Subcommittee activity report
2016年第77回応用物理学会秋季学術講演会フォトニクス分科会シンポジウム報告書
「フォトニクスの未来を担う研究者」
Symposium of Photonics Division, “Researchers pioneering next-generation photonics
日時:2016年9月14日(水)13:15 – 18:00
場所:朱鷺メッセ(新潟県新潟市)A41会場
文責:塩田達俊(埼玉大学)
フォトニクス分科会発足記念シンポジウムⅡとして、フォトニクスの分野の将来を支える女性研究者と若手研究者に最新研究成果とフォトニクスの夢を語っていただく場として企画されたシンポジウムは開催当日を迎えた。当日は日本列島に秋雨前線が停滞する中に晴天の秋空の下で新潟市朱鷺メッセのシンボル的なスペースである国際会議室(マリンホール)においてシンポジウムは開催された。9件の招待講演に対して、参加者数がのべ150名以上に上る盛況となる中で、活発な議論が交わされた。
各講演の概要は次の通りである。
13:15-13:45 14p-A41-1
「ナノ物質中電子系の光誘起協力現象とフォトサーマル・フルイディクス」
飯田 琢也(大阪府大院理), 床波 志保(大阪府大院工)
光アセンブリング(光照射下での動的過程制御技術)を用いて、金属や半導体ナノ粒子の自己組織化を制御する研究が紹介された。局在表面プラズモン由来の超放射を観測した例や、DNA光誘起協力現象 金属ナノ粒子のLSP協力現象による光発熱効果を利用して、たんぱく質の相転移と光制御、DNA検出の可能性が示された。ナノ物質の協力的光発熱効果を通じて内部電子系の特性をマクロな流体力学的現象に変換して利用する「フォトサーマル・フルイディクス」の基礎研究であり、幅広いバイオ応用への期待が語られた。
13:45-14:15 14p-A41-2
「半導体中 2 準位系の量子制御-高感度光検出磁気共鳴顕微鏡の開発-」
早瀬 潤子(慶大理工)
窒素空孔中心(NV 中心)を持ったダイヤモンドはよく光るうえ、その局在した電子スピン3重項状態は長いスピンコヒーレンス時間を有することを特徴とする。狭い局在領域に起因してナノメートルオーダーの分解能をもつ。磁気共鳴遷移のマイクロ波周波数シフト量をモニターすることで交流磁場センシングに応用することが可能になる。マイクロ波の照射条件と交流磁場の制御によって電子スピン状態を高度に量子制御しながら磁気共鳴を測定できるアンテナを作製し、NV中心を微細加工した基板と組み合わせた磁気共鳴顕微鏡が紹介された。また、スピンエコーやラビ振動の現象を観測する実験結果として紹介された。
14:15-14:45 14p-A41-3
「フォトニック結晶レーザによる偏光・位相・偏向制御とその展開」
北村 恭子(京都工繊, 京大院工), 野田 進(京大院工)
2次元平面のフォトニック結晶内で共鳴させるとレーザー光をシングルモード発振させることができうえに、ワット級の出力が得られる。
フォトニック結晶内の欠陥配列を制御すると、高次ベクトルビームの生成や径偏光ビームの生成が可能であることが紹介された。さらに、フォトニック結晶リング共振器レーザーとするとドーナッツビームを小さくすることができ長焦点特性を得ることができることや、フォトニック結晶レーザーの出射面に空間位相変調パターンを作製することでラゲールガウシアンビームを発生することができることが紹介された。変調フォトニック結晶に複数集積された電極の駆動制御により2次元ビーム走査が可能であることが示された。
14:45-15:15 14p-A41-4
「メタマテリアルによる将来のフォトニクス技術」
雨宮 智宏, 荒井 滋久(東工大)
リング状導体の構造設計により高周波に対する誘電率と透磁率の設計が可能であることが説明された。誘電率に加えて透磁率も制御できることで大きな屈折率の変調度が得られるのでデバイスの小型化が可能となることや、スローライトへの応用が紹介された。
また、フィルム上に数100nmオーダーでメタマテリアルが配列したメタフィルムの積層により比較的簡単に光学迷彩への適用可能性が紹介された。また、メタサーフェスは波長依存性が低いという特徴があり、これを優位性とした新規な機能性光学素子として空間位相変調器への応用が紹介された。
15:30-16:00 14p-A41-5
「空間光変調器を用いて高精度に生成した光渦による微粒子マニピュレーション」
兵土 知子, 安藤 太郎, 豊田 晴義(浜ホト中研)
空間位相変調器(LCOS-SLM)を応用した高次ビーム生成と光マニピュレーション技術が紹介された。応用例として空間位相変調器の制御プログラムとマウス操作によるビーズ制御の様子が示された。そして、LCOS-SLMを用いた高精度なラゲールガウシアンビームの生成により、光のみによる3次元のビーズの補足と円運動の制御が可能であることが、実験により示された。また、ビームウェストから半波長ずれた位置に光トラップされること、集光点における偏光の影響を評価した結果が紹介された。
16:00-16:30 14p-A41-6
「化学イメージング ~飛行時間型二次イオン質量分析(ToF-SIMS)イメージングと近接場赤外顕微鏡~」
青柳 里果(成蹊大理工)
飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)、近接場赤外顕微鏡(NFIR microscope)、多変量解析を組み合わせて化学イメージング法について、空間分解能、化学種同定の精度、定量性を相補的に向上した結果が示された。医療用に用いられる透析用の膜の血液透過による吸着物質の評価に適用した結果が紹介された。
16:30-17:00 14p-A41-7
「光パルスを駆使して無染色生体顕微鏡を超高速化する」
小関 泰之(東大院工)
誘導ラマン散乱 (SRS) を用いて透明生体試料内部を観察できる高感度なラマン分光イメージの研究成果が報告された。マウス肝臓を例にパルス光源の波長走査を高速に行うことで、ビデオレートで観察した例が報告された。後半は研究テーマの発想に至った経緯を経歴から紹介され、今後の夢として内閣府ImPACTプロジェクトに関連してスーパーみどり虫の研究につなげることが語られた。
17:00-17:30 14p-A41-8
「高速レーザー分光法による太陽電池での光励起キャリアダイナミクスの解明 -量子ドット太陽電池とペロブスカイト太陽電池について-」
沈 青(電通大基盤理工)
ヘロブスカイト太陽電池は、直接励起、低いバンドギャップ、長い励起子寿命と拡散長、欠陥が少ないという特徴があり、エネルギー変換効率22.1%を記録し進化し続けている。量子ドット太陽電池とペロブスカイト太陽電池のキャリア寿命と電荷分離と再結合、光励起キャリアダイナミクスを高速レーザーによる過渡吸収分光法を用いて行った調査結果が示され、高い電荷分離効率がある一方電荷収集効率が低いため 今後光電変換特性を向上するための指針が報告された。
17:30-18:00 14p-A41-9
「フォトニクスが拓くミリ波・テラヘルツ波計測」
久武 信太郎(阪大院基礎工)
CWミリ波・テラヘルツ波を用いたサンプルの過渡応答を可能にするために、精密なスペクトル計測技術として自己ヘテロダイン法を提案して振幅と位相スペクトルを計測することを可能にした。位相計測結果を用いればイメージングも可能である。また、電界可視化技術に応用し、アンテナ近傍界や遠方界について30 GHzから500 GHzの範囲で実験とシミュレーションの結果が示された。さらに、波長よりも小さな穴や構造体で構成されたメタマテリアルや誘電体の異常透過の様子を実験的に解析することに成功した結果が報告された。また、将来に電界可視化技術の実用化に向けてテラヘルツICとアンテナの集積化や非同期での計測方式等の展望が語られた。