第1回 「薄膜・表面物理分科会 論文賞」及び「奨励賞」 受賞論文決定のお知らせ

審査の結果,以下の通り第一回「論文賞」および「奨励賞」の受賞論文が決定致しましたのでお知らせ致します。数多くの優れた論文のご推薦をありがとうございました。
尚,2017年3月の応用物理学会春季学術講演会の会場にて,両賞の表彰式ならびに受賞記念講演を予定しておりますので,是非ご聴講ください。

・表彰式および論文賞記念講演:3/16(木)13:30〜
・奨励賞記念講演:3/17(金)10:45〜

1.「薄膜・表面物理分科会 論文賞」受賞論文

受賞者: 根岸 良太(大阪大学),赤堀 誠志(北陸先端科学技術大学院大学),伊藤 孝寛(名古屋大学),渡辺 義夫(あいちシンクロトロン光センター),小林 慶裕(大阪大学)
受賞論文:“Band-like transport in highly crystalline graphene films from defective graphene oxides” , Scientific Reports 6, pp. 28936-1~10 (2016)

受賞理由: 本論文では、酸化グラフェン(GO)薄膜の還元・欠陥修復法として1000℃を超える超高温でのエタノール中加熱処理法を新規に提案し、これまでの真空中/不活性ガス中の加熱、あるいはヒドラジンなどによる還元法では避けられなかった欠陥残留を低減し、結晶性を著しく向上させた。さらに、グラフェン本来の特性を反映したバンド伝導の観察に初めて成功している。同時に、X線吸収分光法、光電子分光法、透過型電子顕微鏡などの表面分析技術を駆使し、精緻な物性解析を行っている。以上のように、本研究は、薄膜表面物理の観点からナノカーボン科学の進展に大きく寄与するものであり、薄膜・表面物理分科会論文賞に値する。

2.「薄膜・表面物理分科会 奨励賞」受賞論文

受賞者: 山原 弘靖(東京大学)
受賞論文:”Spin-glass behaviors in carrier polarity controlled Fe3-xTixO4 semiconductor thin films”, J. Appl. Phys. 118 (6) 063905 (2015)

受賞理由: マグネタイト(Fe3O4)は、理論的に100%スピン偏極率を持つスピントロニクス材料として期待されるが、一般にその伝導機構はn型伝導を示し、p型伝導を示す薄膜試料はごく限られた事例に留まっていた。本論文では、非平衡薄膜結晶成長技術を駆使してTi4+/Ti3+を制御導入することで電気伝導を担うFe2+/Fe3+価数比を系統的に制御可能にし、Fe-Ti系マグネタイトにおいてp-n型伝導マグネタイト単結晶薄膜の合成に成功している。さらに高濃度にFeサイトをTiにより置換した試料において、スピングラス相に特有の来歴記憶現象を見出し、新規メモリへの可能性を示している。以上のように、本論文は、薄膜・表面物理研究の、強磁性/スピングラス材料合成、物性制御そして新規メモリ応用への寄与を示したものとして、薄膜・表面物理分科会奨励賞に値する。

 

薄膜・表面物理分科会 表彰委員会

吉村 雅満(豊田工大,委員長)
市川 昌和(東京大)
一宮 彪彦(名古屋大)
越川 孝範(大阪電通大)
笹川 薫(コベルコ科研)
住友 弘二(兵庫県立大)
高桑 雄二(東北大)
橋詰 富博(日立製作所)
本間 芳和(東京理科大)
喜多浩之(東京大,庶務担当)

更新:2016/12/26