歴代幹事長

初代幹事長のあいさつ

シリコンテクノロジー分科会の発足にあたって

シリコンテクノロジー分科会
初代幹事長  服部 健雄(武蔵工業大学)

20世紀におけるコンピュータの出現は、多種多様な情報の高速処理を可能とし、通信技術と結合して情報で世界を結んだために激動する現代を産み出した。その影響は、政治経済文化を含めた幅広い分野に及んでいる。そもそもコンピュータは、データとプログラムを記憶させ、これを逐次読み出して処理するというノイマン型アーキテクチャーを、ディジタル技術とシリコンテクノロジー分科会が対象としている半導体集積回路技術との融合により実現したものである。半導集積回路技術が現在のように高度に洗練されたものとなっていなければ、コンピュータも現在のものとは異なっていたであろうし、その結果として情報化社会も現在のものとは異なった形態をとっていたことであろう。換言すれば、半導体集積回路技術の進展により微小化と集積化が進み、その結果誕生した可搬性と信頼性のある高密度集積回路が、今日の高度情報化社会を支えていると言える。

技術の発達が、芸術や科学に大きな影響を及ぼした例は多い。たとえば、予め調合した絵の具を注入した錫製チューブ入り絵の具がイギリスで開発された結果、画家が自分で顔料を砕いて練りあげるという作業から開放され、光の降り注ぐアトリエの外で絵が描けるようになった。それまでは、自然を記録しようと思ったら水彩ですばやくスケッチし、アトリエに持ち帰って仕上げるしかなかった。印象派の誕生には、このような背景があった。また、19世紀の後半ヨーロッパ諸国の中で産業革命に遅れをとったドイツが、国策として鉄鋼業に取り組むこととなった。そこで、高品質の鉄鋼を得るために溶鉱炉の温度の精密制御が必要となり、ベルリン物理工学国立研究所を中心に熱放射のスペクトル測定を行ったことが後にプランクの量子仮説に繋がっていく。しかし、コンピュータを介して社会に広範な影響を及ぼした半導体集積回路に匹敵するほどの例は、過去にはなかったのではないかと思われる。
半導体集積回路は、コンピュータ以外にも、マイコンゲーム、各種カードシステム、ロボット、大規模工場自動化システム、CAD、通信網のディジタル化とインテリジェント化による高度情報通信システムといわゆるカスタマアクセスと呼ばれる各種サービスの総合化を目指した総合ディジタル通信網(ISDN)システムなど幅広い需要に支えられている。このような半導体集積回路の応用がさらに広がって、しい芸術や科学の創造の起爆剤となることは十分にあり得ることである。

いままさに波乱万丈の20世紀が幕を閉じ、21世紀の入り口にさしかかりつつある。半導体集積回路技術により、いまやナノスケールの構造形成が可能となってきた。今後は、この技術を適用することにより、多種多様な超小型高機能デバイスが組み込まれた機器が多数登場するであろうし、またバイオエレクトロニクスとの融合も始まろうとしている。まことに、夢多き時代に突入しつつある。シリコンテクノロジー分科会の前途は洋々である。

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