幹事長挨拶
第37-38期幹事長 本間 芳和
平成20年4月より2年間、重川幹事長のあとを引き継ぎ、薄膜・表面物理分科会の幹事長を務めることになりました。本分科会は1970年に設立され、諸先輩のご努力により大きく発展してきました。その伝統の重みを思うほど、さらなる発展を担う責任を感じております。
私自身は、これまでの30年の研究活動で、表面分析の研究から半導体表面構造や結晶成長過程の研究と、薄膜、表面物理それぞれに関係の深い領域を歩んできました。本分科会とは、1998年に講演会分科「薄膜・表面」の代表世話人として常任幹事を務めてからの関わりになります。その中でもより表面物理寄りの道を歩んできたわけですが、2000年以降には表面物理の研究からナノチューブの研究に「パラダイム・シフト」しました。しかし、カーボンナノチューブをはじめとする一次元ナノ構造の形成機構を追求していくと、結局、触媒と呼ばれる微粒子のナノスケールの表面における物質輸送や反応がキーとなっていることが明らかになってきました。平坦表面を記述する方程式に曲率や境界条件を当てはめるとナノの世界を扱えるということです。表面物理から飛び出して、また古巣に戻った思いです。形の上では、新しきを訪ねて古きを知ったのですが、表面物理に座標を移すと、正に温故知新です。
この例を出すまでもなく、表面・界面は材料創成の根源であり、それが平面であるかナノ曲面であるかで、生成する構造を規定しています。また、本分科会の中の大きな勢力である走査プローブ顕微鏡法は、観察法のみならず原子・分子操作、さらには化学反応の操作のツールとして、これからのナノサイエンス、ナノテクノロジーの展開に欠くことのできないものになっています。一方、薄膜材料でも、究極の薄膜といえる原子層1層の薄膜、グラフェンシートが安定して空間に保持できることが見いだされたことにより、その物性や応用が精力的に研究されています。また、ナノシートと呼ばれる一連の新しい薄膜材料も関心を集めています。これらの場合、薄膜と表面が一体化されたものになっています。
このように、本分科会はナノサイエンス、ナノテクノロジーの基盤に関わるトピックスをふんだんに扱っています。研究テーマは際限なく広がり、この分野の役割は今後ますます重要になると考えられます。
さて、本分科会の主な活動は、(1)春、秋の応用物理学会におけるシンポジウム、(2)「薄膜・表面物理セミナー」、(3)「薄膜・表面物理基礎講座」、(4)特別研究会や研究会の企画と開催、および(5)薄膜・表面物理に関する国際会議の主催、共催や協賛、などです。また、分科会会誌として「News Letter」を年3回発行しています。これらを通じて、会員の皆様に本分科会ならではのサービスを提供するように努めています。しかし、ここ数年、分科会会員の数が伸び悩み、減少傾向にあることは事実ですので、会員の皆様とのパイプを強固にし、分科会活動をいっそう盛り上げていく必要があります。本分科会が扱う分野が学際的であるため、外にも重なる領域を扱う学会や応用物理学会内の研究グループ等がありますので、競合ではなく協調により活動範囲を広げ、会員を増やしていくことが必要です。
ここで、私たちが応用物理学会の中の分科会であることは大変重要な意味を持ちます。会員25,000人の大きな影響力を持った学会の中で、ナノサイエンス、ナノテクノロジーの基盤を担う分科会として、応用物理学会の活動を支えていかなければなりません。会員の皆様にとっては、分科会は巨大な応用物理学会への大切なアクセスポイントの一つです。分科会活動への積極的なご参加を通して、応用物理学会全体の活動の発展と方向付けにお力添え下さいますよう、お願いいたします。