設立趣旨

応用物理学会の前身である応用物理談話会が発行した「応用物理」創刊号(1932年7月)に長岡半太郎、本多光太郎、大河内正敏の三先生が寄稿され、工学と物理学の接点としての応用物理学の重要性を説いておられます。このように応用物理学会は、その設立当初から産業界と学界の協働を基軸に置いていました。半導体に代表されるエレクトロニクス産業と応物の関係がまさにそうでした。かつて応物学会では材料、プロセス、デバイスに至る各セッションが活況を呈し、各企業とも互いに切磋琢磨して発表を競い、動向を探り、学会活動を活性化していました。

しかしバブル崩壊後の日本の産業界の業績低迷からこの20年間、応物学会における企業発表は激減し、企業会員の数も半減するようになりました。多くの企業は長期的な視野に立つ研究を縮小し、コストダウン研究、後追い研究に汲々としています。地道に基礎研究を行っている企業も、その成果発表は国際会議に限るなど、応物離れが加速しています。応物学会の発表は大学など公的研究機関によるものが多数を占めるようになり、しかもこれらの発表の多くが産業や市場の興味から乖離する結果、企業からの学会参加者が減少するという悪循環に陥っています。

このような状況を踏まえ、応用物理学会が本来持つ産学協働ミッションを活性化させるべく、産学協働研究会を設立しました。目的は以下の二つです。ひとつは産学協働・産学連携それ自体を一つの学問として議論する場を提供することです。産学協働に関わるあらゆるテーマ――自己啓発、失敗評価、技術評価(目利き)、知的財産、技術移管、ファンド、ベンチャー起業、中小企業の役割、地域連携、科学技術政策、市場創造、環境戦略、経営、社会心理学、技術史――を議論したいと思います。学際的な新学問分野として今後大いに発展する可能性があると思います。

もう一つは、産学協働の方向性を示し、その端緒となる場を具体的に提供することです。産-学、産-官のみならず、大企業と中小企業、システムとデバイスなどの産-産、あるいは基礎研究と量産研究などの学-学、はては戦略的な学-官に至る出会いの場を創出し、さまざまな分野を横断する人的ネットワークを形成したいと思います。この目的の達成のため、これから伸びると考える技術分野を取り上げ、垂直統合的な顔ぶれによるユニークな研究会企画を打ち立てて行きたいと思っています。産学協働研究会員そのものが、技術ソムリエ(目利き)になっていくのです。

こうした目的を達成するため、産学協働研究会は定期的にシンポジウム、ワークショップを開催したいと思います。企画段階から企業関係者に入っていただき、企業にとって魅力的な応物学会となるような回路を構成したいと願っています。応用物理学会内の分科会や日本学術会議、産業界の各種団体とも連携を図って行きます。

国際化を中心に、産業構造の変遷には著しいものがあります。学問と産業を繋ぐという応物学会本来のミッションを取り戻すために、産業界の動きそのものを学問として学会に取り込んで行く必要があります。本研究会の設立が応物学会に新しい潮流を引き起こし、企業の方々が再び応物学会に帰って来て下さる端緒となることを願って止みません。