員

60名 (満員になり次第締め切ります.)

参加申込締切

2012年7月20日(金)

参加申込方法

下記分科会ホームページ内の登録フォームにて参加登録してください.
https://annex.jsap.or.jp/phpESP/public/survey.php?name=HakuhyouSeminar40
参加登録完了後,ご連絡いただいた期日までに参加費を下記銀行口座にお振込ください.原則として参加費の払い戻し,請求書の発行は致しません.領収書は当日会場にてお渡しいたします.

参加費振込期限

2012年7月27日(金)
参加費の入金確認後,参加証をお送りします.

参加費振込先

三井住友銀行 本店営業部(本店も可)
普通預金 口座番号: 9474715
(社) 応用物理学会 薄膜・表面物理分科会
(シャ) オウヨウブツリガッカイハクマク・ヒョウメンブツリブンカカイ

セミナー内容問合せ先

物質・材料研究機構
長谷川 剛
TEL: 029-860-4734
FAX: 029-860-4790
E-mail:HASEGAWA.Tsuyoshi@nims.go.jp

日立ハイテクノロジーズ
古川 貴司
TEL: 0495-32-2508
FAX: 0495-32-2080
E-mail:furukawa-takashi@deco.hitachi-hitec.com

参加登録問合せ先

応用物理学会事務局分科会担当
上村 さつき
TEL: 03-5802-0863
FAX: 03-5802-6250
E-mail:kamimura@jsap.or.jp

講演詳細

講演題目

SiC技術の進展 -なぜいまSiC技術が重要なのか-

講師

恩田 正一(デンソー)

Si半導体全盛の時代は50年も続いているが、GaAsなどの化合物半導体が徐々にSiを脅かす時代に入ってきた。エネルギー枯渇、二酸化炭素など環境問題が叫ばれる中、あらゆる分野で電動化が進みパワーエレクトロニクスの果たす役割は非常に大きい。そのような中で、物性的に限界に近づきつつあるシリコンに代わりシリコンカーバイド(SiC)が世界的に注目され、今まさに、本格的な応用期を迎えようとしている。
SiCパワーデバイスは自動車、鉄道、送電などのインバータ・コンバータの損失低減、小型化、軽量化等に大きな期待がされているが、基板となるSiCウエハの品質、価格、またトランジスタ界面準位の課題が実用化の大きな壁となっていた。わが国では98年から国家プロジェクトでSiCウエハ、デバイスの地道な研究開発がなされてきた。現在、φ6インチウエハが実現され、100A級のMOSトランジスタ、3KV級のダイオードも試作に成功し、各研究機関においては現実的な開発が進められ出した。
「なぜ今SiC技術か」という言葉はこれまでもたびたび使われてきた。本報告では、SiC研究開発を振り返り、SiCの魅力を紹介すると共に、なぜ今SiC技術が必要かを考える。またウエハおよびデバイスの最新の開発動向、トピックスを踏まえ、様々なSiC応用範囲と信頼性/コストなど実用化のための課題を示す。また、TPECなどTIAの活用、大学との連携などもまとめる。

講演題目

SiCの基礎物性

講師

吉田 貞史(産総研)

SiCはIV-IV族唯一の化合物半導体である。本講演では、SiCの基礎的物性を下記の視点・観点からSi、GaNなどと比較しながら述べる。
(1)SiCは軽元素Cを構成元素とする「軽元素系半導体」である。軽元素は正四面体配位半径が小さいことから、一般に軽元素を含む結晶は格子定数が小さい。このことから結合エネルギーが大きく、その結果大きいバンドギャップ、絶縁破壊電界、熱伝導度を持つなどの共通した物性を有する。
(2)SiとCは共にIV族元素であるが、Si とC原子の電気陰性度の違いによってSi-C結合は約18%のイオン性を持つ。このため、SiCは組成1:1の「化合物半導体」である。多くの点でSiCはSiに類似の物性を持つが、SiあるいはSiGe混晶系とは違った化合物特有の性質を持つ。
(3)SiCの結晶構造上の特徴は数多くの「ポリタイプ」が存在することである。その原因は基本的にはSiC bi-layerが積層するとき、立方晶的積層と六方晶的積層のエネルギー差が極めて小さいことである。ポリタイプは積層周期の違いによるもので、一種の「自然超格子」である。ポリタイプによって物性が異なるため、結晶成長では一定のポリタイプが保たれるようポリタイプ制御が必要である。積層欠陥はポリタイプの乱れとも言える。
(4)半導体の物性はその応用と深く結びついており、物性値から計算される様々なfigure of meritが提案されている。低損失パワーデバイス、小型・高密度デバイス、高速デバイス、耐環境性デバイスなどの応用の見地からSiCの物性を考える。
(5)半導体の物性は半導体素子の作製プロセスに深く関わっている。原子間結合が強いことから熱的・化学的に安定であり、このことからあらゆるデバイスプロセスが高温を要し、また化学的エッチングが困難、不純物の熱拡散が困難、といったプロセス上の困難さをもたらしている。
(6)SiCの半導体材料としての利点はSi と同様の熱酸化によりSi C上に酸化絶縁膜を形成することができることである。このため、MOS構造を形成することができ、Si と同様にMOSFETが作製可能である。しかし、現状SiC-MOS特性はSiのそれに比べて劣っており、その解決にはSiCの酸化膜界面構造やそれと深く関係すると考えられる酸化機構の解明が待たれている。

講演題目

SiC単結晶の結晶成長技術

講師

藤本 辰雄(新日鉄)

高効率パワーデバイス製造用のワイドバンドギャップ半導体基板としてのSiCは、近年その単結晶成長技術の進展が著しく、口径3インチ~100mm(4インチ)の4H-SiCウェハが市場で既に主流となっていると同時に、結晶性改善あるいは転位密度低減化を目指した各種の欠陥の生成機構についても精力的な研究開発が進められている現況にある。近年では、150 mm(6インチ)ウェハへの期待も高まりつつあり、国内外で開発が盛んに進められている。本講演では、最近のウェハ開発動向を概観し、これらの基盤となる、SiCの昇華および再結晶現象を整理し、SiC単結晶成長法の成長プロセスを外観すると同時に、大口径化および欠陥低減化への展望について概説する。また、高品質大口径ウェハを実現するために重要な一製造プロセスである加工工程の技術内容について、特に硬脆材料としてのSiC単結晶の切断および研磨工程の概要についても、ごく簡単に概説する。

講演題目

4H-SiC エピタキシャル成長と欠陥制御

講師

土田秀一(電力中央研究所)

高電圧 4H-SiC パワー半導体素子に用いる厚いエピタキシャル膜の形成や,高スループットでのエピタキシャル膜の製造のために,より高い成長速度での 4H-SiC エピタキシャル成長の技術開発が望まれている。一方,4H-SiC エピタキシャル成長においては,成長時における基板よりの伝播,エピタキシャル成長初期あるいは成長中での生成を通じて,素子の活性領域内に拡張欠陥(転位,積層欠陥)が導入される。これらの拡張欠陥は,素子の電気的特性に様々な影響を及ぼす。このため,4H-SiC エピタキシャル成長における拡張欠陥の挙動を明らかにし,その低減技術を得ることが求められている。さらに,高電圧バイポーラ素子への適用に際しては,十分なキャリアライフタイムを有する伝導度変調層を得るために,4H-SiCエピタキシャル膜中の点欠陥密度を制御,低減する必要がある。
本講演では,4H-SiC エピタキシャル成長における高速・厚膜成長技術,拡張欠陥の挙動解析と低減技術,点欠陥の制御・低減技術についての研究開発の進展と現状を紹介する。

講演題目

SiCウェハの検査・評価技術

講師

北畠 真(FUPET)

SiCウェハは年々進歩しており、6インチサイズのウェハももう直ぐ市販されるようになる。しかし、気相から2000度以上の温度で成長させるSiC単結晶に対して、液相から成長するSiのような無欠陥成長は期待できない。SiCウェハには、数千個/cm2以上の欠陥が含まれており、欠陥を含まない完璧なデバイスは、よほど小さいデバイスでない限り作成することが出来ない。欠陥を含んだデバイスがどの程度の電気特性を示し、いかなる使い方に対して信頼性が担保できるのかを知ることにより、始めてSiCデバイスの事業化が現実のものとなる。SiCウェハの欠陥とデバイスの電気特性/信頼性やデバイス作製歩留まりとの関係を明確にすることを目的し、「SiC統合化評価プラットフォーム」を構築した。
SiCウエハの表面の欠陥を検出/分類/分布把握可能な「観察システム」(明視野コンフォーカル微分干渉顕微鏡)を導入した。ウェハ表面/エピ表面の大型欠陥はもとより、従来観察が容易でなかった小型欠陥、研磨損傷も検出できる。欠陥の座標認識も可能であり、他の評価手段との連携も容易である。検出された欠陥は分類され、ウェハ上の座標とともにデータ出力される。
欠陥の座標を頼りに、AFM,SEM,TEM,PL,X線トポなどの「欠陥構造解析」が進められる。一つ一つの欠陥の分類と座標がわかっているエピタキシャルウェハの上に、面積の小さい電極(例えばMOSキャパシター)を大量に形成し、「電気特性評価」を行い、上記欠陥と電極の座標と対応させ、欠陥と電気特性/信頼性の紐付けデータを蓄積している。
本講演では、上記「観察システム」「欠陥構造解析」「電気特性解析」で構成される「SiC統合評価プラットフォーム」に関して説明し、蓄積されているデータの例を紹介する。本講演は、NEDO委託事業「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」の成果を含む。

講演題目

SiCパワーデバイス開発と評価技術

講師

渡部 平司(阪大)

近年のパワーデバイス開発ではSiCショットキーバリアダイオード(SBD)に続き、ノーマリオフ特性を有したMOS型電界効果トランジスタ(SiC-MOSFET)普及への期待が高まっている。SiCデバイスでは、従来のSiと同様に熱酸化によってSiO2絶縁膜を形成可能であり、これをMOSFETのゲート絶縁膜として利用している。SiC基板を構成する大部分の炭素は高温酸化時に気相中に熱脱離するが、その一部がSiO2/SiC界面に偏析し、MOSFETのチャネル移動度劣化やゲート絶縁膜の耐圧低下、さらにはトランジスタの閾値電圧変動を引き起こすと考えられている。この様に、SiC表面の熱酸化過程やSiO2/SiC界面物性の理解とその制御は、SiC-MOSパワーデバイス開発において最重要課題である。しかし、SiO2ネットワークの形成と炭素脱離が同時に進行するSiC混晶材料の酸化反応は非常に複雑であり、反応素過程やSiC-MOS界面の原子構造と電気特性との関係について詳細な理解には至っていない。従って、今後のSiCパワーデバイス開発では、各種の物理分析技術やMOSデバイスの電気特性評価技術を駆使し、特性改善に向けた総合的な取り組みが必要である。
本講演では、光電子分光法や原子間力顕微鏡を用いたSiC表面の熱酸化過程の評価に加え、SiC-MOSデバイスの電気特性劣化との相関を調べた結果について紹介する。またSiO2/SiC界面のエネルギーバンド構造解析から、基板面方位やゲート絶縁膜形成工程の違いによるMOSデバイスの信頼性劣化現象についても議論したい。さらに、SiC-MOSFETに見られる閾値電圧変動について、その原因を明らかにすると共に、堆積絶縁膜を用いた高信頼SiC-MOSFET実現を目指した研究開発事例を紹介する。

講演題目

産業分野でのSiCへの期待 -自動車産業への応用

講師

谷本 智(日産/FUPET)

内燃機関車(ICE)から電動車(HV, EV, FCV)への大転換がいまなぜ起こっているのか、その背景を説明したあと、電動車を成立させるコア部品がモータ、バッテリー(または発電装置)、パワーコントロールユニットであることを述べ、各部品の役割を平易に解説する。電動車を早期に普及させるために、これらパワエレ部品の高性能化と原価低減の取り組みが電装品メーカを巻き込んで急ピッチで進んでいる。中でもパワーコントロールユニットにおいて成功の鍵を握っているのがSiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体を用いた次世代変換器技術である。この技術は半導体デバイスの単なる転換ではなく、高い接合温度での動作、高速スイッチング、大電流駆動など、高度な技術革新が求められている。本講演では、デバイスレベル、モジュールレベル、ユニットレベル毎にいくつかのアイテムを挙げて、次世代変換器技術の課題と現状の達成度を説明する。SiCモータインバータ(モータを回転させるためのDC/AC電力変換器)にかかる最新変換器技術も披露したい。

更新:2012/1/1