応用物理学会「トータルバイオミメティクス研究会」

バイオミメティクスの歴史は古く、生体の構造や機能から着想を得た多くの製品や技術が生み出され、科学技術の発展に大きく貢献してきました。現在においても、人工知能、人工筋肉、嗅覚・触覚センサ、さらには物理リザバーコンピューティングなど、生体の情報処理、運動機能、感覚機能に学ぶ技術は目覚ましい発展を続けています。

実際の生体システムでは、検出、情報処理、応答といった異なる機能がシームレスに統合され、極めて低い消費エネルギーで動作しています。このような生体の情報処理は、単なるデジタル計算とは異なり、ゆらぎ、非線形性、再帰的なフィードバック、階層構造を巧みに活用していると考えられます。近年注目されている物理リザバーコンピューティングも、材料やデバイスが持つ非線形ダイナミクスを計算資源として活用する点で、生体に学ぶ情報処理の新しい方向性の一つと位置づけることができます。

その根底には、ゆらぎの活用、確率共鳴、多様な階層構造、そして機能間の境界を越えた異機能調和があります。小さなスケールで見れば、イオンの移動やパルス信号の伝達が生体情報処理の基礎を担っています。しかし、それらの要素的な動作原理を追うだけでは、生体が示す柔軟で複雑な機能を十分に理解することはできません。一方で、大きなスケールから見ると、生体という複雑なシステムに入力を与え、その出力を観察することで現象を捉え、そこから仮説を構築する研究が進められてきました。

トータルバイオミメティクスは、個々の生体機能を個別に模倣するだけでなく、それらを総合的に俯瞰し、シームレスな情報の受け渡し、ゆらぎの中に現れるリズム、異機能間および同種機能間の再帰的な循環を重要なキーワードとして捉えます。そして、単なる現象論にとどまらず、生体システムの本質的な原理を材料・デバイス・システムとして具現化することを目指します。そのためには、閉じた領域の中で自己を維持しながら変化し続けるオートポイエーシス的な考え方を、材料、デバイス、システム設計に取り入れていくことが重要ではないでしょうか。

爆発的に増大する情報量と消費エネルギーの問題に対し、自然や人、生物に真にやさしい技術と社会を、生体に学びながら創り出していくことが求められています。この概念を学理として構築し、社会の中で実際に活用していくためには、トータルバイオミメティクスという新たな研究基軸が重要になると考えています。

このような考えのもと、大学・研究機関・企業と様々な分野にご賛同いただいた31名で本グループは2020年1月発足しました。

2026年4月現在、メンバーが140名を越え、人工知能に関わらず生体と材料・科学技術との融合に興味を持っている方が多いことを実感しています。

代表あいさつ

バイオミメティクスは、生体の構造や機能に学び、多くの機能性製品や科学技術を生み出してきました。現在も、人工知能、人工筋肉、嗅覚・触覚センサ、物理リザバーコンピューティングなど、生体に学ぶ技術は大きく発展しています。

一方で、真に自然と調和し、人に親和的な技術を実現するためには、個々の生体機能を模倣するだけでなく、生体システム全体を総合的に捉える視点が重要です。本領域グループでは、「ゆらぎの許容」、「シームレスな異機能調和」、「再帰循環」をキーワードに、材料・デバイス・システムへ展開する新しい研究基軸として、トータルバイオミメティクスを提案しています。

本領域グループは、この考えに関心を持つ大学・研究機関・企業の多様な分野のメンバーにより発足しました。生体に学び、自然調和性・人親和性に優れた技術と社会の実現を目指す方々のご参加を心よりお待ちしております。

                                        

2026年1月 大阪大学 神吉 輝夫

神吉 輝夫
大阪大学