第二回 「薄膜・表面物理分科会 論文賞」及び「奨励賞」 受賞論文決定のお知らせ

審査の結果,以下の通り第二回「論文賞」および「奨励賞」の受賞論文が決定致しましたのでお知らせ致します。数多くの優れた論文のご推薦をありがとうございました。
尚,2018年3月の応用物理学会春季学術講演会の会場にて,両賞の表彰式ならびに受賞記念講演を予定しておりますので,是非ご聴講ください。

1.「薄膜・表面物理分科会 論文賞」受賞論文

受賞者:一ノ倉 聖(東京大学)、菅原 克明(東北大学)、高山 あかり(東京大学)、高橋 隆(東北大学)、長谷川修司(東京大学)
受賞論文:“Superconducting Calcium-Intercalated Bilayer Graphene” , ACS Nano, 10, 2761-2765 (2016).

受賞理由:グラフェンとは1原子層の極薄炭素シートであり、2005 年に初めて単離された。極めて高いキャリア移動度や力学的強度を持つことが実証され、応用物理の重要テーマへと発展した。グラフェンはアルカリ金属等の添加により超伝導化すると理論予測されていたが、添加物が大気中で不安定なため実証されていなかった。本論文では、候補者らは表面科学技術を結集し、同一の超高真空装置内で元素ドーピングと超低温電気抵抗測定を「その場」で行い、この問題を解決した。その結果、カルシウムの添加による2層グラフェンの超伝導化に世界で初めて成功した。この成果は、2次元物質の基礎研究及び超高速超伝導ナノデバイスへの応用展開に寄与するものであり、薄膜・表面物理分科会論文賞に値する。

2.「薄膜・表面物理分科会 奨励賞」受賞論文

受賞者:宮田一輝(金沢大学)
受賞論文“Dissolution Processes at Step Edges of Calcite in Water Investigated by High-Speed Frequency Modulation Atomic Force Microscopy and Simulation”, Nano Letters, 17, 4083-4089 (2017).

受賞理由:本論文では、従来の50倍の速度で液中原子分解能観察が可能な高速周波数変調原子間力顕微鏡(高速FM-AFM)を開発し、純水中におけるカルサイト(CaCO3)の溶解過程を原子レベルでかつ2s/frameの速度で観察することに成功した。さらに得られたFM-AFM像から、単分子ステップに沿って幅数nmの遷移領域が、溶解過程における中間状態として形成されることを世界で初めて発見した。また、反応シミュレーションも行い、緻密な考察がなされている。本論文で開発された高速FM-AFMは鉱物、有機分子、生体分子の結晶成長・溶解、金属腐食や触媒反応など様々な固液界面現象の原子レベルでの直接観察を可能とし、幅広い学術・産業分野での研究の進展に貢献することが期待され、薄膜・表面物理分科会奨励賞に値する。

 

薄膜・表面物理分科会 表彰委員会

吉村 雅満(豊田工大,委員長)
市川 昌和(東京大)
一宮 彪彦(名古屋大)
越川 孝範(大阪電通大)
笹川 薫(コベルコ科研)
住友 弘二(兵庫県立大)
高桑 雄二(東北大)
橋詰 富博(日立製作所)
本間 芳和(東京理科大)
武田 さくら(奈良先端大,庶務担当)

更新:2018/1/4