2015年秋季「産学協働の広場―企業の課題相談会―」ご報告

開催日時: 2015年9月14日(月)午後1時30分~5時
開催場所:名古屋国際会議場1号館3階ロビー
主催:産学協働研究会
後援:文部科学省
 
第76回応用物理学会秋季学術講演会期間中に、「産学協働の広場―企業の課題相談会―」と題して新しい形式のイベントを行った。通常の産学連携のイベントは、学または官の研究者が自らの研究成果(シーズ)を展示し、それを企業関係者が見て回る形式であるが、本イベントはその逆、すなわち企業関係者が自らの課題(ニーズ)を展示し、学または官の研究者が見て回るものである。
産業界から学・官の研究者に課題を伝える場は日本では圧倒的に不足している。これを推進する産業界の努力も今まで十分だったとは言えない。本イベントはこのような認識のもと、産から学・官に企業がモノ作りの現場で抱える課題を伝える場を提供し、産学官による議論、交流を促進するとともに、企業を応物学会に呼び戻すきっかけとすることを目的とした。
初回となる今回には、課題提示団体として、下記団体に参加頂いた。
  • トヨタ電池研究部: ①全固体電池の界面のキャリア欠乏層の観察技術
                                  ②電池用カーボン材料の構造解析とモデル材料
  • 界面ナノ電子化学研究会:半導体ウェットプロセス
  • 大陽日酸㈱GI化合物事業部:金属・半導体界面、電気特性評価
  • イオンラボ株式会社:新形式の固体イオン源の実用化
  • 新日鉄住金&JPARC:構造材料領域から、物性物理への問いかけ
会場ではポスターにて課題を提示頂き、来場する学・官を中心とした研究者とオープンな議論が行われた。またクローズドの議論は、ポスター掲示のパネル後方に用意したブースで行うこととした。会場は経費節約のため「キャリア相談会」の会場を流用させて頂いた。「キャリア相談会」、(株)日刊工業コミュニケーションズ、応物事務局の各関係者の方々には本イベント成立のために多大なご尽力を頂いた。
来場者は開催時間の3時間半の間、途切れることなく続いた(下記写真参照)。来場者から回収されたアンケート結果からは本イベントが好評であることがうかがい知れ、継続を希望する声も多かった。また、展示参加団体からは、多くの有用な議論ができ非常に有意義だったので次回も参加したい、との感想を多く頂いた。
本イベントにて産学官の研究者と話すなかで、応物の産学連携における課題も見えてきた。主に二つをあげる。一つ目は、大学人と企業の基礎研究に対する認識の逆転現象である。今回の課題展示では公開であることもあり、材料物性の基礎を問うものが少なくなかった。基礎的な材料物性の把握がなければその材料を用いた製品設計は精度を欠くことになるから、産業界の要望は切実である。しかし、この要求に対し学の研究者からは、このような基礎物性は短期で論文が書けず、またインパクトのある論文になりにくいので、研究することは難しいとの回答があったとのこと。ここに、基礎に立ち返って課題の根本解決を図ろうと考える企業と、インスタントな成果を狙って評価を上げようとする大学研究者の間の、基礎研究に対するスタンスの逆転現象が見て取れる。応物学会に所属する非常に多様な研究者のなかには、材料の基礎物性に興味を抱き地道な研究を重ねることを厭わない研究者も存在するはずである。そのような研究者にこのような企業の基礎研究志向を如何に伝えるか、が当研究会に課せられた課題である。
二つ目は、産業界のパラダイムシフトである。エレクトロニクス産業では近年、産業が技術主導ではなくコンセプトまたはアイデア主導となっている。産業を技術が主導していた時代には企業は次世代の技術を得るために応物学会に来たが、今は来なくなった。学会の中で、将来ビジョンや次世代コンセプトと、技術をつなぐ仕組みを作る必要があると思われる。
初回を開催しての反省としては、事前の広報が行き届かなかったことが大きい。新イベントの目的や形式がポスターから読み取れなかった、各展示者の内容が事前にわかっていれば当該分野の研究者の参加を促すことができたのでは、などのご指摘を受けた。次回以降、改善していきたい。
本イベントの一つ目のゴールは、応物学会の様々なセッションで企業が必要とする研究発表が行われ、企業が応物に戻ってくることである。本イベントは盛況であったが、これに向けた課題も多く見つかった。今後の研究会活動の課題としたい。そして応物学会での産学連携による新産業形成につなげて行きたい。
 
当日の様子を写真にて下記に示す。
写真1:手前の2パネルがトヨタ電池研究部、奥が界面ナノ電子化学研究会。
 
 
写真2:手前から大陽日酸㈱GI化合物事業部、イオンラボ株式会社、新日鉄住金&JPARC。