第5回 「薄膜・表面物理分科会 論文賞」及び「奨励賞」 受賞論文決定のお知らせ

審査の結果,以下の通り第5回「論文賞」および「奨励賞」の受賞論文が決定致しましたのでお知らせ致します.数多くの優れた論文のご推薦をありがとうございました.
受賞を記念して2021年春季講演会において受賞記念講演が実施されます.

1.「薄膜・表面物理分科会 論文賞」受賞論文

茂木 裕幸(筑波大学),汪 子涵(筑波大学),番場 隆文(筑波大学),髙口 裕平(東京都立大学),遠藤 尚彦(東京都立大学),吉田 昭二 (筑波大学),谷中 淳(筑波大学),大井川 治宏(筑波大学),宮田 耕充(東京都立大学),武内 修(筑波大学),重川 秀実(筑波大学)

受賞論文:“Development of laser-combined scanning multiprobe spectroscopy and application to analysis of WSe2/MoSe2 in-plane heterostructure”, Applied Physics Express 12, 045002 (2019).

受賞理由:マルチプローブ技術と光技術を組み合わせ,単原子層面内ヘテロ構造において,バンド配置を見積もった上で ps ~ nsスケールの幅広い光キャリアダイナミクスを明らかにしたものである.複数の探針を直接接触させて局所的な伝導特性を得る多探針法は強力な物性評価手法となっているが,本論文では,それをさらに発展させ,AFMカンチレバーを用いた単原子層材料への非破壊接触や,除震技術を含めた多探針測定系とフェムト秒パルスレーザー光学系の開発により,多探針による光変調計測や光ポンププローブ計測を実現した.これにより,単原子層材料においても電子物性評価,そして静的過程から超高速領域までの幅広い光応答評価手法として有用であることを示した.グラフェンに代表される単原子層材料が世界的に注目を集める中, 局所光応答計測へ向けた強力なツールとして寄与することが期待される技術を提案した本論文は,薄膜・表面物理分科会論文賞に値する.

受賞記念講演:
「光励起多探針技術の開発と低次元半導体評価への応用」
16p-Z15-6
3月16日15:00~15:30
中分類6.6 プローブ顕微鏡
セッション:Z15

2.「薄膜・表面物理分科会 論文賞」受賞論文

賈 軍軍(青山学院大学),数金 拓已(青山学院大学),中村 新一(青山学院大学),重里 有三(青山学院大学)

受賞論文:“p-type conduction mechanism in continuously varied non-stoichimetric SnOx thin films deposited by reactive sputtering with the impedance control”, J. Appl. Phys. 127, 185703 (2020).

受賞理由:機能性化合物成膜法として反応性スパッタリングに放電インピーダンスの 超高速でのin-situフィードバックシステムを構築し,p型 SnOの再現性の高い安定した成膜方法を確立した.さらに,成膜プロセスに工夫を重ねることで,p型SnOとn型SnO2両方の高性能な酸化錫薄膜を連続的に成膜することに成功した.また,これらの薄膜の中にp型とn型の両方が共存するときに,界面接合がキャリアホールの伝導機構へどのような影響をあたえるかに関してモデル化した.本成果は,同じ成膜プロセスで酸化物のp-n接合界面の作成が可能で,ハイスループットでの大面積生産も可能になることから,電子デバイスの量産プロセスとしての実用化が期待できるものであり,薄膜・表面物理分科会論文賞にふさわしいものと考える.

受賞記念講演:
「反応性スパッタによるSnOx薄膜のキャリアの発生源と伝導機構」
16a-Z33-1
3月16日9:00~9:30
中分類6.3 酸化物エレクトロニクス
セッション:Z33

3.「薄膜・表面物理分科会 奨励賞」受賞論文

山口 淳一(富士通研究所)
受賞論文:“Small bandgap in atomically precise 17-atom-wide armchair-edged graphene nanoribbons”, Communications Materials. 1, 36 (2020).

受賞理由:グラフェンナノリボン(GNR)は,その幅によってバンドギャップエネルギーを変えられる半導体であるが,これまで得られていたのは,幅が数原子と細くバンドギャップが2~4eVと大きなGNRばかりであった.本論文では,前駆体を用いたボトムアップ合成により,1 eV以下のバンドギャップを有する,リボン幅が17炭素原子のアームチェアエッジ型GNR(17-AGNR)の合成を実現している.表面・エッジの重要性を示しながら新規の薄膜材料を実現した極めて優れた業績であり,薄膜・表面物理分科会論文賞奨励賞に値する.

受賞記念講演:
「N = 17 アームチェアエッジグラフェンナノリボンの電子状態評価」
16a-Z31-7
3月16日10:45~11:00
中分類17.2 グラフェン
セッション:Z31


薄膜・表面物理分科会 表彰委員会
審査委員
住友 弘二(兵庫県立大,審査委員長)
市川 昌和(東京大)
一宮 彪彦(名古屋大)
越川 孝範(大阪電通大)
高桑 雄二(東北大)
繁野 雅次(日立ハイテクサイエンス)
本間 芳和(東京理科大)
武田 さくら(奈良先端大)
中塚 理 (名古屋大)

更新:2021/3/15