セミナー:次世代・革新二次電池技術の最前線 ~薄膜・表面研究者にもわかる電池の基礎から将来展望まで~

第43回 薄膜・表面物理セミナー (2015)

案内(PDF:170KB)

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概要

主旨

スマートフォン・ノート PC などの電子機器やハイブリッド・電気自動車だけではなく、再生可能エネルギーの利用を含めた将来のエネルギーシステムにとっても二次電池をはじめとする高性能な蓄電デバイスの開発が必須となっています。二次電池における化学エネルギーと電気エネルギー間の相互変換では、薄膜上での表面・界面が反応場として重要な役割を担っています。

本セミナーは、このような二次電池技術の最前線について、電気化学を専門としない物理系の薄膜・表面研究者にとってもわかりやすく概観し、将来を展望する研究会として企画しました。二次電池を必要とする社会的要請やその理解のための電気化学の基礎から現在活発に研究・開発が進行している各種二次電池技術の現状に至るまでを第一線の講師の皆様から紹介いただきます。

日時

2015年6月8日(月) 10:00-17:10 (受付開始 9:30)

場所

早稲田大学西早稲田キャンパス 55N号館 1階 大会議室B
東京都新宿区大久保3-4-1
地下鉄副都心線 西早稲田駅直結
JR山手線高田馬場駅 徒歩15分
アクセスマップ: http://www.waseda.jp/top/access/nishiwaseda-campus

 

プログラム(題目をクリックすると要旨がご覧になれます)

時間 講演題目 講師
10:00-10:45 サステナブルモビリティとナノサイエンスとのつながり 射場 英紀 (トヨタ)
10:45-11:30 電気化学の基礎:固-液界面で、境界の向こう側を観るために 鳥本 司 (名古屋大)
11:30-13:00 昼休憩
13:00-13:45 電池反応とエネルギー・出力密度の考え方
-革新電池は本当に高エネルギー密度電池か?-
金村 聖志 (首都大)
13:45-14:20 全固体リチウム二次電池の研究開発と蓄電池の放射光利用分析技術 菅野 了次 (東工大)
14:20-14:55 リチウム空気二次電池の特性向上への取り組み 林 政彦 (NTT)
14:55-15:15 休憩
15:15-15:50 薄膜モデル電極を用いた電極/電解質界面の構造設計と高容量マグネシウム二次電池の創製 折笠 有基 (京大)
15:50-16:25 新材料開発を基軸とするナトリウムイオン電池システムの構築 山田 淳夫 (東大)
16:25-17:00 二次電池材料の界面特性に関する第一原理計算 大野 隆央 (物材機構)
17:00-17:10 クロージング 高桑 雄二 (東北大)

 

参加費

薄膜・表面物理分科会会員 * 応用物理学会会員 **
協賛学協会会員
学生 *** その他
10,000円 15,000円 3,000円 20,000円

* 薄膜・表面物理分科会賛助会社の方は分科会会員扱いと致します.
** 応用物理学会賛助会社の方は,応用物理学会会員扱いと致します.
*** 学生の場合は,会員・非会員の別を問いません.

現在非会員の方でも,参加登録時に薄膜・表面物理分科会(年会費A会員:3,000円,B会員:2,200円)にご入会いただければ,本セミナーより会員扱いとさせていただきます.
http://www.jsap.or.jp/join/kojin.html より入会登録を行い,仮会員番号を取得後,本セミナーにお申込み下さい.入会決定後,年会費請求書をお送りいたします.
(年会費をセミナー参加費と同時にお振込なさらないで下さい.)

定員

100名 (定員になり次第締め切ります.)

参加申込期間

2015年4月1日(水)~5月25日(月)

参加申込方法

薄膜・表面物理分科会ホームページ内にある第43回薄膜・表面物理セミナーの登録フォームから参加登録をお願い致します.
https://annex.jsap.or.jp/limesurvey/index.php/526637/lang-ja
参加登録完了後,ご連絡いただいた期日までに,下記銀行口座に参加費をお振込みください.
原則として参加費の払い戻し,請求書の発行は致しません.
領収書は当日会場にてお渡しいたします.

参加費振込期間

2015年4月1日(水)~6月1日(月)

参加費振込先

三井住友銀行 本店営業部(本店も可)
普通預金 口座番号: 9474715
(社) 応用物理学会 薄膜・表面物理分科会
(シャ) オウヨウブツリガッカイハクマク・ヒョウメンブツリブンカカイ

セミナー内容問合せ先

産総研 宮田 典幸
E-mail:nori.miyata@aist.go.jp

阪大 小林 慶裕
E-mail:kobayashi@ap.eng.osaka-u.ac.jp

早大 渡邉 孝信
E-mail:watanabe-t@waseda.jp

参加登録問合せ先

応用物理学会事務局分科会担当 小田康代
TEL: 03-5802-0863
FAX: 03-5802-6250
E-mail:oda@jsap.or.jp

講演詳細

講演題目

サステナブルモビリティとナノサイエンスとのつながり

講師

射場 英紀(トヨタ)

ハイブリッド車は、低燃費と走行性能の両方という観点から、1997年の初代プリウスの発売以降、車種と台数を増やしている。電気のみで走行できる距離が長ければ長いほどCO2の排出低減やエネルギー多様性の効果は大きくなるので、蓄電池のエネルギー容量拡大への期待は大きい。次世代電池の候補として、全固体電池や金属空気電池などがあげられるが、その実現のためには その電極や電解質などの構成材料に加えて表面処理技術のブレイクスルーが必要不可欠である。
従来のリチウムイオン電池に一般的に使われている電解液を、固体の電解質に置き換えることにより、コンパクト化、部品点数や工程の削減、充放電条件の拡大などの可能性があり、それらを総合して高容量化が期待される。このような全固体電池に適用する可能性のある固体電解質として、固体内のリチウム伝導が高い種々の材料が提案されている。ただし、電池の出力は、電解質のバルク内のリチウム伝導だけでなく、電解質の粒子間の伝導や電極活物質と電解質の界面、さらには正負極の活物質内でのリチウム伝導と電子伝導が影響しており、それに関連して多くの研究課題がある。その一例としてパルスレーザーデポディション(PLD)法、スパッタ法により結晶方位や表面性状を制御した活物質薄膜を作製し、その電気化学測定を行うことで結晶方位などが電池特性に及ぼす影響について調査した内容を紹介する。
金属空気電池は,負極で金属の溶出,正極(空気極)では溶出した金属が空気中の酸素と反応して放電析出物となることで放電することは古くから知られており,すでに亜鉛空気電池などは一次電池として実用化されている。一方、亜鉛よりも卑な金属であるリチウムを負極に用いたリチウム空気電池はさらに高エネルギーを狙える電池である。リチウム空気電池の反応は,正極上に固体のLi2O2が析出・分解する反応で,用いるカーボン材料の表面状態が大きく影響する。一例としてカーボンナノチューブ(CNT)をモデル材料として、カーボン構造とLi2O2の析出挙動との関係について調査した内容を紹介する。

講演題目

電気化学の基礎:
固-液界面で、境界の向こう側を観るために

講師

鳥本 司(名古屋大)

スマートフォンや携帯音楽機器などの小さな機器から、ハイブリッドカーや燃料電池自動車まで、私たちの身の回りの製品には電池が内蔵されているものが多い。蓄電デバイスである電池の性能を向上させることは、これを用いる電子機器の高性能化に直結する。現在、電池の新規開発や高性能化が、様々な分野で活発に研究されている。
一方、学習対象としての電池は、小学校から始まり、非常に身近な教材である。文部科学省の学習指導要領によると中学校では電池に関して、“電解質水溶液と2種類の金属などを用いた実験を行い、電流が取り出せることを見いだすとともに、化学エネルギーが電気エネルギーに変換されていることを知ること”を学ぶ。このように、類似の現象を長年にわたって学んできたはずであるのに、「電気化学は難しい」という研究者は多い。これは、電気化学が界面を通過する荷電粒子を扱う学問であること、化学から物理まで幅広い知識を必要とする学際的な分野であること、電気化学の用語と似たような単語が他分野にもあることなどであろう。
そこで本講演では、初学者が電気化学の基礎を理解するためのキーポイントを紹介する。電気化学の関わる現象を見た場合に、物理分野と化学分野の研究者ではそのとらえ方がどのように違う(と感じる)のかに始まり、電極電位と電子のエネルギーの違い、金属や半導体の電極表面に形成される電気二重層の概念、電池の起電力(Nernstの式)、電極電位の測定方法、電位・電流・化学反応速度の関係(Butler-Volmerの式)、溶液中における半導体電極の電子エネルギー構造の評価(Mott-Schottkyプロット)に関して概説する。

講演題目

電池反応とエネルギー・出力密度の考え方
-革新電池は本当に高エネルギー密度電池か?

講師

金村 聖志 (首都大)

蓄電池は、地球環境問題とエネルギー問題を解決する有力なデバイスとして注目されている。これまでに、リチウムイオン電池をはじめとする種々の蓄電池が実用化されてきた。しかし、今後より高性能な電池が、住宅用や電気自動車用や携帯電子機器用に必要とされている。そのため、新しい材料や新しい電池に関する研究が活発に行われている。特に、買う新電池に関する研究は世界中で活発化している。より優れた電池を作製するには電池の中味をよく理解しなければならない。そこで、最初に電池反応の詳細なメカニズムについて、鉛蓄電池およびリチウムイオン電池を例として説明する。基本的にまったく異なる反応で駆動する電池である。これらの反応機構の差によって、電池のエネルギー密度がどのようになるのかを述べる。最終的に電池を作製した場合のエネルギー密度を試算する。また、これらの電池の出力(最大電流)を何が決めているのかについて説明する。反応速度論に基づく基礎的な部分と実際の電極での反応に関して説明し、電池の反応速度を実質的に決めている因子について述べる。さらに、実際に電池を作製するにはいろいろな部材が必要であり、これらの部材が電池のエネルギー密度と出力密度にどのような影響を及ぼすのかについて述べる。最後に、リチウム空気電池、リチウム硫黄電池、全固体電池などの革新電池が本当に高エネルギー密度電池として機能できるのか、あるいは機能するためには何が必要となるのかについて議論する。

講演題目

全固体リチウム二次電池の研究開発と蓄電池の放射光利用分析技術

講師

菅野 了次(東工大)

リチウムをイオン導電種とした蓄電池では、既存のリチウムイオン電池の高エネルギー密度化や高出力化、信頼性の向上を目指した技術開発が進んでいる。また、既存のリチウムイオン電池とは形態の異なる電池系を模索する試みも、実用化に向けた全固体電池の開発へと展開している。全固体電池を実用化するための一ステップとなる電解質開発でも、室温で液体なみのイオン導電率を持つイオン導電体が見出された。本稿では、リチウム系の全固体電池の開発のもととなる物質の探索過程と、その物質の発見以降の展開を紹介する。また、このような蓄電池において、電極電解質界面の反応を調べるための放射光を利用した分析技術にも触れる。

講演題目

リチウム空気二次電池の特性向上への取り組み

講師

林 政彦(NTT)

リチウム空気二次電池は、空気中の酸素を正極活物質に、金属リチウムを負極活物質に利用する充放電可能な電池である。本電池は、理論エネルギー密度がリチウムイオン電池などの従来型電池よりも遥かに高いため、次世代型革新電池として期待されている。また、本電池は、従来型 電池と異なり開放系の電池であり、放電においては、空気中の酸素を正極である空気極に取り込み酸化リチウムが空気極上に析出し、充電においては、析出した酸化リチウムがLiイオンとガス状の酸素に分解され、電池外へと排出される。しかし、このように放電生成物の析出・分解を伴う複雑な反応系であることや酸素の取り込み・排出などのガス拡散プロセスを有していることから可逆性に課題があることや、酸素と電解液の反応による劣化を伴うことなどから、充放電サイクルを繰り返すと放電容量の減少が著しいということが明らかとなってきた。そこで、これまでに、空気極での反応を促進するような触媒などの電極材料や酸素との反応性が低い電解液の探索などが多くの研究者・研究機関によって進められている。NTT研究所では、触媒やカーボン担体などの空気極材料や空気極構造の検討によりサイクル特性などの電池性能の改善に取り組んでいる。本講演では、NTT研究所における二次電池研究の意義やリチウム空気二次電池に関する検討事例についての紹介を行う。

講演題目

薄膜モデル電極を用いた電極/
電解質界面の構造設計と高容量マグネシウム二次電池の創製

講師

折笠 有基(京大)

電気エネルギーを蓄える二次電池は電気自動車やスマートグリッドの普及に向けてさらなる性能向上が求められている。二次電池の電極反応は、電解質と電極間のイオン移動を伴う過程であり、リチウムイオン二次電池では、電極と有機電解液の間をリチウムイオンが移動することで電極反応が進行する。電極反応進行時、電極/電解質界面では、イオンの溶媒和・脱溶媒和による界面層の形成や、イオン挿入・脱離に伴う電極の電子・局所構造の変化などが生じており、これら種々の界面反応が電池のサイクル特性や出力特性の限界を規定していると考えられる。そのため、蓄電池の性能向上および新しい革新電池の開発には、電極/電解質界面の詳細を明らかにし、その界面反応を制御することが必要不可欠である。しかしながら、この界面の化学状態を直接観測する手段は確立されておらず、反応機構については未知の部分が多い。これは、界面反応が数ナノメートルのオーダーで起こり、この領域での挙動を蓄電池作動状態にて観察する手法が確立されていないことに起因する。本研究では、薄膜モデル電極を用いて、電極/電解質界面の反応機構解析を行い、界面設計指針を確立した。分析手法には界面の電子・局所構造を電池作動条件下で測定可能な新規測定手法であるオペランドX線吸収分光法を適用させ、電気化学測定と組み合わせた。得られた知見は次世代二次電池の材料設計へ適用される。本講演ではマグネシウム二次電池を取り上げ、界面制御による高性能化への道筋について解説する。

講演題目

新材料開発を基軸とするナトリウムイオン電池システムの構築

講師

山田 淳夫(東大)

元素戦略の観点からの電池電極材料機能化に向けた最優先ターゲットとすべき遷移金属は鉄である。また、反応の可動ゲスト種をリチウムからより豊富で安価なナトリウムに転換すると、負極反応の析出溶解電位が0.3V上昇するため高電圧系構築への障壁が高くなると同時に、イオン半径・体積ともに大きくなるため、高容量実現もはるかに困難になる。このような本質的制限の中で、元素機能の最大抽出によってリチウム系を凌駕するシステム構築を目指している。我々が発見したアルオード石型硫酸鉄ナトリウムは、3.8 V (対リチウム換算では4.1 V)の超高電圧を発生し、エネルギー密度でリチウムイオン電池系と同等以上を見通すことができる[1]。
擬似容量を発現するナトリウムイオン電池用負極材料として、MAX相(一般組成式:Mn+1AXn, M = Ti, Cr, V, etc., A = Al, Si, S, etc., X = C, N, n = 1, 2, etc.)として知られる層状化合物をフッ化水素酸により処理することで得られる、高導電性MXene層状化合物(組成式:Mn+1Xn)を検討した。エネルギー密度と出力密度を高い水準で両立した擬似容量電極特性を達成し、 上述の新規正極材料と組み合わせてフルセルとして作動させたところ、急速充電、長時間の電流供給、充放電を繰り返しても劣化しない安定性などの、次世代電池に必要な性能を満たすことを確認した[2]。

[1] P. Barpanda et al., and A. Yamada, Nature Comm., 5, 4358(2014)
[2] X. Wang et al., and A. Yamada, Nature Comm., 6, 6544 (2015)

講演題目

二次電池材料の界面特性に関する第一原理計算

講師

大野 隆央 (物材機構)

二次電池では電子とイオンの分離した移動により化学エネルギーと電気エネルギーの変換が引き起こされるため,電極,電解質などの電池材料界面での物質移動が特性に大きな影響を与える。全固体リチウム二次電池やリチウム空気電池などの次世代二次電池を対象に,電池内に存在する様々な界面の特性に関する第一原理計算を紹介する。

更新:2015/3/1