セミナー:ダイヤモンドの形成技術から応用・未来技術 -センシングからグリーン・パワーデバイスまで-

第46回 薄膜・表面物理セミナー (2018)

詳細PDF:第46回薄膜表面物理セミナーポスター

参加登録サイトはこちら (締切を7月19日(木) まで延長しました。)

 ダイヤモンドは、今後広範囲の応用が見込めるセンサーや量子デバイス、次世代パワーデバイス材料として非常に大きなポテンシャルを有しています. 近年、ダイヤモンドの研究開発は、応用を見据えた基板開発や材料、センサー、量子通信、電子デバイス開発など、広く、急速に進んでいます. このような中、現在、日本が世界を牽引している状況にあります. そこで本セミナーは、新たな研究者の参入等によるダイヤモンドの研究開発のさらなる推進を目指して、その魅力を広く知っていただくためのセミナーとして企画されました. 本セミナーでは、ダイヤモンドの研究開発で世界をリードする方々に、基礎から応用までの広い範囲についてご説明いただきます. 次世代の産業の核となる研究開発のテーマを模索されている企業の方々、また、次の世代を担う若手の皆様など、多くの方々のご参加をお待ちしております.

日時:2018年7月27日(金) 10:00-17:30 (受付開始 9:30)

場所:産総研 臨海副都心センター 別館11階会議室 11205室

(〒135-0064 東京都江東区青海2-3-26,新交通ゆりかもめ「テレコムセンター」駅下車 徒歩3分)

アクセスマッップhttp://www.aist.go.jp/aist_j/guidemap/tokyo_waterfront/tokyo_waterfront_map_main.html

プログラム(題目をクリックすると要旨がご覧になれます)

日時 講演題目 講師

27

(金)

10:00-10:10 オープニング
10:10-11:00 究極の半導体「ダイヤモンド」の研究開発の現状
量子デバイスとパワーデバイス
山崎 聡
(産総研)
11:00-11:50 NVセンターを用いる量子センシング:原理から応用・展望まで 磯谷 順一
(筑波大)
昼休憩 (70 分)
13:00-13:50 ダイヤモンドを用いた量子暗号通信から量子コンピューターまで 小坂 英男
(横浜国大)
13:50-14:40 デバイス開発発展に向けたダイヤモンド基板の現状と課題 金 聖祐
(アダマンド並木精密宝石)
休憩 (20 分)
15:00-15:50 企業から見たダイヤモンドのデバイス応用への期待と課題 -電子源・耐環境・高耐圧素子への取り組みから- 酒井 忠司
(東芝)
15:50-16:40 相補型パワーインバータに向けたダイヤモンド2次元正孔ガス高耐圧電界効果トランジスタ 川原田 洋
(早稲田大)
16:40-17:30 ダイヤモンド半導体ウェハの現状とデバイス展開 梅沢 仁
(産総研)

参加費,テキスト代,消費税を含む.

薄膜・表面物理
分科会会員*
応用物理学会会員**
協賛学協会会員
学生(分科非会員)
学生(分科会員)
その他
10,000円 15,000円 3,000円
1,000円
20,000円

* 薄膜・表面物理分科会賛助会社の方は分科会会員扱いといたします.

** 応用物理学会賛助会社の方は,応用物理学会会員扱いといたします.

現在非会員の方でも,参加登録時に薄膜・表面物理分科会(年会費:正会員:2,200円(学生・院生:500円),準会員:3,000円(学生・院生:500円))にご入会いただければ,本セミナーより会員扱いとさせていただきます.

http://www.jsap.or.jp/join/index.html

より入会登録を行い,仮会員番号を取得後,本セミナーにお申込みください.(年会費をセミナー参加費と同時にお振込なさらないでください.)

定員

100名

参加申込期間

2018年4月6日(金)~7月5日(木) 7月19日(木) 締切を延長しました。

参加申込方法

本ページ上部にある登録フォームから参加登録をお願いします.
参加登録完了後,ご連絡いただいた期日までに,下記銀行口座に参加費をお振込みください.
原則として参加費の払い戻し,請求書の発行はいたしません.
領収書は当日会場にてお渡しいたします.

参加費振込期限

2018年7月19日(木)まで

参加費振込先

三井住友銀行 本店営業部(本店でも可)
普通預金 口座番号:9474715
公益社団法人 応用物理学会 薄膜・表面物理分科会
シャ) オウヨウブツリガッカイ ハクマクヒョウメンブツリブンカカイ

セミナー内容問合せ先

日新電機 林  司
e-mail: hayashi_tsukasa@nissin.co.jp

岐阜大学 伊藤 貴司
e-mail: itoh@gifu-u.ac.jp

参加登録問合せ先

応用物理学会 事務局 分科会担当 五十嵐 周
TEL: 03-3828-7723  FAX: 03-3823-1810
e-mail: igarashi@jsap.or.jp

講演詳細

講演題目

究極の半導体「ダイヤモンド」の研究開発の現状
量子デバイスとパワーデバイス

講師

山崎 聡 (産総研)

 高品質ダイヤモンド作製が可能となり、ダイヤモンド半導体としての研究開発は加速している。最近では、ダイヤモンド中の窒素‐空孔センタ(NVセンタ)を用いた量子デバイスが世界的に注目を浴びている。また、ダイヤモンドパワーデバイス開発は着実に進捗しており、大きなブレークスルーが期待されている。
応用物理学会・薄膜表面分科会が主催する本セミナーでは、量子センサーやパワーデバイスなどを中心に、ダイヤモンド半導体研究の最前線を多くの皆様に理解いただくことを目的としている。また、最初に行う私の講演部分では、全体説明として、ダイヤモンド半導体デバイス開発の全体像、なぜダイヤモンドか、また、国内外における研究開発状況、重要であるけれども、時間的な問題で本セミナーでは触れることができない応用の概略を紹介したい。

講演題目

NVセンターを用いる量子センシング:原理から応用・展望まで

講師

磯谷 順一 (筑波大)

 NVセンターは共焦点顕微鏡を用いて単一欠陥を室温で検出できる。マイクロ波遷移を蛍光強度変化として検出するODMR(光検出磁気共鳴)により単一電子スピンのESR(電子スピン共鳴)スペクトルが得られる。NVセンターのESR/ODMR周波数は磁場、電場、温度、圧力などによって変化するので、これらを検出するセンサとなる。ゼロ磁場でもESR/ODMR周波数をマイクロ波領域にもつ。
 NVセンターの特徴は、単一欠陥の単一電子スピンというまさしく“量子系”をセンサに使えることである。しかも、この量子系は光ポンピングによる初期化、蛍光強度のスピン副準位依存性による読み出し、マイクロ波パルスによるコヒーレント操作、長いコヒーレンス時間など、固体スピン量子ビットとしての優れた性質を室温で示す。重ね合わせ状態やその特別な場合であるエンタングルメント状態など量子力学固有の現象を用いることによって、センシングの感度、精度、選択性を大幅に向上できる。
 高感度の最大の要因はコヒーレンス時間(重ね合わせ状態を保持する時間)が長いことにある。NVセンターの不対電子の波動関数は局在(~0.7 nm)しており、固体センサとして極めて小さく、ナノスケールの空間分解能をもたらす。核スピンからの弱い磁場を検出できる感度を、試料に近づけることで活かして、単一分子の室温検出・構造決定をめざすナノNMRが進展している。センサとして小さく、光でアクセスできるという特長は、ダイヤモンド表面近くの浅いNVセンターに加えて、ナノピラーを用いるスキャニング型、ナノダイヤモンド、NVセンター薄膜層を用いたワイドフィールド顕微鏡など様々な形での応用をもたらす。室温動作とダイヤモンドが生体親和性をもつことは生物・医学への応用の強みであるが、磁気現象・超伝導など材料への応用では極低温までの広い温度範囲で使える。
 孤立したNVセンターの集団(アンサンブル)では、空間分解能を犠牲にするが、感度を稼ぐことができる。コヒーレント分光学である磁気共鳴の手法を用いるために量子センシングに含められている。室温動作の固体デバイスとして既存の磁気センサを代替することが期待される。
 本セミナーでは量子センシングの原理から急速に進展している応用・将来展望までを概観する。

講演題目

ダイヤモンドを用いた量子暗号通信から量子コンピューターまで

講師

小坂 英男 (横浜国大)

 ダイヤモンドは最も貴重な宝石として知られていますが、実は量子と呼ぶとても壊れやすい状態を長く保持する量子結晶としても貴重です。ダイヤモンドの欠陥に窒素を封じ込めたNV中心は、光の最小単位である光子の量子状態を電気の最小単位である電子へと量子テレポーテーションの原理で転写し、天然の量子メモリーとして機能します。このようなダイヤモンドの特殊な能力は、モノのインターネット(IoT)の情報セキュリティを量子力学と呼ぶ物理法則で絶対的に守るカンタムセキュリティを提供します。
 本講演では、量子暗号通信の長距離ネットワーク化に貢献する量子中継から、パスワードや証明書の不要な量子認証に至るまで、ダイヤモンドを利用した夢の技術を数々紹介します。これらの技術では、ダイヤモンドにおける光子、電子、核子の量子もつれを利用し、量子通信に用いる光子を量子メモリーとなるダイヤモンド中に量子テレポーテーションの原理で転写して長時間保存する、量子テレポーテーション転写を応用します。量子テレポーテーション転写とは、核子と量子もつれ状態にある電子に光子を吸収させるだけで、直接作用しない核子に光子の量子状態を転写し、10秒以上もの長時間保存可能なことを示す画期的な実験です。本実験は、量子中継の基本原理である量子テレポーテーションを極めて単純な原理で実現し、光子の量子状態を直接は届かない遥か遠方に高速かつ確実に再生かつ長時間保存できることを示唆するもので、物理法則で絶対的な安全性が保証された量子通信網の飛躍的長距離化・高信頼化に道を開くものと期待されます。

講演題目

デバイス開発発展に向けたダイヤモンド基板の現状と課題

講師

金 聖祐 (アダマンド並木精密宝石)

 美しい輝きで古くから人々を魅了し続けてきたダイヤモンドは、自然界で、もっとも輝く宝飾として、また、もっとも硬い物質として知られている。しかし、ダイヤモンドの魅力はそれだけではない。熱伝導性・絶縁特性・耐環境性において、他の物質に比べて圧倒的に優れた特性を有しており、高耐圧・低損失・高速に動作する次世代パワーデバイス材料として有望視されている。
 ダイヤモンドをパワーデバイスなど半導体用基板として用いる場合、既存半導体プロセスに適用できる基板サイズが求められる。ダイヤモンドは性質上、同種の下地基板上に成長させる、いわゆるホモエピタキシャル成長法を用いた場合、横方向より縦方向成長が支配的であり、大口径ダイヤモンド基板の作製は難しい。
 その一方で、大口径化に適した方法として異種材料を下地基板に用いるヘテロエピタキシャル成長法がある。しかし、ダイヤモンドと下地基板の間の物性値の差に起因する歪の制御に課題があった。当社では、ヘテロエピタキシャル成長法における歪を緩和する「マイクロニードル」法を独自に開発し、現在直径1インチのダイヤモンド基板の作製に成功している。 
 また、大口径基板研磨技術開発も同時に行なっており、デバイスグレードの基板加工技術も確立している。さらに、ダイヤモンド基板上のMOSFETの開発もスタートしており、予想を上回る成果が得られている。
 当日はダイヤモンド基板の現状と課題、当社のマイクロニードル法によるKENZAN DIAMOND(商標登録)の作製技術、デバイスグレードの研磨技術、MOSFETの電気特性について詳細に報告する。

講演題目

企業から見たダイヤモンドのデバイス応用への期待と課題
 -電子源・耐環境・高耐圧素子への取り組みから-

講師

酒井 忠司 (東芝)

 ダイヤモンドは、“究極の材料”としばしば表現される。硬度、熱伝導率、屈折率など、その極端な物性は、古くから知られ、宝石や工業用材料として、広く使われてきた。デバイス材料としての観点からも、ダイヤモンドは、極めて広いバンドギャップ(5.5eV)、負の電子親和力特性、炭素原子ならではの耐放射線性や耐スパッタリング性、さらに単体元素からなることによる結晶の高品質化可能性など、多様な魅力を有している。一方で、これらのユニークな物性は、ドーピングなどの伝導制御や絶縁膜形成、基板の加工や大面積化などの困難さと裏腹であり、デバイス応用は今も研究途上にある。しかし、ダイヤモンド合成以来の各種デバイスへの精力的な取り組みは、ダイヤモンド材料の物性への理解を深め、構造制御や高品質化などにブレークスルーをもたらし、新たな応用可能性広げるテクノロジードライバーとなってきた。本セミナーでは、これまでの多くのデバイス応用に向けた取り組みの中で、報告者がかかわってきた電子源、耐環境素子、高耐圧素子などの研究事例を中心に、企業からみたダイヤモンドのデバイス応用への期待と課題について考える。

講演題目

相補型パワーインバータに向けたダイヤモンド2次元正孔ガス高耐圧電界効果トランジスタ

講師

川原田 洋 (早稲田大)

講演題目

ダイヤモンド半導体ウェハの現状とデバイス展開

講師

梅沢 仁 (産総研)

 ダイヤモンドは優れた材料性能により、究極の半導体材料として古くから期待されてきた。その用途は幅広く、特に高周波増幅回路、低損失パワーデバイス、超高温エレクトロニクス、耐放射線性素子などでの大幅な性能改善が予想されている。1990年代後半からの気相成長(CVD)技術の成熟により、高品質な単結晶エピタキシャル成長や安定した不純物ドーピングが可能となり、ダイオードや電界効果型トランジスタ等のテスト素子で高温動作や過酷環境性能など、Siをはじめとする既存半導体では難しかった特徴が示されている。
 弊所ではダイヤモンドエレクトロニクスの産業化を見据えて、ウェハの大型化および各種デバイス性能の実証研究を行ってきた。CVDによる単結晶ダイヤモンド成長技術をベースとしたウェハ開発ではダイヤモンドソーによるスライシングが不要なスマートカット法や、これを応用したモザイク法を用いて2インチまでの大型化が可能となっており、一部の技術はすでに実用化に成功している。また、冷却機構を大幅に簡易化できるパワーエレクトロニクスを目標として、高温かつ長期安定性(400℃、1500時間以上)を有するショットキー電極の開発や、450℃の高温でも動作可能な金属-半導体電界効果型トランジスタを開発している。耐熱性脳を持つ電界効果型トランジスタは10MGyのX線を照射しても大きなドレイン電流劣化が無いことが確認できており、原子炉事故などの過酷環境においても素子が生存できる可能性が示されており、新たな用途が見え始めている。
 本講演では、ウェハおよびパワーデバイス、耐環境デバイスの開発状況について述べるとともに、課題や今後の展開について紹介する。

更新:2018/3/20